「天涯の遊子」過去篇・村塾幼少期。
銀時と桂。高杉。と、松陽。
子銀と、松陽先生。子桂、子高。それぞれの出会い。
前後篇。後篇。
連作時系列では、銀桂篇の最初にあたるものがたり。
溺れた子どもが意識を失わず恐慌をきたしていたなら、暴れられしがみつかれて、共倒れになっているところだ。まあ、だから背後に回り込んだのは賢明だったわけだが。承知のうえでそうしたとすれば、たいしたもんだと思う。
そのふたり以外の、たすけられた子とその周りの子は、遠巻きに銀時を見ている。明らかに異質な髪と眸をした銀時を警戒し怖れているかのようだった。そんな目には慣れていたから銀時は平然としていたが、その濡れ髪の子どもはちがった。
「みなも、礼をいわないか。たすけていただいたのだぞ」
さっきからおよそ子どもらしくない物云いで。自分が真っ先にたすけに飛び込んだくせに、妙なやつ。
「いーよいーよ。そんなの。めんどくさい」
「よくはない」
片手を振って背を向け、気怠げにもといた場所へと歩み出した銀時に、その妙な子どもはきっぱりと、周りの子らを促した。促されて口々に、ありがとうと小声で呟く。その声を背に受けながら堤防を登りかけた銀時に、松陽の探す声が掛かった。
「銀時?」
その姿を認めた子どもらがいっせいに声を上げる。
「せんせい!」
「松陽先生」
「おかえりなさい」
見れば、それまでむっつりときれいな子どもの尾っぽ髪の水気を取ることに専念していた子どもが、ぱっと晴れやかな顔になった。ふたりそろってぺこりとあたまを下げる。
「小太郎。晋助。どうしました? 水練の季節には些か遅いと思いますが」
小太郎、と呼ばれて反応した尾っぽ髪のあたまが、ちいさく揺れた。なにかこたえようとして、くしゃみに邪魔をされる。変わって応えたのは、晋助と呼ばれた子のほうだ。
「こたろうは、おぼれた子をたすけたんです」
「晋助と、そやつがてつだってくれました」
そうことばを引き取って、小太郎が銀時を指し示す。そしてまた、こんどは盛大にくしゃみをした。
そこからほどちかかった松陽宅で、溺れた子と小太郎を順に風呂に入れ、着物を替えさせた。ほかの子どもらは帰したが、晋助だけは聞き分けず付いてきていた。小太郎のことが心配なのと、松陽が連れてきた銀時なる子どもの存在も気になったのだろう。
松陽宅は私塾を兼ねていて、子どもらはみな、そこの門下生だった。
溺れた子の回復は早く、知らせを聞いて飛んできた親に連れられて、元気に帰って行った。そのようすを見るともなしに見つめる銀時の、あたまを松陽がぽんぽんと軽く叩くように撫でる。そのころには、この程度の松陽のしぐさには慣れていたが、妙にくすぐったい気分を憶えたのは、その姿を残ったふたりに見られていたせいだろうか。
小太郎はまだ少し青い顔をして、ときおりふるりと震えるようにも見える。小太郎の親は迎えに来ない。いや、来ないのではなく、小太郎が家に知らせることを拒んだのだった。自分は溺れたわけではないから、着物が乾いたらひとりで帰れる、と云って聞かない。
どうも云いだしたら頑固な性質(たち)らしく、とうにそれを承知しているのか、松陽はあっさり説得を放棄して夕餉の準備に入った。とはいえ、実際に煮炊きするのは厚意で下働きに通ってくれている村人だったのだが。
夕餉をすませたあと、迎えに来た家のものに連れられて、晋助はしぶしぶ帰っていった。話によると、どうも高杉という上士の御曹司らしかった。
小太郎も幼いながら小脇差を佩き、立ち居振る舞いからしても武家の子のようだが、溺れた子を迎えに来たのは商家のもののようだったから、松陽の塾はそうした身分の上下を問わない場所なのだ。
だから銀時のような子どもを置いても問題ないのかな、と銀時は考えた。いや、問題はあるだろう。自分の外見は身分の上下とは質を異にする隔たりだ。けれど、松陽が銀時を連れ住まわせてくれる気になったのは、そうした考え方と無縁ではなかったかもしれない。
