「天涯の遊子」銀桂篇。全4回。
銀時と桂。万事屋舞台で新八、神楽。回想で坂本。
動乱篇あと。終盤に微エロあり、注意。
ひさしぶりの桂の訪問とその手土産に、神楽は口では文句を云いながら悦びにはしゃぎ、新八はそれに加えて安堵の表情をみせた。
やがてはしゃぎつかれた神楽は、ふだんより幾分豪華めだった手土産を食べまくった満足感も手伝って、うとうとと桂の膝を枕に寝入ってしまう。桂を気遣って神楽を起こそうとした新八を、しぐさでとめて桂は神楽の髪を撫でた。
ようやく静かに話せる状況になって、銀時は土産のひとつの酒饅頭の包装をはがしながら、桂を見た。
「だいじょうぶなの?」
「ん?なにがだ」
落としていた視線を神楽から銀時に向けて、桂は小首を傾げる。
「んっとぉ、同志のみなさん、とゆーか」
新八が、あ、という表情で酒饅頭をかじる銀時を見、桂を見た。銀時の抱いていた懸念に、いま気づいたのだろう。
桂はその新八の視線に気づき、銀時を軽く睨んだ。
いいじゃねーの。こいつはこれでも侍だよ。おまえがここに来られたってことは、ことは解決してるってことで、その経緯くらい聞かせたって。
目で会話したわけでもないが、通じたらしい。桂は淡々と語りだす。
「肩入れした貴様を敵と見なすという過激な言もあったがな。そもそも、いまのわれらには真選組も鬼兵隊も、与せざるものに変わりはない。貴様と河上とがやり合っていたとき、助勢しようと云う輩もいたが、おれが退けた。どちらに助太刀する気か、と問うて」
銀時は目を瞠る。とっさにことばが出なかった。新八が代わりのように訊ねた。
「え? 桂さん、あのとき近くにいたんですか?」
「状況が把握できる程度には」
銀時の予想のうえを行く事実に、目眩がする。ああもう。そういえば、こいつはそういうやつだった。戦時の桂をまざまざと思い起こし、銀時は苦虫を噛み潰したような顔で桂を睨めた。
「ええ?でも、なんで知って…。まさか銀さんを張ってたんですか?」
「ちがうな。我々はそこまで暇ではない」
睨める視線には無視を決め込んで、さらりと銀時を落としながら、桂は新八に質すような表情を向ける。
「え、じゃあ。…あ、そうか。鬼兵隊の動きを探っていたんですね?」
「60点」
「えー。あとは、なんだろ」
「いいのだ、それで。残りの点は我々だけの問題ゆえ、わからなくて当然だ」
悩み出した新八に、桂はやわらかく云い添えた。
「なに教師面しちゃってんの、おまえ」
「む。貴様が話を持ち出すからだろう」
銀時が茶化すのへ、生真面目に応対した桂がまた気にくわなくて、不機嫌そうに云い返す。
「いや、だれがそこまでやれと云いましたか」
ほんとに気にくわないのはそんなことじゃなく。桂が、桂のありようがいまもやはり戦時に連なっているからで。わかっているはずのことなのに、いざ目の当たりにすると、銀時にはやっぱりそれがやるせなくて。
むにゃ。
頭上で始まった睨みあいに気づいてか、目を覚ましたらしい神楽が寝惚けまなこで訴える。
「…にアルか。さっきからごちゃごちゃとうるさいアル」
「これは、すまなかった。リーダー」
膝枕の神楽を覗き込んで詫びる桂の、両頬横におろされて揺れる長い髪を、神楽が引っ張った。
「いたた」
