連作「天涯の遊子」の番外、銀桂篇。其の一。
ヅラ誕 2008、in エリー番外三部作の急。銀誕合わせ。
全三回。しらじらではなく、はくはく、と読むよ。
銀時と桂。と、エリザベス。と、銀時 in エリー。
坂本がすこし。ほか、新八と神楽も。
後半に微エロあり、注意。
番外は、天涯の遊子設定での、もうひとつの世界。
連作時系列ではないけど、時期的には
モンハン篇よりはまえ、な感じで。
*注
エリザベスはエリザベスという存在で正体には言及せず。
もしも銀時がエリーに代わったなら…、というお話。
設定そのものがお莫迦なので、そのあたりは流すんだ。
in エリーの番外は、坂本篇・高杉篇・銀時篇の三部作予定。
ヅラ誕 2008、党首のしあわせキャンペーン。
☆初出時より一段落ぶん長めに取って切ってあります。
中篇をお読みになるまえに、最後だけごらんいただき補完ください。
「なに、これぇ。なんなの、これ」
月が変わったばかりのその日、坂本辰馬から届いた荷を開いて、思わず坂田銀時の口を吐(つ)いてでたことばがそれだった。
「おお、金時。ひさしぶりだのー。おんしがこれを見ちゅうがは、無事届いたんろうな」
同梱されたビデオレターの画面のなかでは、あいかわらずのうっとうしさで、黒もじゃが笑っている。
「だから金時じゃねぇっつうの。なんだよ、これは!」
まるでその銀時の合いの手を見越したように、画面の黒もじゃはつづける。
「わしからの誕生日プレゼントちや。ちっくと早いろうが、またしばらくは江戸に行かれんがで、ゆるしとおせ」
「はああ? なに寝惚けたこと云ってンだ」
ビデオの坂本に悪態を吐く。
「これのどこがプレゼントなんだよ。いやがらせだろ?これ。いやがらせだよね」
むろん聞こえるわけもない坂本は、銀時のことばを無視した。
「当日がけに送っておいたほうが、おんしもいろいろ試せて便利ろうと思ってな。小太郎によろしくのぉー」
付け加えられたそのひとことに、銀時は目を剥いた。
「な、んなの。それ。どーゆーこと」
猛烈にいやな予感に襲われて、開いた荷のなかみを握りしめる。
「もしもおんしがやりよらんとゆうなら、ローテーションが狂うがやき。塩梅よお頼むよ」
「ローテーションんんんん??」
「快援隊特性の限定品やき、好評でのー。おかげでステファンの休暇が増えそうな勢いやか」
ステファン。それはつまりやっぱり、エリザベスを指すわけで。桂のもとにいる、あの白いもののことで。
「どうにも購入もんの志士どうしで争いになるき、くじ引きであだつ順を決めたちや。それぞれ適性にあった入り方をしやーせんと、ばれるしな」
この荷のなかみは、やっぱりつまり、そういうことで。
「その点おんしは、家事一般、炊事洗濯から志士会合とりまとめに交渉ごと、用心棒まで、なんちゃーできて融通が利く。なりすますにこれ以上の適合もんはないきね」
「冗談じゃねぇええええ! だれが、やるか!!!」
鷲摑みにした白いカワを銀時がゴミ箱に投げ捨てようと振りかざした、まさにそのとき。
「あ、ちなみに購入者名簿には晋坊の名もあってな。特別枠で活動中ちや」
銀時のうごきはぴたりと止まってしまった。
快援隊特製、エリぐるみリアルver.13。
坂本が開発した限定極少数予約完売のレアアイテムをプレゼントされたなどと、購入できなかった攘夷志士が聞いたら悔しさで卒倒したに違いない。
かくして銀時はその希んだわけでもない僥倖と引き換えに、その七日後から四日と半日、エリザベスと入れ替わる羽目になったのだ。
* * *
なんでだ、なんでなんだ。なんで俺が白いもののなかにいなけりゃならないんだ。
神楽や新八には、ペイのいい泊まり仕事が入ったとその間の不在を告げて、いつものように神楽を志村家の世話になるよう、頼んだはいいが。
「銀ちゃん、誕生日にも仕事アルか」
「しかたないよ。せっかく入った仕事だもの。でも帰ってきたら、みんなでぱぁっと誕生日祝いしましょうね」
「ああ、そうねー。そんなんべつにおまえらだけでやっとけや」
そうした席は嫌いではないが、自分が祝われるのはじつは苦手な銀時は、ことばを濁した。