小太郎はその晩、帰らなかった。正確には、帰れなかった。夕飯のあと、熱を出したのだ。さすがに松陽も小太郎の、桂の家に使いを走らせたが、いまうごかすのはよくないしこちらで医者に診せるので明日送り届ける、というものだ。銀時が旅の垢を落とすよう促されて入った風呂から戻ってみると、案の定風邪だという。
むちゃするからだ。
ひゅうひゅうと呼吸のたび音のする咽が痛々しい。ときおり咳き込んでいたが、薬湯が効いてきたのかほどなく睡りについて、銀時をほっとさせた。なぜほっとしたのかが、銀時にはわからなかったけれど。
「銀時が我が家に来た最初の日にこのようなことになるなど、思いもよりませんでした。浅からぬ縁(えにし)かもしれませんよ」
松陽が冗談めかして云って笑う。その笑顔に、小太郎の容態が重いものではないのだと知れて、また安堵した。
「この客間を銀時の部屋にと思っていたのですが、小太郎に占拠されてしまいましたね。今晩は私の部屋でやすみますか?」
ここまでの道中、旅籠では松陽とおなじ部屋に寝泊まりしていたのだから、いまさらそれに抵抗はなかったが。銀時はかぶりを振った。
「小太郎が心配ですか」
「しんぱい?」
そんな感情を銀時は持たなかった。ただ、なんとなくこの場を離れがたかっただけだ。
「それが心配しているということですよ。小太郎の容態が気に掛かるのでしょう?」
などと云われても、銀時には応えようがない。心配ってなんだ? 昼間会ったばかりのこの子どものことを、自分は気にしているんだろうか。
松陽は笑顔のまま、小太郎のふとんから少し離して銀時のぶんの寝床を伸べた。
「銀時は丈夫なようだから、風邪もうつったりはしないでしょう。今晩はここで小太郎に付いていてあげてください」
その、にこにことうれしそうなさまに、銀時は松陽の名を訊ねたときのことを思い出す。
「…なんで、笑ってんの」
「銀時が、ほかの人間に関心を持ってくれたからですよ。最初が私のなまえ。いまは、小太郎のぐあい」
ふうん。そんなことがうれしいのか。というか、これが関心を持つということなのか?
「溺れた子をたすけるのを手伝ってくれたこともね。銀時はきっと、やさしいこころを持っているのでしょう」
やさしいって、なんだろう。そのむかし、銀時、と呼んで護ってくれていた存在があったようにも思えるが、そんな感じのことだろうか。
小太郎は、銀時にとってよき存在になってくれそうですね。ええ、晋助も。
そうひとりごとに呟いて、松陽は客間を、銀時の居室となった六畳間を辞した。
灯明の落とされた座敷にぽつねんと残されて、銀時は小太郎の寝顔を見た。いまは熱にほんのり赤く染まった白い頬。障子越しに差し込む仄かな月明かりに浮かぶ横顔。ほどかれた髪がなめらかな輪郭に沿って流れて、敷布へと落ちている。つくりものみたいだ。きれいな子だな、と、あらためて銀時は思う。
そのくせ妙な口調といい頑固さといい無茶っぷりといい、松陽のとき同様、これも初めて見るたぐいの人種だった。そういえば、銀時の外見にも臆さなかったっけ。
やわらかなふとんに潜り込んで、少し離れてとなりで眠る顔を、倦かず眺める。そのままうとうとと睡りの淵をすべり落ちかけたとき、不意に耳もとで、ぱたり、と音がして、銀時はこれまでの習性で反射的に飛び起きた。
だが音はそれきり続かない。目をこらしてみると、すぐそばの畳に白い腕が投げ出されている。小太郎が寝返りを打ったものらしい。華奢な、という表現を当時の銀時は知らなかったから、ただ細い腕だなとだけ思った。この腕で、当人と変わらぬかそれ以上の体格の子どもをよくまあ引き摺り揚げたものだ。