「ヅラぁ。罰として、きょうはここに泊まるヨロシ」
そういって、勢いよく起きあがる。
「リーダーの命令ネ」
昂然と云う神楽に、桂はまじめな顔で返した。
「ルージャ」
「ちょ。待て、そこ。なに勝手に決めてんの。万事屋の主は俺ぇー!」
「うるさい。マダオは黙るヨロシ」
銀時の抗議をよそに、新八に向き直った神楽は
「新八。ワタシ、定春の散歩途中だったから、行ってくるアル。ついでに姉御にもこのお菓子形見分けに行くネ」
云って、テーブルに広げられた菓子の残りを浚えはじめる。
「なに、形見分けって、縁起でもねー。それをいうなら」
「お裾分け、だね」
銀時の言葉尻を捉えた新八が、意を得たとばかりに、風呂敷を取り出して広げた。
「ついでにうちに泊まっていったらいいよ。神楽ちゃん」
「そのつもりアル」
せっせと包み始めるふたりに、無視されるかたちになった銀時が焦る。
「おい、ぜんぶ攫えてんじゃねーよ。神楽、新八」
「なにを云うアルか。いちばんおいしいものは残してやったネ」
銀時が絶句するのへ、新八がしれっととどめを刺した。
「そうですよ。なんとかは犬も食わないって云いますからね。つづきは、僕たちがいなくなってからどうぞ」
それから、風呂敷包みを抱えた新八と、定春の背に乗った神楽が玄関を出て行くまで、銀時はただ茫然と、それを見送るしかなかった。
「………えっとぉ」
ふたり万事屋に取り残されて、銀時はぼりぼり白銀髪をかきながら明後日のほうを見る。包み紙だの空き箱だのの残骸だけになったテーブルを片づけながら、桂が淡々と云った。
「できた子らだな」
どかりとソファに座り直して、銀時は天を仰ぐ。
「おめーなぁ…。あれ、どこまでわかって云ってんだと思う?」
「さて…」
桂がちいさく首を傾げた。
くしゃくしゃとあたまをかきむしって、銀時は溜め息混じりに呟く。
「ま、さ。せっかくだから、泊まってけば」
「うん」
あまりに素直な返答に、銀時は思わず桂を見返した。
「なんだ?」
「あー、いや。いいの? 白いのとか部下の連中とか心配すんじゃねーの?」
「リーダーと約束したからな。万事屋を訪ねることはみなに云ってあるから、エリザベスに一報を入れておけば、だいじょうぶだろう」
紙屑を台所のゴミ箱にかたし終えて銀時の背後を通った桂は、なぜかしばらくそこで立ち止まると、おもむろにそのあたまを撫でた。
「…なにしてんの」
ぱふぱふと銀時のやわらかな癖っ毛を弄ぶ桂に、銀時は縛られたようにうごけず、目線だけをうえにやる。
「いや、気持ちよさそうだったから」
「…………」
時折見せる、桂の愛玩嗜好をそのまま映す邪気のないしぐさに、銀時は閉口する。再会後は鳴りを潜めていたんだけどな、これ。喜ぶべきなのか。
幼い時分から興に乗ったときの桂が見せる癖で、桂へのおもいを自覚してから、それがまがりなりにも通じるまでのあいだ、銀時はずいぶんと桂のこの癖に悩まされた。
好きな相手に触れられてうれしくないはずはないが、そのぶん掻き立てられてしまうものもあるわけで、そのあたりのことに無頓着に過ぎた桂は、なんどか銀時を怒らせたものだが。いつだったか、思わず訊ねたことがある。
あのさ。おめーが俺を気に入ったのって、まさかこのせい?