「なに云ってるんですか。主役がいない誕生日会なんて聞いたことありませんよ。意味ないじゃないですか」
「ワタシ御馳走が食べられればなんでもいいネ。でも銀ちゃんもケーキ食べられるヨ。いっしょに祝うヨロシ」
「桂さんやお登勢さんたち、みんなで集まってやりましょうよ」
その桂のところで、じつは白いペンギンお化けになって過ごすのだとは云えず、曖昧に頷いて、銀時は大きなふろしき包みを片手に万事屋をあとにした。まず向かったさきは、以前坂本も利用したというネット茶屋。風呂敷のなかみはむろん、エリぐるみである。交替のためにエリザベスと落ち合う場所まで、坂本は整えていた。
「なあ、エリザベス」
ん?…ああ、俺のことか。
「近ごろよくネット茶屋に出入りしているそうだが、頻繁にでは不便だろう。おまえ用に林檎社ののーとぱそこんを一台設えようか」
不意に桂にそう問い掛けられて、銀時は、もとい銀時inエリザベスは、周章ててかぶりを振った。
『いえ、ネ茶屋で充分です。もったいない。そんな余分があったら攘夷活動の資金にまわしてください』
エリザベスの週休二日に割り当てられた志士たちが、代わる代わるエリぐるみ姿で出入りするのだから無理もない。四泊五日任務の銀時は、だから特例なのだろう。どこが誕生日プレゼントなんだ。バカ本め。おかげで、したくもないフォローまでしなくちゃならねー。
がばっ、と、エリザベス、ではないエリぐるみの銀時を、桂は抱きしめる。
「えらいぞ!さすがはエリザベス。心がけが違う」
さすがは銀時、と幼いころから桂が云うのとおなじ調子で云われては、あまりおもしろくない銀時である。
そこは桂の隠れ家のひとつで、銀時には知らされていない場所だった。長期滞在型の旅籠のようでどうやら志士の集まりにも利用されているものらしい。
二間つづきの部屋に、内風呂に手水場、ちいさな厨も付いていて、簡単な煮炊きができるようになっている。
桂がパソコンに向かって執務のあいだ、エリぐるみの銀時は桂の昼食の準備に取り掛かっていた。同志たちが廊下を忙しなく行き交う。
ふうん。こいつらちゃんと攘夷活動してたんだ。などと思っていると障子の向こうから声が掛かった。
「桂さん。失礼いたします。明日の出張会談についてですが」
桂がそれに応対している間にも、また次々とやってきては、あれやこれや桂の指示を仰いでいる。
「桂さん、先日お願いした案件のほうは」
「桂さん、これ、先週のぶんの報告書です。目を通しておいてください」
「桂さん、地下の諜報の人員のことで少しお時間いただけますか」
「桂さん、件の特使が面会を求めておられますがいかがいたしましょうか」
そのいちいちに手際よく受け答えながら、桂の手はやすまずキーボードを叩く。こちらはつぎの会議にかけられる議題の草案のようだった。
「ん。うまい」
できあがったばかりの昼餉を口に運んで、桂はもぐもぐと咀嚼する。
「きょうの玉子焼きはなにやら懐かしい味がするな、エリザベス」
そりゃそうだろう、俺がつくってるんだから。ちいさなちゃぶ台に、向かい合わせでともに昼食をとりながら、銀時は思う。
生真面目なくせにおおざっぱで、ひとつのことに集中しはじめると寝食を忘れるきらいのある桂に、過去銀時が無理矢理にでも食事をとらせたことは幾度もあった。それも、いまはこの白いものがしっかり目を光らせているようで、食事と睡眠はきちんととらせているらしい。それも入れ替わりの際の役割項目に入っていた。
桂は食前食後の挨拶をきっちりとして、食後の茶をたのしむ。
それだけが息抜きのようで、午後もまたパソコンに向かいながら、あれやこれやと諸事を捌いた。当然エリザベスにも割り振られた仕事があって、銀時はひさびさに忙しく、その書類の整理と取り纏めに時間を費やした。
主に組織底辺からの意見や陳情を拾い上げることは、銀時自身が戦時によくしていた経緯があるからか、ほどなくその勘を取り戻せば、存外要領よくこなせるものだ。銀時がざっと見ては抽出し吟味したものを、桂がまた目を通して最終的に決する。これを平素あの白いものが担っているというのなら、その能力もおかれた信頼も、相当のものだと云わざるをえない。
しかし、と銀時は思う。
