Armed angel #21 二期(第二十二〜二十五話) ニルティエ+刹那+リジェネ
最終決戦とそれぞれの戦後。
全六回。その1。ほぼあらすじ。
ラグランジュ2へのアロウズ艦隊集結の一報を、カタロンの宇宙艦隊は双方から受けた。ジーンワンことライルからはCBがそのポイントへと向かうことを、連邦軍クーデター派からは詳細な戦術プランを添えられて。
そのアロウズ艦隊からはライセンス持ちと呼ばれる独自行動がゆるされる兵士たちの搭乗機がすでに離脱している。イノベイターのリヴァイヴ・リバイバルとリボンズの同異体であるヒリング・ケアの駆るガデッサ二機、脳量子波で取り込まれているルイス・ハレヴィのMAレグナントと彼女におもいを寄せる上官アンドレイ・スミルノフのMSアヘッドである。
彼らに帰投命令を出したリボンズは、数十体の量産型イノベイターを用意して自らが審判のときと呼ぶその戦闘を待ち受ける。人類の行く末を決める闘いを。
他方、ダブルオーライザーに敗れたグラハム・エーカーはアロウズ艦隊にももどらず自刃をえらぼうとするも、生きるために闘えという刹那の残したことばのためにそれを果たせないでいた。
アロウズ艦隊を超望遠光学カメラで捕捉したプトレマイオス2からは、四機のガンダムが出撃する。
イノベイターの支配から人類を解放するためにヴェーダ奪還を誓言したティエリアのセラヴィーがロックオンの遺志とともに。マリーの呼び名を許容したソーマとその彼女と自分のような存在を二度と生み出さないために闘うアレルヤのアーチャーアリオスが、連邦とイノベイター打倒を掲げアニューに誓うライルのケルディムが、ルイス・ハレヴィを取り戻す闘いを決めた沙慈のオーライザーと未来に向きあうために闘う刹那のダブルオーが、それに続く。
アンチフィールドが展開されて粒子ビームが攪乱され、敵の圧倒的数のまえに苦戦を強いられるCBに、カタロンと連邦軍クーデター派が助勢に駆けつける。クーデター派の首謀はブレイク・ピラー事件以降行方を眩ませていた、元アロウズの大佐カティー・マネキンだった。
* * *
イノベイターの拠点、すなわちヴェーダ本体近くに構えられた大広間のモニターが、二十一隻の巡洋艦に百八機のMSを擁するアロウズ艦隊が突破されるさまを映しだす。
さっきまでその映像を見、自らの手でその映像を切ったリボンズ・アルマークの、いまはもの云わぬ遺体がころがっている。
その眉間を撃ち抜いたリジェネ・レジェッタは、それを予測していたかのようなリボンズがスペアの肉体をもって再度姿をあらわしたことに、少なからず動揺した。
脳を穿たれ死んでも意識データが霧散するまえにヴェーダにそれを逃せば、イノベイターは意識体として生き残ることができる。けれどその意識体を新たな肉体に即時移し替えることができるとまでは知らなかった。
動揺を衝かれ、リボンズに傭われたアリー・アル・サーシェスに胸部を撃たれてリジェネの肉体は絶命する。
「あらかじめスペアの肉体を用意しておいてたなんて、小癪な真似をしてくれるよ、まったく」
リンクしたヴェーダのなかに意識体となって逃れたリジェネは、そう愚痴った。
脳を破壊されなければリジェネが死なないことはわかっているだろうに、そのままアリー・アル・サーシェスがMSでアロウズの加勢に出るのをゆるしたリボンズは、自分が支配するヴェーダのなかで意識体となったリジェネにはもう、なにも手出しできないと高を括っているんだろう。
「しくじっちゃったなぁ。リボンズの肉体を殺しておけばモビルスーツに乗ることはできなくなるから、多少は援護射撃になるかと思ったんだけどな」
ヴェーダの膨大なデータの海を泳ぎながら、自分には入れない階層のまえでリジェネはごろんと横になった。意識体なのだから実際は横も縦もないのだけれど、そこはまあそういうニュアンスということだ。
