Armed angel #ex03 二期終幕後 ニルティエ
再録集「再臨篇」書きおろし。冒頭サンプル。
ふわりゆらりと。まるで夢を見るように、記憶の欠片が昔日の景色を映しだす。
ヴェーダにはリジェネの意識体も存在するが、量子化したティエリアがいま漂っているのはリジェネには入ることのかなわない、ティエリアだけが往き来できる領域だ。
広漠なデータという名の海原の、寄せては返す記憶の波はヴェーダのものであり、ヴェーダと同化したとき溶け込んだティエリア自身のものでもあって、その境目は曖昧だった。
「ティエリア…」
深い声でそう呼ばれた。
温かなぬくもりに包まれるひとときはたしかに幸福と呼べるものだったが、そうと知るまでには時間を要した。最初そこにあったのは戸惑いだけだったから。
人間の持つ温度が苦手だった。理に適わない感情の揺れとそれに連なって放たれる熱をほとんど嫌悪さえしていた。
遠慮がちにひたいに触れてきた手を撥ねのけなかったのは、たぶんに負っていた怪我のせいだったろう。顔や髪に付いた砂粒を払う指先を黙ってやり過ごしたのは、その革手袋の手の持ち主に興味が湧いてきていたからだ。
宥めるように頬を撫でていた掌がふいに硬直したかのようにうごきを止め、ふだん飄々として意味不明な笑顔を浮かべるだけだったおもてが、明らかな動揺を走らせて歪むのを、理由などわからぬままにまじまじと見つめていた。
だがさらに。人間という不可解な生きものは、唐突にその紅玉を口唇で塞いできたのだ。かさねての理解不能な行動に混乱に陥って反応すらできないでいると、その口唇は双の瞼から顔中を彷徨ったあげく、ようやく発しかけたティエリアのことばを遮り呼吸を奪った。
ロックオン・ストラトスという人間は矛盾に満ちていた。
オフ本に続く 2012.12.12.
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ふわりゆらりと。まるで夢を見るように、記憶の欠片が昔日の景色を映しだす。
ヴェーダにはリジェネの意識体も存在するが、量子化したティエリアがいま漂っているのはリジェネには入ることのかなわない、ティエリアだけが往き来できる領域だ。
広漠なデータという名の海原の、寄せては返す記憶の波はヴェーダのものであり、ヴェーダと同化したとき溶け込んだティエリア自身のものでもあって、その境目は曖昧だった。
「ティエリア…」
深い声でそう呼ばれた。
温かなぬくもりに包まれるひとときはたしかに幸福と呼べるものだったが、そうと知るまでには時間を要した。最初そこにあったのは戸惑いだけだったから。
人間の持つ温度が苦手だった。理に適わない感情の揺れとそれに連なって放たれる熱をほとんど嫌悪さえしていた。
遠慮がちにひたいに触れてきた手を撥ねのけなかったのは、たぶんに負っていた怪我のせいだったろう。顔や髪に付いた砂粒を払う指先を黙ってやり過ごしたのは、その革手袋の手の持ち主に興味が湧いてきていたからだ。
宥めるように頬を撫でていた掌がふいに硬直したかのようにうごきを止め、ふだん飄々として意味不明な笑顔を浮かべるだけだったおもてが、明らかな動揺を走らせて歪むのを、理由などわからぬままにまじまじと見つめていた。
だがさらに。人間という不可解な生きものは、唐突にその紅玉を口唇で塞いできたのだ。かさねての理解不能な行動に混乱に陥って反応すらできないでいると、その口唇は双の瞼から顔中を彷徨ったあげく、ようやく発しかけたティエリアのことばを遮り呼吸を奪った。
ロックオン・ストラトスという人間は矛盾に満ちていた。
オフ本に続く 2012.12.12.
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