Armed angel #ex02 一期未満と一期(第五〜六話) ニルティエ
再録集「降臨篇」書きおろし。冒頭サンプル。
「ほい、そこまでだ」
そう軽い口調で云って、背後からティエリアの肩を押さえた。
「…ロックオン・ストラトス」
たったいまクルーを叱りつけていた深紅の双眸が、冷たい光を孕んだままニールを振り返る。
「そうガミガミ云わなくたって、もうわかってるさ。だろ?」
そう促された相手はほっとしたように息を吐き、ニールを感謝の眼差しで見遣ると、ぺこりとあたまを下げてそそくさとその場を立ち去っていく。
ラグランジュ3に設えたCB偽装ドッグ、四機目のガンダムが先般ロールアウトしたばかりで、基地は遽しい雰囲気だ。実戦投入に向けてまだまだ調整に余念がないなか起きた些細なミス。たしかに責められるべき非はそのクルーにあったろうが、正論ではあっても情け容赦のないティエリアの辛辣さに、見かねたニールが割って入ったのだった。
「あなたは、甘い」
一瞥したティエリアはそうひとこと云い捨てるや、さっさと持ち場に戻れといわんばかりにぷいとニールに背を向けると、床を蹴った。微重力の整備ドックを紫紺のパイロットスーツは優雅に泳いでいく。
しなやかな背から細い腰へと、どこかまろやかなラインを描くその後ろ姿に見蕩れながら、溜め息を吐いてニールは胡桃色の癖っ毛を掻いた。
「やれやれ…。とりつく島もねぇな」
それでもこうした仲裁をティエリアが聞き入れる、ほぼ唯一の存在にロックオン・ストラトスことニールはなってきている。そこは前進だろう。
ティエリアが生真面目でヴェーダを信奉し、イオリア計画に関するに於いては妥協の欠片もなく、その舌鋒鋭いことは周知の事実であった。が、ここ最近頓に苛立っているのにはわけがある。
ロールアウトに合わせるように加入したエクシアのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイのMS基本操作と戦闘シミュレーションの結果がかんばしくない。まだ入ったばかりだから技能云々はこれから訓練でどうにでもなるとして、ティエリアを苛立たせているのはその点ではない。刹那の問題行動のほうだった。少なくともティエリアにとってそれはゆるしがたい愚行として映っている。未熟で不慣れでありながら、ヴェーダの立てたマイスターのための教練メニューにすんなり沿おうとしないのだ。
たしかに自分自身の感覚だけを頼りに独断で先走る傾向のつよい鉄砲玉気質の少年だった。イオリアの理念に賛同しCBに加わろうというのだから、推して知るべきその生い立ちからくるものもあるだろう。おそらくはマイスター最年少と推測されるその若さ、幼さゆえのことだとニールなどは苦笑して納めてしまえるところを、ティエリアにはそれができない。しかし、その刹那はどうあれヴェーダによってえらばれたのだという事実が頑として横たわっているものだから、よけいにティエリアのなかで消化不良を起こしているのだ。
そして少なからずニールもそのとばっちりを受けていた。
オフ本に続く 2012.06.10.
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「ほい、そこまでだ」
そう軽い口調で云って、背後からティエリアの肩を押さえた。
「…ロックオン・ストラトス」
たったいまクルーを叱りつけていた深紅の双眸が、冷たい光を孕んだままニールを振り返る。
「そうガミガミ云わなくたって、もうわかってるさ。だろ?」
そう促された相手はほっとしたように息を吐き、ニールを感謝の眼差しで見遣ると、ぺこりとあたまを下げてそそくさとその場を立ち去っていく。
ラグランジュ3に設えたCB偽装ドッグ、四機目のガンダムが先般ロールアウトしたばかりで、基地は遽しい雰囲気だ。実戦投入に向けてまだまだ調整に余念がないなか起きた些細なミス。たしかに責められるべき非はそのクルーにあったろうが、正論ではあっても情け容赦のないティエリアの辛辣さに、見かねたニールが割って入ったのだった。
「あなたは、甘い」
一瞥したティエリアはそうひとこと云い捨てるや、さっさと持ち場に戻れといわんばかりにぷいとニールに背を向けると、床を蹴った。微重力の整備ドックを紫紺のパイロットスーツは優雅に泳いでいく。
しなやかな背から細い腰へと、どこかまろやかなラインを描くその後ろ姿に見蕩れながら、溜め息を吐いてニールは胡桃色の癖っ毛を掻いた。
「やれやれ…。とりつく島もねぇな」
それでもこうした仲裁をティエリアが聞き入れる、ほぼ唯一の存在にロックオン・ストラトスことニールはなってきている。そこは前進だろう。
ティエリアが生真面目でヴェーダを信奉し、イオリア計画に関するに於いては妥協の欠片もなく、その舌鋒鋭いことは周知の事実であった。が、ここ最近頓に苛立っているのにはわけがある。
ロールアウトに合わせるように加入したエクシアのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイのMS基本操作と戦闘シミュレーションの結果がかんばしくない。まだ入ったばかりだから技能云々はこれから訓練でどうにでもなるとして、ティエリアを苛立たせているのはその点ではない。刹那の問題行動のほうだった。少なくともティエリアにとってそれはゆるしがたい愚行として映っている。未熟で不慣れでありながら、ヴェーダの立てたマイスターのための教練メニューにすんなり沿おうとしないのだ。
たしかに自分自身の感覚だけを頼りに独断で先走る傾向のつよい鉄砲玉気質の少年だった。イオリアの理念に賛同しCBに加わろうというのだから、推して知るべきその生い立ちからくるものもあるだろう。おそらくはマイスター最年少と推測されるその若さ、幼さゆえのことだとニールなどは苦笑して納めてしまえるところを、ティエリアにはそれができない。しかし、その刹那はどうあれヴェーダによってえらばれたのだという事実が頑として横たわっているものだから、よけいにティエリアのなかで消化不良を起こしているのだ。
そして少なからずニールもそのとばっちりを受けていた。
オフ本に続く 2012.06.10.
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