「しょうがない。刹那・F・セイエイにがんばってもらおう。どうせリボンズが闘う対手はあの子に決まってる。あんまりあの子に負担をかけるとティエリアに叱られちゃいそうだけど」
ニール・ディランディへの一途さとはべつのところで、ティエリアは刹那・F・セイエイをとてもだいじにしているのだ。
「純粋種だからってのもあるにしたってさ。…ふん」
ヒリング・ケアが同異体上位のリボンズを慕う程度には、いやたぶんその実それ以上に、リジェネもティエリアを好きな気持ちでは負けてない。
「だからって、僕はヒリングみたいに対に追従してるばかりじゃないからね。僕に出来ることはしたよ。あとはもう…」
リジェネはそこで口を噤んで眸を閉じる。
待つだけだ。そのときを、待っているよ。…ティエリア。
敵艦隊のなかにイノベイターがいないことを知った刹那は、沙慈の捜すルイスの機体を求めて進行する。そのさなかに禍々しい光を察し、全部隊に即座の回避行動を告げた。
放たれた強大なエネルギー光が、回避の遅れた艦船やMSを灼いてゆく。敵軍も友軍もなしに容赦なく薙ぎ払ったその熱源こそが、ヴェーダ本体を内部に潜ませるイノベイターの拠点、コロニー型外宇宙航行母艦ソレスタルビーイングだった。二世紀以上もまえに未知なる種との遭遇と来たるべき対話を予見したイオリア・シュヘンベルグによって生み出された、その巨大な建造物が光学迷彩を解かれ姿をあらわす。
GNドライブ、ヴェーダ、イノベイター、そしてその艦こそが人類を滅亡から救う希望の箱船だと、リボンズは云うのだ。
その姿を目の当たりにしたスメラギ・李・ノリエガは、通信回線を開いて友軍の協力への感謝と戦死者への哀悼を表しつつ、自分たちCBは量子型演算システム・ヴェーダ奪還のために敵大型母艦に侵攻することを伝える。
敵母艦へと進路を修正したプトレマイオス2に、ガンダム各機が追随する。イノベイターからのヴェーダ奪還に、かつてCBが世界を変えた償いと、その世界のふたたびの変革を期して、スメラギはラストミッションを宣した。
疑似GNドライブを用いた敵母艦の大小砲塔からの粒子砲、自我をもたない量産型イノベイターによる大量のMSガガ部隊の特攻、猛攻に晒されるプトレマイオスの盾となってCBの補給艦が散る。
スメラギの宣言にいちどは退いていた友軍たちの再度の加勢を得て、激闘のさなか懸命に侵入ポイントを探査していたオペレーターのフェルトが敵母艦の艦船用ドック入口を発見、プトレマイオスは強行突入した。
着艦を果たしたプトレマイオスの防衛にアーチャーアリオスが当たり、フェルトが敵母艦をスキャンしてのヴェーダ捜索に入って、操舵士ラッセはオーガンダム搭乗に向かう。ダブルオーライザー、ケルディム、セラヴィーの各機は戦術どおり散開して敵母艦へ侵入する。その指示を告げるティエリアの声に、刹那とライルが応じた。
敵母艦内部に侵入してのMSによる白兵戦。内部からは大量の無人殺戮兵器オートマトンが、外部からは特攻MSガガ部隊がプトレマイオスを襲う。
敵母艦への侵入を図ったダブルオーライザーのまえにルイスのMAレグナントが、敵母艦通路に侵入したケルディムのまえにアリー・アル・サーシェスのアルケーガンダムが立ちはだかる。
プトレマイオスの隔壁を突破したオートマトンからクルーを護るために銃を手にしたスメラギのまえにも、彼女への屈折したおもいを抱えるビリー・カタギリが現れ銃口を向ける。以前酒浸りのスメラギが身を寄せていた昔馴染みの学友だ。
ヴェーダを発見したフェルトからそのポイントを転送されたところで、セラヴィーはヒリングとリヴァイヴのガデッサ二機に襲撃され、岩石状の敵母艦表面に叩きつけられた。
ダブルオーライザーに憎悪をぶつけるルイスのMAはガガの特攻に巻き込まれて爆砕、沙慈は刹那に促されて気絶したそのからだを安全な場所へと運ぶ。けれど憎悪と沙慈への想いに引き裂かれ、細胞障害治療の薬により脳量子波にリボンズの干渉を受けていたルイスは仮死状態に陥った。