くるくる天パは銀時のコンプレックスで、異形の白銀の髪は、紅い眸とともに、幼少の砌より、世間様から白眼視され迫害された要因でもあったのだが。
ふわふわの白い髪はどうやら桂のお気に入りのようで、銀時がそう訊ねると、桂はめずらしく声を立てて笑った。笑いながら、ぽふぽふと、銀時の髪をさらに弄る。そのまま桂はにこにこと銀時の髪で遊ぶばかりで、結局、銀時は桂のこたえを聞きそびれた。ふだん表情の薄い桂が、笑んでいるのだからそれでいいや、と思ってしまったせいもある。
まだ平穏と呼べたあのころ、銀時はようやく手にした安寧な暮らしのなかで見出したおのれの存在理由に、その傍らにあることのできる自分に、幸福を感じていた。ひとつ手にすればまたつぎが欲しくなるものなのだと、そんな贅沢にさえ気づきはじめていた。
「ヅラ」
「ヅラじゃない。桂だ。なんだ」
「どうせ触るんなら、こっち来て触ってくんない?」
と、おのれの膝を指さす銀時に、桂はぺちっとその額を叩いて、上を向かせた。叩いた額にかかる前髪越しに、接吻を落としてくる。
銀時は腕を伸ばしてその桂のうなじを捉える。そのまま仰向いた顔をずらして、降りていた桂の口唇を口唇でゆるく塞いだ。
「いててっ」
仰け反る姿勢が傷に響いて、口接けを解いたとたん銀時から苦悶の声が漏れる。桂が銀時の両脇を持ちあげるようにして立ち上がらせた。
「あたっ」
その拍子に、またちいさく悲鳴をあげた銀時に、桂が服を脱がせにかかる。
「銀、ちゃんと診せてみろ」
あわてて銀時は厨へと逃げた。
「おま、ここ応接室だよ。玄関すぐそこ。だれかきたらどうすんの。銀さんの珠のお肌を晒しものにする気?」
「だれが珠のお肌だ。傷だらけではないか」
そのまま追いつめられ、観念して洗面所で着物を脱いだ銀時の、包帯を外して桂が傷口をあらためる。おたがい傷の手当てには慣れているが、背のほうはさすがにひとりではうまくできない。
「生傷の絶えぬやつだ」
呆れたように云う桂に、銀時は反射的に云い返した。
「てめーには云われたかねぇ」
おたがいの知らないところで傷をこさえているのは、きっと銀時より桂のほうが多い。
「貴様は、だらけた暮らしのわりに多すぎる。でもまあ、さすがに頑丈だな。傷口はどれももう塞がっている。この背の打ち身と肩の裂傷はちょっと治りが遅いようだが。…塗り薬は?」
「和室(へや)の棚」
「リーダーや新八くんにやってもらわなかったのか」
「新八はともかく神楽にやらせたひにゃ、傷えぐられちまわぁ」
「まったく。貴様は」
むかしと変わらん。そういって奥の和室に薬を取りに行こうとした桂を背後から抱きしめた。
* * *
続 2008.04.24.
PR
ひさしぶりの桂の訪問とその手土産に、神楽は口では文句を云いながら悦びにはしゃぎ、新八はそれに加えて安堵の表情をみせた。
やがてはしゃぎつかれた神楽は、ふだんより幾分豪華めだった手土産を食べまくった満足感も手伝って、うとうとと桂の膝を枕に寝入ってしまう。桂を気遣って神楽を起こそうとした新八を、しぐさでとめて桂は神楽の髪を撫でた。
ようやく静かに話せる状況になって、銀時は土産のひとつの酒饅頭の包装をはがしながら、桂を見た。
「だいじょうぶなの?」
「ん?なにがだ」
落としていた視線を神楽から銀時に向けて、桂は小首を傾げる。
「んっとぉ、同志のみなさん、とゆーか」
新八が、あ、という表情で酒饅頭をかじる銀時を見、桂を見た。銀時の抱いていた懸念に、いま気づいたのだろう。
桂はその新八の視線に気づき、銀時を軽く睨んだ。
いいじゃねーの。こいつはこれでも侍だよ。おまえがここに来られたってことは、ことは解決してるってことで、その経緯くらい聞かせたって。
目で会話したわけでもないが、通じたらしい。桂は淡々と語りだす。
「肩入れした貴様を敵と見なすという過激な言もあったがな。そもそも、いまのわれらには真選組も鬼兵隊も、与せざるものに変わりはない。貴様と河上とがやり合っていたとき、助勢しようと云う輩もいたが、おれが退けた。どちらに助太刀する気か、と問うて」
銀時は目を瞠る。とっさにことばが出なかった。新八が代わりのように訊ねた。
「え? 桂さん、あのとき近くにいたんですか?」
「状況が把握できる程度には」
銀時の予想のうえを行く事実に、目眩がする。ああもう。そういえば、こいつはそういうやつだった。戦時の桂をまざまざと思い起こし、銀時は苦虫を噛み潰したような顔で桂を睨めた。
「ええ?でも、なんで知って…。まさか銀さんを張ってたんですか?」