しかし、これは。桂のこの激務は、想像のうえを行く。常日頃、アダプタがコンセントからはずれているような姿しか見ていない身には。というか、おそらくはそうした姿しか見せられていなかったのだ。自分は。
桂が万事屋に来るときは、骨休めなのだろう。そう、わかってはいた。だが再会してからこっち、銀時が見てきた桂の姿は、いまの桂の半分でしかなかったのか。
桂の党首としての一面もその裏面もわかっていたはずだった。あの真選組の騒動の一件でも、桂が裏でその状況を逐一つかんでいたことは、充分承知していたつもりだった。なのにじかに目の当たりにするそれは、衝撃度がちがう。
だれより知っていたつもりの桂の知らない一面を見せつけられて、若干へこみ気味の気分のままエリぐるみの銀時はまた、厨に立つ。あっというまに夕餉の時間が迫っていた。
夕食のあとかたづけをしながら、忙しなかった一日に少々ぼんやりしていると背後から声が掛かった。
「手伝おうか、エリザベス。きょうは同志たちのぶんもあるからたいへんだろう」
夕食時に居合わせた員数分の食事をあり合わせで作ったから、その食器の洗いものだけでもひと仕事だ。だが、プラカードには、
『いえ。やすんでいてください』
自然、そんなことばがでた。
ふだん怠惰で面倒くさがりで、そのうえあまのじゃくな銀時には、思っていても出ないはずのことばがあっさり告げられたのは、この白いものの姿のせいだったろうか。
「ああ、そうだ、エリザベス。あすのことだが」
『もう準備はできています』
明日は京都まで出張である。あとかたづけを終えて手を拭いながら応える。
「そうか。いつもすまないな。会談が長引けば泊まりになるやも知れぬから」
『はい。そのように手配を』
頷いて、桂は満足げに笑んでから、ふと表情を曇らせた。ぽつり、ひとりごとに呟く。
「あさってには江戸に戻っていられるかな」
どきん。エリぐるみの銀時の、心臓がちいさく鳴った。
明後日。つまりは十月十日。その呟きの意味することに思い当たって、銀時はたまらない気分になった。
半ば無理矢理に押し付けられたエリぐるみではあったが、せめてこの姿でいるときは、精一杯桂のサポートをしてやろう。いまの万事屋銀ちゃんにはそれくらいしかしてやれない。
ふと。坂本が銀時にエリぐるみを送り付けたことの意図をおもった。
あのバカ本の、考えそうなことだった。
続 2008.10.10.
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「なに、これぇ。なんなの、これ」
月が変わったばかりのその日、坂本辰馬から届いた荷を開いて、思わず坂田銀時の口を吐(つ)いてでたことばがそれだった。
「おお、金時。ひさしぶりだのー。おんしがこれを見ちゅうがは、無事届いたんろうな」
同梱されたビデオレターの画面のなかでは、あいかわらずのうっとうしさで、黒もじゃが笑っている。
「だから金時じゃねぇっつうの。なんだよ、これは!」
まるでその銀時の合いの手を見越したように、画面の黒もじゃはつづける。
「わしからの誕生日プレゼントちや。ちっくと早いろうが、またしばらくは江戸に行かれんがで、ゆるしとおせ」
「はああ? なに寝惚けたこと云ってンだ」
ビデオの坂本に悪態を吐く。
「これのどこがプレゼントなんだよ。いやがらせだろ?これ。いやがらせだよね」
むろん聞こえるわけもない坂本は、銀時のことばを無視した。
「当日がけに送っておいたほうが、おんしもいろいろ試せて便利ろうと思ってな。小太郎によろしくのぉー」
付け加えられたそのひとことに、銀時は目を剥いた。
「な、んなの。それ。どーゆーこと」
猛烈にいやな予感に襲われて、開いた荷のなかみを握りしめる。
「もしもおんしがやりよらんとゆうなら、ローテーションが狂うがやき。塩梅よお頼むよ」
「ローテーションんんんん??」
「快援隊特性の限定品やき、好評でのー。おかげでステファンの休暇が増えそうな勢いやか」
ステファン。それはつまりやっぱり、エリザベスを指すわけで。桂のもとにいる、あの白いもののことで。