アリー・アル・サーシェスとの死闘を繰り広げるライル。ビリーと銃を突きつけ合うスメラギ。ガガの特攻を受けて傷つくガンアーチャーのソーマと、ともに攻撃を受けるアレルヤ。大量のMS特攻のまえに砲台に回ったイアンとリンダも応戦しきれず、細胞障害の身でオーガンダムで迎撃するラッセも苦境に立っている。プトレマイオスではフェルトが劣勢を持ちこたえようとミレイナを励ましている。
イノベイターのガデッサ二機の攻撃を受けてトランザムを発動した刹那は、そのGN粒子のなかでそれら仲間たちに迫る死の声を感じ取り、消えゆくいのちを護ろうと、ついにツインドライブによるトランザムバーストを引き起こした。
膨大な量のGN粒子が光となって一帯を走り、その輝きが宙域を包みこむ。その粒子はリヴァイヴとヒリングの脳量子波に不可避の乱れを及ぼした。
リジェネ・レジェッタの声が告げてくる。
純粋なるイノベイターの脳量子波がツインドライブと連動し、純度を増したGN粒子がひとびとの意識を拡張させる。
「完全なる進化を遂げたか、刹那・F・セイエイ」
兄の無念をおもうライルの声とサーシェスの悪意が交錯して谺する。
その光のなかで、アレルヤは刹那の存在を感じハレルヤの復活を自覚した。
ソーマはゆるせないながらもアンドレイへの復讐心を手放し、アンドレイもまた父セルゲイとの相互理解の不足を覚る。
スメラギはビリーにその気持ちに甘えたとこころからの謝罪を伝え、仮死状態から脱したルイスは沙慈とたがいの気持ちをわかりあうことが叶う。
ガガ部隊を駆る量産型イノベイターたちが脳量子波の乱れに耐えきれず次々と自爆していくなか、フェルトとミレイナ、イアンとリンダは、身方が危機を脱しつつあることを知り、ラッセはその身を蝕む病苦の軽減を感じていた。
* * *
消えゆくいのちの声のなかに、ただひとりティエリアの声がなかったことを刹那は自覚していたろうか。
ヒリングとリヴァイヴによって敵母艦表面に叩きつけられたセラヴィーから抜け、単身ヴェーダのもとへと辿り着いていたティエリアは、このときすでにリボンズの銃弾を繰り返し浴びてその肉体は息絶えていた。
「ああ、もう。どうしてさきに銃を向けていながら、リボンズを撃たなかったのかな、きみは」
眉間に被弾したために損傷した脳からティエリアの意識データが霧散していくのを防ぐため、口調の軽さとは裏腹にリジェネはけっこう必死だった。
「…リジェネ…レジェッタ」
「そうそう。そうやってちゃんと意識を僕に集中してるんだよ。僕を介して、もうすぐヴェーダにもどれるから」
「…リボンズを撃って意識体でヴェーダに逃げ込まれたら、却ってやっかいかと…思ったんだ。肉体がなければ脳量子波の乱れを衝けない…だろう?」
「ああ、そういう考え方もあるよね。でもリボンズは刹那・F・セイエイの持つガンダムに乗ることに拘ってるから、肉体を捨てたりしないよ」
ティエリアの意識が笑う。
「そうだった…きみがそれを実証してたんだったな」
「うるさいよ」
しくじりを揶揄されたリジェネがふくれる。その瞬間、そのときは来た。
トランザムバーストによる脳量子波の攪乱はリボンズも免れ得ず、リジェネの意識体は即座にティエリアのアクセスキー探査にうごく。
「このときを待ってたよ」
リボンズがそのリジェネの声を聞いたときには、アクセス権を回復したティエリアが速やかにヴェーダの最深部までを掌握していた。
ヴェーダが自分とのリンクを拒絶したことにリボンズは訝った。リジェネにヴェーダのシステムの掌握などできないのに、なぜ。
「きみの思い通りにはさせない」
その驚愕と疑念とは、低められたリジェネの声によって解き明かされた。うってかわって明るくリジェネは囁く。そう、どこかたのしげに。
「そうだろう? ティエリア」
続 2012.02.19.