音の正体がわかって、銀時はまたふとんに潜り込んだ。けれど、投げ出された腕が気になって寝付けない。このままだと寒いんじゃなかろうか。でも腕をとって戻せば起こしてしまうかもしれない。起こしてまた咳き込んだらどうしよう。せっかく静かに眠ってるのに。
銀時はしばし悩んで、おもむろに起きあがる。自分のふとんを引き摺って少しばかりとなりに寄せると、そうっと、細心の注意を払ってその腕を自分の敷き布団に乗せた。起きる気配がないのを見定めて、その横に身をすべらせる。掛け布団を被って、その腕ごと覆った。
肩口にある小太郎の仄白い手指を眺める。指も細いや。手まできれいなんだな。好奇心に負けて、ちょっとだけその指先に触れてみた。
つと、その指が触れた指を握るようにうごいて、銀時はあやうく声を上げるところだった。縋るようにちからの込められた指先に、ぐあいがわるくて心細いのかなと思う。それは銀時にも覚えのある感覚だったから、なんとなくその指を握りかえしてみた。小太郎の指が応えるようにぎゅっとしてきて、銀時はなんだかじぶんまでがこころやすらぐ感じがする。
ああ、そうか。
銀時なりに新たな生活に不安を覚えていたのだと、そのときになって初めて気づいた。
そのまま指を繋がせて、小太郎の寝息に誘われるように、銀時もまた、深い睡りの腕に抱かれていく。
翌朝。手指を繋いで、しろくろ二色のあたまをふとんから覗かせ並んで眠るふたりの子どもの姿に、松陽は開けさした襖障子をまた閉めた。
もう少し眠らせておいてあげよう。きっといの一番で、晋助がようすを見に飛んで来るだろう。
少し遅い朝餉の席で、銀時は、松陽のそのことばどおりの光景を目にする。
それはほんの少しまえには思うことすらなかった、銀時の新たな世界の到来を告げていた。
了 2008.08.05.
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溺れた子どもが意識を失わず恐慌をきたしていたなら、暴れられしがみつかれて、共倒れになっているところだ。まあ、だから背後に回り込んだのは賢明だったわけだが。承知のうえでそうしたとすれば、たいしたもんだと思う。
そのふたり以外の、たすけられた子とその周りの子は、遠巻きに銀時を見ている。明らかに異質な髪と眸をした銀時を警戒し怖れているかのようだった。そんな目には慣れていたから銀時は平然としていたが、その濡れ髪の子どもはちがった。
「みなも、礼をいわないか。たすけていただいたのだぞ」
さっきからおよそ子どもらしくない物云いで。自分が真っ先にたすけに飛び込んだくせに、妙なやつ。
「いーよいーよ。そんなの。めんどくさい」
「よくはない」
片手を振って背を向け、気怠げにもといた場所へと歩み出した銀時に、その妙な子どもはきっぱりと、周りの子らを促した。促されて口々に、ありがとうと小声で呟く。その声を背に受けながら堤防を登りかけた銀時に、松陽の探す声が掛かった。
「銀時?」
その姿を認めた子どもらがいっせいに声を上げる。
「せんせい!」
「松陽先生」
「おかえりなさい」
見れば、それまでむっつりときれいな子どもの尾っぽ髪の水気を取ることに専念していた子どもが、ぱっと晴れやかな顔になった。ふたりそろってぺこりとあたまを下げる。
「小太郎。晋助。どうしました? 水練の季節には些か遅いと思いますが」
小太郎、と呼ばれて反応した尾っぽ髪のあたまが、ちいさく揺れた。なにかこたえようとして、くしゃみに邪魔をされる。変わって応えたのは、晋助と呼ばれた子のほうだ。
「こたろうは、おぼれた子をたすけたんです」
「晋助と、そやつがてつだってくれました」
そうことばを引き取って、小太郎が銀時を指し示す。そしてまた、こんどは盛大にくしゃみをした。
そこからほどちかかった松陽宅で、溺れた子と小太郎を順に風呂に入れ、着物を替えさせた。ほかの子どもらは帰したが、晋助だけは聞き分けず付いてきていた。小太郎のことが心配なのと、松陽が連れてきた銀時なる子どもの存在も気になったのだろう。