「どうにも購入もんの志士どうしで争いになるき、くじ引きであだつ順を決めたちや。それぞれ適性にあった入り方をしやーせんと、ばれるしな」
この荷のなかみは、やっぱりつまり、そういうことで。
「その点おんしは、家事一般、炊事洗濯から志士会合とりまとめに交渉ごと、用心棒まで、なんちゃーできて融通が利く。なりすますにこれ以上の適合もんはないきね」
「冗談じゃねぇええええ! だれが、やるか!!!」
鷲摑みにした白いカワを銀時がゴミ箱に投げ捨てようと振りかざした、まさにそのとき。
「あ、ちなみに購入者名簿には晋坊の名もあってな。特別枠で活動中ちや」
銀時のうごきはぴたりと止まってしまった。
快援隊特製、エリぐるみリアルver.13。
坂本が開発した限定極少数予約完売のレアアイテムをプレゼントされたなどと、購入できなかった攘夷志士が聞いたら悔しさで卒倒したに違いない。
かくして銀時はその希んだわけでもない僥倖と引き換えに、その七日後から四日と半日、エリザベスと入れ替わる羽目になったのだ。
* * *
なんでだ、なんでなんだ。なんで俺が白いもののなかにいなけりゃならないんだ。
神楽や新八には、ペイのいい泊まり仕事が入ったとその間の不在を告げて、いつものように神楽を志村家の世話になるよう、頼んだはいいが。
「銀ちゃん、誕生日にも仕事アルか」
「しかたないよ。せっかく入った仕事だもの。でも帰ってきたら、みんなでぱぁっと誕生日祝いしましょうね」
「ああ、そうねー。そんなんべつにおまえらだけでやっとけや」
そうした席は嫌いではないが、自分が祝われるのはじつは苦手な銀時は、ことばを濁した。
「なに云ってるんですか。主役がいない誕生日会なんて聞いたことありませんよ。意味ないじゃないですか」
「ワタシ御馳走が食べられればなんでもいいネ。でも銀ちゃんもケーキ食べられるヨ。いっしょに祝うヨロシ」
「桂さんやお登勢さんたち、みんなで集まってやりましょうよ」
その桂のところで、じつは白いペンギンお化けになって過ごすのだとは云えず、曖昧に頷いて、銀時は大きなふろしき包みを片手に万事屋をあとにした。まず向かったさきは、以前坂本も利用したというネット茶屋。風呂敷のなかみはむろん、エリぐるみである。交替のためにエリザベスと落ち合う場所まで、坂本は整えていた。
「なあ、エリザベス」
ん?…ああ、俺のことか。
「近ごろよくネット茶屋に出入りしているそうだが、頻繁にでは不便だろう。おまえ用に林檎社ののーとぱそこんを一台設えようか」
不意に桂にそう問い掛けられて、銀時は、もとい銀時inエリザベスは、周章ててかぶりを振った。
『いえ、ネ茶屋で充分です。もったいない。そんな余分があったら攘夷活動の資金にまわしてください』
エリザベスの週休二日に割り当てられた志士たちが、代わる代わるエリぐるみ姿で出入りするのだから無理もない。四泊五日任務の銀時は、だから特例なのだろう。どこが誕生日プレゼントなんだ。バカ本め。おかげで、したくもないフォローまでしなくちゃならねー。
がばっ、と、エリザベス、ではないエリぐるみの銀時を、桂は抱きしめる。
「えらいぞ!さすがはエリザベス。心がけが違う」
さすがは銀時、と幼いころから桂が云うのとおなじ調子で云われては、あまりおもしろくない銀時である。
そこは桂の隠れ家のひとつで、銀時には知らされていない場所だった。長期滞在型の旅籠のようでどうやら志士の集まりにも利用されているものらしい。
二間つづきの部屋に、内風呂に手水場、ちいさな厨も付いていて、簡単な煮炊きができるようになっている。
桂がパソコンに向かって執務のあいだ、エリぐるみの銀時は桂の昼食の準備に取り掛かっていた。同志たちが廊下を忙しなく行き交う。
ふうん。こいつらちゃんと攘夷活動してたんだ。などと思っていると障子の向こうから声が掛かった。
「桂さん。失礼いたします。明日の出張会談についてですが」
桂がそれに応対している間にも、また次々とやってきては、あれやこれや桂の指示を仰いでいる。
「桂さん、先日お願いした案件のほうは」
「桂さん、これ、先週のぶんの報告書です。目を通しておいてください」
「桂さん、地下の諜報の人員のことで少しお時間いただけますか」