「ちがうな。我々はそこまで暇ではない」
睨める視線には無視を決め込んで、さらりと銀時を落としながら、桂は新八に質すような表情を向ける。
「え、じゃあ。…あ、そうか。鬼兵隊の動きを探っていたんですね?」
「60点」
「えー。あとは、なんだろ」
「いいのだ、それで。残りの点は我々だけの問題ゆえ、わからなくて当然だ」
悩み出した新八に、桂はやわらかく云い添えた。
「なに教師面しちゃってんの、おまえ」
「む。貴様が話を持ち出すからだろう」
銀時が茶化すのへ、生真面目に応対した桂がまた気にくわなくて、不機嫌そうに云い返す。
「いや、だれがそこまでやれと云いましたか」
ほんとに気にくわないのはそんなことじゃなく。桂が、桂のありようがいまもやはり戦時に連なっているからで。わかっているはずのことなのに、いざ目の当たりにすると、銀時にはやっぱりそれがやるせなくて。
むにゃ。
頭上で始まった睨みあいに気づいてか、目を覚ましたらしい神楽が寝惚けまなこで訴える。
「…にアルか。さっきからごちゃごちゃとうるさいアル」
「これは、すまなかった。リーダー」
膝枕の神楽を覗き込んで詫びる桂の、両頬横におろされて揺れる長い髪を、神楽が引っ張った。
「いたた」
「ヅラぁ。罰として、きょうはここに泊まるヨロシ」
そういって、勢いよく起きあがる。
「リーダーの命令ネ」
昂然と云う神楽に、桂はまじめな顔で返した。
「ルージャ」
「ちょ。待て、そこ。なに勝手に決めてんの。万事屋の主は俺ぇー!」
「うるさい。マダオは黙るヨロシ」
銀時の抗議をよそに、新八に向き直った神楽は
「新八。ワタシ、定春の散歩途中だったから、行ってくるアル。ついでに姉御にもこのお菓子形見分けに行くネ」
云って、テーブルに広げられた菓子の残りを浚えはじめる。
「なに、形見分けって、縁起でもねー。それをいうなら」
「お裾分け、だね」
銀時の言葉尻を捉えた新八が、意を得たとばかりに、風呂敷を取り出して広げた。
「ついでにうちに泊まっていったらいいよ。神楽ちゃん」
「そのつもりアル」
せっせと包み始めるふたりに、無視されるかたちになった銀時が焦る。
「おい、ぜんぶ攫えてんじゃねーよ。神楽、新八」
「なにを云うアルか。いちばんおいしいものは残してやったネ」
銀時が絶句するのへ、新八がしれっととどめを刺した。
「そうですよ。なんとかは犬も食わないって云いますからね。つづきは、僕たちがいなくなってからどうぞ」
それから、風呂敷包みを抱えた新八と、定春の背に乗った神楽が玄関を出て行くまで、銀時はただ茫然と、それを見送るしかなかった。
「………えっとぉ」
ふたり万事屋に取り残されて、銀時はぼりぼり白銀髪をかきながら明後日のほうを見る。包み紙だの空き箱だのの残骸だけになったテーブルを片づけながら、桂が淡々と云った。
「できた子らだな」
どかりとソファに座り直して、銀時は天を仰ぐ。
「おめーなぁ…。あれ、どこまでわかって云ってんだと思う?」
「さて…」
桂がちいさく首を傾げた。
くしゃくしゃとあたまをかきむしって、銀時は溜め息混じりに呟く。
「ま、さ。せっかくだから、泊まってけば」
「うん」
あまりに素直な返答に、銀時は思わず桂を見返した。
「なんだ?」
「あー、いや。いいの? 白いのとか部下の連中とか心配すんじゃねーの?」
「リーダーと約束したからな。万事屋を訪ねることはみなに云ってあるから、エリザベスに一報を入れておけば、だいじょうぶだろう」
紙屑を台所のゴミ箱にかたし終えて銀時の背後を通った桂は、なぜかしばらくそこで立ち止まると、おもむろにそのあたまを撫でた。
「…なにしてんの」
ぱふぱふと銀時のやわらかな癖っ毛を弄ぶ桂に、銀時は縛られたようにうごけず、目線だけをうえにやる。
「いや、気持ちよさそうだったから」
「…………」
時折見せる、桂の愛玩嗜好をそのまま映す邪気のないしぐさに、銀時は閉口する。再会後は鳴りを潜めていたんだけどな、これ。喜ぶべきなのか。
幼い時分から興に乗ったときの桂が見せる癖で、桂へのおもいを自覚してから、それがまがりなりにも通じるまでのあいだ、銀時はずいぶんと桂のこの癖に悩まされた。
好きな相手に触れられてうれしくないはずはないが、そのぶん掻き立てられてしまうものもあるわけで、そのあたりのことに無頓着に過ぎた桂は、なんどか銀時を怒らせたものだが。いつだったか、思わず訊ねたことがある。
あのさ。おめーが俺を気に入ったのって、まさかこのせい?