松陽宅は私塾を兼ねていて、子どもらはみな、そこの門下生だった。
溺れた子の回復は早く、知らせを聞いて飛んできた親に連れられて、元気に帰って行った。そのようすを見るともなしに見つめる銀時の、あたまを松陽がぽんぽんと軽く叩くように撫でる。そのころには、この程度の松陽のしぐさには慣れていたが、妙にくすぐったい気分を憶えたのは、その姿を残ったふたりに見られていたせいだろうか。
小太郎はまだ少し青い顔をして、ときおりふるりと震えるようにも見える。小太郎の親は迎えに来ない。いや、来ないのではなく、小太郎が家に知らせることを拒んだのだった。自分は溺れたわけではないから、着物が乾いたらひとりで帰れる、と云って聞かない。
どうも云いだしたら頑固な性質(たち)らしく、とうにそれを承知しているのか、松陽はあっさり説得を放棄して夕餉の準備に入った。とはいえ、実際に煮炊きするのは厚意で下働きに通ってくれている村人だったのだが。
夕餉をすませたあと、迎えに来た家のものに連れられて、晋助はしぶしぶ帰っていった。話によると、どうも高杉という上士の御曹司らしかった。
小太郎も幼いながら小脇差を佩き、立ち居振る舞いからしても武家の子のようだが、溺れた子を迎えに来たのは商家のもののようだったから、松陽の塾はそうした身分の上下を問わない場所なのだ。
だから銀時のような子どもを置いても問題ないのかな、と銀時は考えた。いや、問題はあるだろう。自分の外見は身分の上下とは質を異にする隔たりだ。けれど、松陽が銀時を連れ住まわせてくれる気になったのは、そうした考え方と無縁ではなかったかもしれない。
小太郎はその晩、帰らなかった。正確には、帰れなかった。夕飯のあと、熱を出したのだ。さすがに松陽も小太郎の、桂の家に使いを走らせたが、いまうごかすのはよくないしこちらで医者に診せるので明日送り届ける、というものだ。銀時が旅の垢を落とすよう促されて入った風呂から戻ってみると、案の定風邪だという。
むちゃするからだ。
ひゅうひゅうと呼吸のたび音のする咽が痛々しい。ときおり咳き込んでいたが、薬湯が効いてきたのかほどなく睡りについて、銀時をほっとさせた。なぜほっとしたのかが、銀時にはわからなかったけれど。
「銀時が我が家に来た最初の日にこのようなことになるなど、思いもよりませんでした。浅からぬ縁(えにし)かもしれませんよ」
松陽が冗談めかして云って笑う。その笑顔に、小太郎の容態が重いものではないのだと知れて、また安堵した。
「この客間を銀時の部屋にと思っていたのですが、小太郎に占拠されてしまいましたね。今晩は私の部屋でやすみますか?」
ここまでの道中、旅籠では松陽とおなじ部屋に寝泊まりしていたのだから、いまさらそれに抵抗はなかったが。銀時はかぶりを振った。
「小太郎が心配ですか」
「しんぱい?」
そんな感情を銀時は持たなかった。ただ、なんとなくこの場を離れがたかっただけだ。
「それが心配しているということですよ。小太郎の容態が気に掛かるのでしょう?」
などと云われても、銀時には応えようがない。心配ってなんだ? 昼間会ったばかりのこの子どものことを、自分は気にしているんだろうか。
松陽は笑顔のまま、小太郎のふとんから少し離して銀時のぶんの寝床を伸べた。
「銀時は丈夫なようだから、風邪もうつったりはしないでしょう。今晩はここで小太郎に付いていてあげてください」
その、にこにことうれしそうなさまに、銀時は松陽の名を訊ねたときのことを思い出す。
「…なんで、笑ってんの」
「銀時が、ほかの人間に関心を持ってくれたからですよ。最初が私のなまえ。いまは、小太郎のぐあい」
ふうん。そんなことがうれしいのか。というか、これが関心を持つということなのか?