「桂さん、件の特使が面会を求めておられますがいかがいたしましょうか」
そのいちいちに手際よく受け答えながら、桂の手はやすまずキーボードを叩く。こちらはつぎの会議にかけられる議題の草案のようだった。
「ん。うまい」
できあがったばかりの昼餉を口に運んで、桂はもぐもぐと咀嚼する。
「きょうの玉子焼きはなにやら懐かしい味がするな、エリザベス」
そりゃそうだろう、俺がつくってるんだから。ちいさなちゃぶ台に、向かい合わせでともに昼食をとりながら、銀時は思う。
生真面目なくせにおおざっぱで、ひとつのことに集中しはじめると寝食を忘れるきらいのある桂に、過去銀時が無理矢理にでも食事をとらせたことは幾度もあった。それも、いまはこの白いものがしっかり目を光らせているようで、食事と睡眠はきちんととらせているらしい。それも入れ替わりの際の役割項目に入っていた。
桂は食前食後の挨拶をきっちりとして、食後の茶をたのしむ。
それだけが息抜きのようで、午後もまたパソコンに向かいながら、あれやこれやと諸事を捌いた。当然エリザベスにも割り振られた仕事があって、銀時はひさびさに忙しく、その書類の整理と取り纏めに時間を費やした。
主に組織底辺からの意見や陳情を拾い上げることは、銀時自身が戦時によくしていた経緯があるからか、ほどなくその勘を取り戻せば、存外要領よくこなせるものだ。銀時がざっと見ては抽出し吟味したものを、桂がまた目を通して最終的に決する。これを平素あの白いものが担っているというのなら、その能力もおかれた信頼も、相当のものだと云わざるをえない。
しかし、と銀時は思う。
しかし、これは。桂のこの激務は、想像のうえを行く。常日頃、アダプタがコンセントからはずれているような姿しか見ていない身には。というか、おそらくはそうした姿しか見せられていなかったのだ。自分は。
桂が万事屋に来るときは、骨休めなのだろう。そう、わかってはいた。だが再会してからこっち、銀時が見てきた桂の姿は、いまの桂の半分でしかなかったのか。
桂の党首としての一面もその裏面もわかっていたはずだった。あの真選組の騒動の一件でも、桂が裏でその状況を逐一つかんでいたことは、充分承知していたつもりだった。なのにじかに目の当たりにするそれは、衝撃度がちがう。
だれより知っていたつもりの桂の知らない一面を見せつけられて、若干へこみ気味の気分のままエリぐるみの銀時はまた、厨に立つ。あっというまに夕餉の時間が迫っていた。
夕食のあとかたづけをしながら、忙しなかった一日に少々ぼんやりしていると背後から声が掛かった。
「手伝おうか、エリザベス。きょうは同志たちのぶんもあるからたいへんだろう」
夕食時に居合わせた員数分の食事をあり合わせで作ったから、その食器の洗いものだけでもひと仕事だ。だが、プラカードには、
『いえ。やすんでいてください』
自然、そんなことばがでた。
ふだん怠惰で面倒くさがりで、そのうえあまのじゃくな銀時には、思っていても出ないはずのことばがあっさり告げられたのは、この白いものの姿のせいだったろうか。
「ああ、そうだ、エリザベス。あすのことだが」
『もう準備はできています』
明日は京都まで出張である。あとかたづけを終えて手を拭いながら応える。
「そうか。いつもすまないな。会談が長引けば泊まりになるやも知れぬから」
『はい。そのように手配を』
頷いて、桂は満足げに笑んでから、ふと表情を曇らせた。ぽつり、ひとりごとに呟く。
「あさってには江戸に戻っていられるかな」
どきん。エリぐるみの銀時の、心臓がちいさく鳴った。
明後日。つまりは十月十日。その呟きの意味することに思い当たって、銀時はたまらない気分になった。
半ば無理矢理に押し付けられたエリぐるみではあったが、せめてこの姿でいるときは、精一杯桂のサポートをしてやろう。いまの万事屋銀ちゃんにはそれくらいしかしてやれない。
ふと。坂本が銀時にエリぐるみを送り付けたことの意図をおもった。
あのバカ本の、考えそうなことだった。
続 2008.10.10.
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