くるくる天パは銀時のコンプレックスで、異形の白銀の髪は、紅い眸とともに、幼少の砌より、世間様から白眼視され迫害された要因でもあったのだが。
ふわふわの白い髪はどうやら桂のお気に入りのようで、銀時がそう訊ねると、桂はめずらしく声を立てて笑った。笑いながら、ぽふぽふと、銀時の髪をさらに弄る。そのまま桂はにこにこと銀時の髪で遊ぶばかりで、結局、銀時は桂のこたえを聞きそびれた。ふだん表情の薄い桂が、笑んでいるのだからそれでいいや、と思ってしまったせいもある。
まだ平穏と呼べたあのころ、銀時はようやく手にした安寧な暮らしのなかで見出したおのれの存在理由に、その傍らにあることのできる自分に、幸福を感じていた。ひとつ手にすればまたつぎが欲しくなるものなのだと、そんな贅沢にさえ気づきはじめていた。
「ヅラ」
「ヅラじゃない。桂だ。なんだ」
「どうせ触るんなら、こっち来て触ってくんない?」
と、おのれの膝を指さす銀時に、桂はぺちっとその額を叩いて、上を向かせた。叩いた額にかかる前髪越しに、接吻を落としてくる。
銀時は腕を伸ばしてその桂のうなじを捉える。そのまま仰向いた顔をずらして、降りていた桂の口唇を口唇でゆるく塞いだ。
「いててっ」
仰け反る姿勢が傷に響いて、口接けを解いたとたん銀時から苦悶の声が漏れる。桂が銀時の両脇を持ちあげるようにして立ち上がらせた。
「あたっ」
その拍子に、またちいさく悲鳴をあげた銀時に、桂が服を脱がせにかかる。
「銀、ちゃんと診せてみろ」
あわてて銀時は厨へと逃げた。
「おま、ここ応接室だよ。玄関すぐそこ。だれかきたらどうすんの。銀さんの珠のお肌を晒しものにする気?」
「だれが珠のお肌だ。傷だらけではないか」
そのまま追いつめられ、観念して洗面所で着物を脱いだ銀時の、包帯を外して桂が傷口をあらためる。おたがい傷の手当てには慣れているが、背のほうはさすがにひとりではうまくできない。
「生傷の絶えぬやつだ」
呆れたように云う桂に、銀時は反射的に云い返した。
「てめーには云われたかねぇ」
おたがいの知らないところで傷をこさえているのは、きっと銀時より桂のほうが多い。
「貴様は、だらけた暮らしのわりに多すぎる。でもまあ、さすがに頑丈だな。傷口はどれももう塞がっている。この背の打ち身と肩の裂傷はちょっと治りが遅いようだが。…塗り薬は?」
「和室(へや)の棚」
「リーダーや新八くんにやってもらわなかったのか」
「新八はともかく神楽にやらせたひにゃ、傷えぐられちまわぁ」
「まったく。貴様は」
むかしと変わらん。そういって奥の和室に薬を取りに行こうとした桂を背後から抱きしめた。
* * *
続 2008.04.24.
PR