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ラグランジュ2へのアロウズ艦隊集結の一報を、カタロンの宇宙艦隊は双方から受けた。ジーンワンことライルからはCBがそのポイントへと向かうことを、連邦軍クーデター派からは詳細な戦術プランを添えられて。
そのアロウズ艦隊からはライセンス持ちと呼ばれる独自行動がゆるされる兵士たちの搭乗機がすでに離脱している。イノベイターのリヴァイヴ・リバイバルとリボンズの同異体であるヒリング・ケアの駆るガデッサ二機、脳量子波で取り込まれているルイス・ハレヴィのMAレグナントと彼女におもいを寄せる上官アンドレイ・スミルノフのMSアヘッドである。
彼らに帰投命令を出したリボンズは、数十体の量産型イノベイターを用意して自らが審判のときと呼ぶその戦闘を待ち受ける。人類の行く末を決める闘いを。
他方、ダブルオーライザーに敗れたグラハム・エーカーはアロウズ艦隊にももどらず自刃をえらぼうとするも、生きるために闘えという刹那の残したことばのためにそれを果たせないでいた。
アロウズ艦隊を超望遠光学カメラで捕捉したプトレマイオス2からは、四機のガンダムが出撃する。
イノベイターの支配から人類を解放するためにヴェーダ奪還を誓言したティエリアのセラヴィーがロックオンの遺志とともに。マリーの呼び名を許容したソーマとその彼女と自分のような存在を二度と生み出さないために闘うアレルヤのアーチャーアリオスが、連邦とイノベイター打倒を掲げアニューに誓うライルのケルディムが、ルイス・ハレヴィを取り戻す闘いを決めた沙慈のオーライザーと未来に向きあうために闘う刹那のダブルオーが、それに続く。
アンチフィールドが展開されて粒子ビームが攪乱され、敵の圧倒的数のまえに苦戦を強いられるCBに、カタロンと連邦軍クーデター派が助勢に駆けつける。クーデター派の首謀はブレイク・ピラー事件以降行方を眩ませていた、元アロウズの大佐カティー・マネキンだった。
* * *
イノベイターの拠点、すなわちヴェーダ本体近くに構えられた大広間のモニターが、二十一隻の巡洋艦に百八機のMSを擁するアロウズ艦隊が突破されるさまを映しだす。
さっきまでその映像を見、自らの手でその映像を切ったリボンズ・アルマークの、いまはもの云わぬ遺体がころがっている。
その眉間を撃ち抜いたリジェネ・レジェッタは、それを予測していたかのようなリボンズがスペアの肉体をもって再度姿をあらわしたことに、少なからず動揺した。
脳を穿たれ死んでも意識データが霧散するまえにヴェーダにそれを逃せば、イノベイターは意識体として生き残ることができる。けれどその意識体を新たな肉体に即時移し替えることができるとまでは知らなかった。
動揺を衝かれ、リボンズに傭われたアリー・アル・サーシェスに胸部を撃たれてリジェネの肉体は絶命する。
「あらかじめスペアの肉体を用意しておいてたなんて、小癪な真似をしてくれるよ、まったく」
リンクしたヴェーダのなかに意識体となって逃れたリジェネは、そう愚痴った。
脳を破壊されなければリジェネが死なないことはわかっているだろうに、そのままアリー・アル・サーシェスがMSでアロウズの加勢に出るのをゆるしたリボンズは、自分が支配するヴェーダのなかで意識体となったリジェネにはもう、なにも手出しできないと高を括っているんだろう。
「しくじっちゃったなぁ。リボンズの肉体を殺しておけばモビルスーツに乗ることはできなくなるから、多少は援護射撃になるかと思ったんだけどな」
ヴェーダの膨大なデータの海を泳ぎながら、自分には入れない階層のまえでリジェネはごろんと横になった。意識体なのだから実際は横も縦もないのだけれど、そこはまあそういうニュアンスということだ。
「しょうがない。刹那・F・セイエイにがんばってもらおう。どうせリボンズが闘う対手はあの子に決まってる。あんまりあの子に負担をかけるとティエリアに叱られちゃいそうだけど」