「溺れた子をたすけるのを手伝ってくれたこともね。銀時はきっと、やさしいこころを持っているのでしょう」
やさしいって、なんだろう。そのむかし、銀時、と呼んで護ってくれていた存在があったようにも思えるが、そんな感じのことだろうか。
小太郎は、銀時にとってよき存在になってくれそうですね。ええ、晋助も。
そうひとりごとに呟いて、松陽は客間を、銀時の居室となった六畳間を辞した。
灯明の落とされた座敷にぽつねんと残されて、銀時は小太郎の寝顔を見た。いまは熱にほんのり赤く染まった白い頬。障子越しに差し込む仄かな月明かりに浮かぶ横顔。ほどかれた髪がなめらかな輪郭に沿って流れて、敷布へと落ちている。つくりものみたいだ。きれいな子だな、と、あらためて銀時は思う。
そのくせ妙な口調といい頑固さといい無茶っぷりといい、松陽のとき同様、これも初めて見るたぐいの人種だった。そういえば、銀時の外見にも臆さなかったっけ。
やわらかなふとんに潜り込んで、少し離れてとなりで眠る顔を、倦かず眺める。そのままうとうとと睡りの淵をすべり落ちかけたとき、不意に耳もとで、ぱたり、と音がして、銀時はこれまでの習性で反射的に飛び起きた。
だが音はそれきり続かない。目をこらしてみると、すぐそばの畳に白い腕が投げ出されている。小太郎が寝返りを打ったものらしい。華奢な、という表現を当時の銀時は知らなかったから、ただ細い腕だなとだけ思った。この腕で、当人と変わらぬかそれ以上の体格の子どもをよくまあ引き摺り揚げたものだ。
音の正体がわかって、銀時はまたふとんに潜り込んだ。けれど、投げ出された腕が気になって寝付けない。このままだと寒いんじゃなかろうか。でも腕をとって戻せば起こしてしまうかもしれない。起こしてまた咳き込んだらどうしよう。せっかく静かに眠ってるのに。
銀時はしばし悩んで、おもむろに起きあがる。自分のふとんを引き摺って少しばかりとなりに寄せると、そうっと、細心の注意を払ってその腕を自分の敷き布団に乗せた。起きる気配がないのを見定めて、その横に身をすべらせる。掛け布団を被って、その腕ごと覆った。
肩口にある小太郎の仄白い手指を眺める。指も細いや。手まできれいなんだな。好奇心に負けて、ちょっとだけその指先に触れてみた。
つと、その指が触れた指を握るようにうごいて、銀時はあやうく声を上げるところだった。縋るようにちからの込められた指先に、ぐあいがわるくて心細いのかなと思う。それは銀時にも覚えのある感覚だったから、なんとなくその指を握りかえしてみた。小太郎の指が応えるようにぎゅっとしてきて、銀時はなんだかじぶんまでがこころやすらぐ感じがする。
ああ、そうか。
銀時なりに新たな生活に不安を覚えていたのだと、そのときになって初めて気づいた。
そのまま指を繋がせて、小太郎の寝息に誘われるように、銀時もまた、深い睡りの腕に抱かれていく。
翌朝。手指を繋いで、しろくろ二色のあたまをふとんから覗かせ並んで眠るふたりの子どもの姿に、松陽は開けさした襖障子をまた閉めた。
もう少し眠らせておいてあげよう。きっといの一番で、晋助がようすを見に飛んで来るだろう。
少し遅い朝餉の席で、銀時は、松陽のそのことばどおりの光景を目にする。
それはほんの少しまえには思うことすらなかった、銀時の新たな世界の到来を告げていた。
了 2008.08.05.
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