ニール・ディランディへの一途さとはべつのところで、ティエリアは刹那・F・セイエイをとてもだいじにしているのだ。
「純粋種だからってのもあるにしたってさ。…ふん」
ヒリング・ケアが同異体上位のリボンズを慕う程度には、いやたぶんその実それ以上に、リジェネもティエリアを好きな気持ちでは負けてない。
「だからって、僕はヒリングみたいに対に追従してるばかりじゃないからね。僕に出来ることはしたよ。あとはもう…」
リジェネはそこで口を噤んで眸を閉じる。
待つだけだ。そのときを、待っているよ。…ティエリア。
敵艦隊のなかにイノベイターがいないことを知った刹那は、沙慈の捜すルイスの機体を求めて進行する。そのさなかに禍々しい光を察し、全部隊に即座の回避行動を告げた。
放たれた強大なエネルギー光が、回避の遅れた艦船やMSを灼いてゆく。敵軍も友軍もなしに容赦なく薙ぎ払ったその熱源こそが、ヴェーダ本体を内部に潜ませるイノベイターの拠点、コロニー型外宇宙航行母艦ソレスタルビーイングだった。二世紀以上もまえに未知なる種との遭遇と来たるべき対話を予見したイオリア・シュヘンベルグによって生み出された、その巨大な建造物が光学迷彩を解かれ姿をあらわす。
GNドライブ、ヴェーダ、イノベイター、そしてその艦こそが人類を滅亡から救う希望の箱船だと、リボンズは云うのだ。
その姿を目の当たりにしたスメラギ・李・ノリエガは、通信回線を開いて友軍の協力への感謝と戦死者への哀悼を表しつつ、自分たちCBは量子型演算システム・ヴェーダ奪還のために敵大型母艦に侵攻することを伝える。
敵母艦へと進路を修正したプトレマイオス2に、ガンダム各機が追随する。イノベイターからのヴェーダ奪還に、かつてCBが世界を変えた償いと、その世界のふたたびの変革を期して、スメラギはラストミッションを宣した。
疑似GNドライブを用いた敵母艦の大小砲塔からの粒子砲、自我をもたない量産型イノベイターによる大量のMSガガ部隊の特攻、猛攻に晒されるプトレマイオスの盾となってCBの補給艦が散る。
スメラギの宣言にいちどは退いていた友軍たちの再度の加勢を得て、激闘のさなか懸命に侵入ポイントを探査していたオペレーターのフェルトが敵母艦の艦船用ドック入口を発見、プトレマイオスは強行突入した。
着艦を果たしたプトレマイオスの防衛にアーチャーアリオスが当たり、フェルトが敵母艦をスキャンしてのヴェーダ捜索に入って、操舵士ラッセはオーガンダム搭乗に向かう。ダブルオーライザー、ケルディム、セラヴィーの各機は戦術どおり散開して敵母艦へ侵入する。その指示を告げるティエリアの声に、刹那とライルが応じた。
敵母艦内部に侵入してのMSによる白兵戦。内部からは大量の無人殺戮兵器オートマトンが、外部からは特攻MSガガ部隊がプトレマイオスを襲う。
敵母艦への侵入を図ったダブルオーライザーのまえにルイスのMAレグナントが、敵母艦通路に侵入したケルディムのまえにアリー・アル・サーシェスのアルケーガンダムが立ちはだかる。
プトレマイオスの隔壁を突破したオートマトンからクルーを護るために銃を手にしたスメラギのまえにも、彼女への屈折したおもいを抱えるビリー・カタギリが現れ銃口を向ける。以前酒浸りのスメラギが身を寄せていた昔馴染みの学友だ。
ヴェーダを発見したフェルトからそのポイントを転送されたところで、セラヴィーはヒリングとリヴァイヴのガデッサ二機に襲撃され、岩石状の敵母艦表面に叩きつけられた。
ダブルオーライザーに憎悪をぶつけるルイスのMAはガガの特攻に巻き込まれて爆砕、沙慈は刹那に促されて気絶したそのからだを安全な場所へと運ぶ。けれど憎悪と沙慈への想いに引き裂かれ、細胞障害治療の薬により脳量子波にリボンズの干渉を受けていたルイスは仮死状態に陥った。
アリー・アル・サーシェスとの死闘を繰り広げるライル。ビリーと銃を突きつけ合うスメラギ。ガガの特攻を受けて傷つくガンアーチャーのソーマと、ともに攻撃を受けるアレルヤ。大量のMS特攻のまえに砲台に回ったイアンとリンダも応戦しきれず、細胞障害の身でオーガンダムで迎撃するラッセも苦境に立っている。プトレマイオスではフェルトが劣勢を持ちこたえようとミレイナを励ましている。
イノベイターのガデッサ二機の攻撃を受けてトランザムを発動した刹那は、そのGN粒子のなかでそれら仲間たちに迫る死の声を感じ取り、消えゆくいのちを護ろうと、ついにツインドライブによるトランザムバーストを引き起こした。
膨大な量のGN粒子が光となって一帯を走り、その輝きが宙域を包みこむ。その粒子はリヴァイヴとヒリングの脳量子波に不可避の乱れを及ぼした。
リジェネ・レジェッタの声が告げてくる。
純粋なるイノベイターの脳量子波がツインドライブと連動し、純度を増したGN粒子がひとびとの意識を拡張させる。
「完全なる進化を遂げたか、刹那・F・セイエイ」
兄の無念をおもうライルの声とサーシェスの悪意が交錯して谺する。
その光のなかで、アレルヤは刹那の存在を感じハレルヤの復活を自覚した。
ソーマはゆるせないながらもアンドレイへの復讐心を手放し、アンドレイもまた父セルゲイとの相互理解の不足を覚る。
スメラギはビリーにその気持ちに甘えたとこころからの謝罪を伝え、仮死状態から脱したルイスは沙慈とたがいの気持ちをわかりあうことが叶う。
ガガ部隊を駆る量産型イノベイターたちが脳量子波の乱れに耐えきれず次々と自爆していくなか、フェルトとミレイナ、イアンとリンダは、身方が危機を脱しつつあることを知り、ラッセはその身を蝕む病苦の軽減を感じていた。
* * *
消えゆくいのちの声のなかに、ただひとりティエリアの声がなかったことを刹那は自覚していたろうか。
ヒリングとリヴァイヴによって敵母艦表面に叩きつけられたセラヴィーから抜け、単身ヴェーダのもとへと辿り着いていたティエリアは、このときすでにリボンズの銃弾を繰り返し浴びてその肉体は息絶えていた。
「ああ、もう。どうしてさきに銃を向けていながら、リボンズを撃たなかったのかな、きみは」
眉間に被弾したために損傷した脳からティエリアの意識データが霧散していくのを防ぐため、口調の軽さとは裏腹にリジェネはけっこう必死だった。
「…リジェネ…レジェッタ」
「そうそう。そうやってちゃんと意識を僕に集中してるんだよ。僕を介して、もうすぐヴェーダにもどれるから」
「…リボンズを撃って意識体でヴェーダに逃げ込まれたら、却ってやっかいかと…思ったんだ。肉体がなければ脳量子波の乱れを衝けない…だろう?」
「ああ、そういう考え方もあるよね。でもリボンズは刹那・F・セイエイの持つガンダムに乗ることに拘ってるから、肉体を捨てたりしないよ」
ティエリアの意識が笑う。
「そうだった…きみがそれを実証してたんだったな」
「うるさいよ」
しくじりを揶揄されたリジェネがふくれる。その瞬間、そのときは来た。
トランザムバーストによる脳量子波の攪乱はリボンズも免れ得ず、リジェネの意識体は即座にティエリアのアクセスキー探査にうごく。
「このときを待ってたよ」
リボンズがそのリジェネの声を聞いたときには、アクセス権を回復したティエリアが速やかにヴェーダの最深部までを掌握していた。
ヴェーダが自分とのリンクを拒絶したことにリボンズは訝った。リジェネにヴェーダのシステムの掌握などできないのに、なぜ。
「きみの思い通りにはさせない」
その驚愕と疑念とは、低められたリジェネの声によって解き明かされた。うってかわって明るくリジェネは囁く。そう、どこかたのしげに。
「そうだろう? ティエリア」
続 2012.02.19.
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