「天涯の遊子」 銀桂篇+土桂篇
銀時と桂と土方と。
新八、神楽、長谷川、沖田、近藤、ほか。
竜宮篇以降、モンハン篇よりまえ。
回数未定。其の一。銀時、桂、新八、神楽。
連作時系列では、土桂『白皙』のあと。
ここはどこだろう。
四肢がずきずきと痛む。だが幸い大きな怪我はないようだ。
そこまで考えて、丘の中腹の狭い道、センターラインを踏み越えてきた対向車を避けようと、愛用のベスパのハンドルを切り損ね、カーブから崖下へ転落したのだということを思い出した。同時に、後部座席に乗せていた同乗者のことを。
銀時は周章てて左右を見回した。
すぐそばにはフロントの凹んだベスパが転がっている。これが原形を留めているところからしても、背の低い草木がクッション代わりになったのだろう、落下の痕跡を残して無惨に折れ拉げているものが、頭上の道路から転々として見受けられる。だがそのどこにも、おのれのほかに人影はない。
まさか草木のあいまに埋もれてはいまいか。ちいさな軽いからだが宙に舞った姿を想像して、背中に冷たいものが流れるのを感じる。自分はどのくらい気を失っていたのだ。振り仰ぎ見た太陽は西に傾きかけていて、まだまだ中天にあるころにのんびりバイクを走らせていたのだから、一、二時間といったところだろうか。それ以上は経ってはいまいが、怪我が酷いならおおごとだ。
銀時はその名を呼び、からだの痛みなどわすれて、そこいら中を捜し回った。常ならば、ここまで焦ったりはしない。そんなにかんたんにくたばるやつじゃないことをだれより知っている。
だがいまは。
いまの桂は。
* * *
竜宮城から江戸へと帰還して、しばらくは老化ガスとそのワクチンの余波で混沌としていた世上も治まったころ、それは起きた。
「たのもう」
万事屋の玄関先で声がする。
神楽は定春の散歩、新八は買い出しで不在。応接間のソファでごろりとだらしなく横になっていた銀時は、開いたまま顔に乗せてあったジャンプを面倒くさそうに持ちあげた。
「留守でーす」
「いるではないか」
聞き覚えのあるもの云いで、声が返った。
「ヅラ?」
最初の一声でわからなかったのは、その声が馴染んだものよりずいぶんと幼く、そのくせ妙にくぐもって聞こえたからだ。
訝しんだ銀時は身を起こしながら、声を掛ける。
「鍵、開いてるぜ」
「しつれいする」
律儀な桂は、ひとこと挨拶をして、戸を開けた。
がた、ごと。がた、ごと。妙に手間取っている。
「たてつけがわるいな」
いつまで経っても入ってこないのに業を煮やして焦れた銀時は、ぽりぽりと腹をかきながら玄関に向かった。
がらり。
「なにやってんの、莫迦ヅラ」
なんなく開けて、見慣れた面(おもて)に文句を云いかけて、銀時はその標的を失った。否。正確にはその標的は、銀時の足もとにいたのだ。
「な……、んなの。おめぇ、そのかっこ」
それでもそれがひとめで桂とわかった自分は、やはり幼なじみなのだろう。応えようとした桂が、顔半分ほどを覆ったマスクを外し、口を開いて息を吸い込んだとたんに咳き込む。
ごほっ。ごほんごほん。ごほん。
「ちょ、おい、だいじょうぶかよ」
周章ててしゃがみ込んで背をさすってやる。銀時が、らしくもなくついそんな態度になったのは、目のまえの桂が年端もいかぬこどもの姿だったからだった。
すまん。ちょっと喉のぐあいもおかしくてな。いや風邪ではない。どうも副作用のようなのだ。じつは一昨日、早いうちがいいからと周りに勧められて、いんふるえんざの予防接種を受けたのだが、あっという間にこのざまで。医者が云うには、体内に残った先の抗老化うぃるすわくちんと妙な反応を引き起こしたのではないか、と。
銀時のつくったはちみつ入り生姜湯を飲みながら、あいまあいまにそう語った桂は、ことの当事者とも思えぬほどに、淡々として動じていない。どこからあつらえたのか、幼いなりにもきちんと袷に袴姿なのが往時をしのばせた。
「で。それでなんだって、そんなからだでうちに来たのよ」
「きさま、云ったではないか」
ちっとは銀さんに委せなさい。
「たしかに、云ったけど」
「このようななりでは、じょういかつどうもままならん。いや、かえって、エリザベスや同士たちのあしでまといになる。それはおれのほんいではない。ゆっくりようじょうしてくれと、みなも云うのでな。だから、きた」
「いや、だから、って。だからなんで」
なんだか話し方までたどたどしい。なかみはおとなのままだが、なりが幼少時のそれだから、身体の機能がついていかず口がうまくまわらないせいか。
「このすがたをみせたほうがはなしがはやいだろう。それでだな、まかせたいのは…」
遮る声が桂の語尾をかき消した。
「銀ちゃん、鈍いアル。病気で弱っている子どもが身近なおとなを頼るのはあたりまえネ」
「いや、病気じゃないからね。ワクチンの副作用だから」
「細かいことに拘るなヨ」
桂の話の途中で散歩から帰ってきた神楽は、幼い桂を見るなり、ちっちゃいだのかわいいだのを連発し、話を最後までおとなしく聞かせるのに苦労した。
桂は桂で周章てたように大きなマスクをしなおして、神楽から距離を取ろうとするのだが、神楽のほうはいっこうに頓着しないから困ったようすで銀時を見る。副作用ならうつらねーだろ。そうは思ったが、現状が現状だけになんとなく気持ちはわからないでもない。
「ヅラ、心配要らないヨ。部下の面倒を見るのはリーダーのつとめネ。ここで治るまで養生するヨロシ」
「そうですよ、銀さん。こんなちいさな桂さんを、まさか追い返したりしませんよね」
ついさっき買い出しから戻って、ことの経緯を遡って聞きなおした新八は、竜宮城で老いた銀時と桂につきあわされていたせいか、その逆の現象もあっさり受け入れてしまい、厨で夕食の準備を始めている。
「…追い返したりなんかしねーけど」
「決まりアル」
「じゃあ僕、和室のほうにふとん敷いてきますね。桂さん、疲れてるんじゃないですか。横になってたほうがいいですよ。体調のよくないときに予防接種を受けると却ってよくないっていいますよ。だから副作用も出ちゃったんじゃないんですか。お粥できたら運びますから」
喉の通りのよい食べもののほうがよさそうですね、と雪平鍋にことことと、米から粥を炊いていた新八は、そういって小走りに銀時の寝間へと向かった。まったくよく気がつくというか、気を回しすぎるというべきか。
「いや、新八くん。ありがたいがながいする気はないのだ。きみにもリーダーにもめいわくになってはいかん。たちよったのは、銀時におれのかわりをたのもうと」
「なにを云ってるネ。そんな風邪菌、ワタシの敵じゃないアル」
「だから風邪じゃねーし」
と口では云いながら、銀時から見ても桂が疲れているのはたしかなようで、桂のことだから、自分が寝込むようなことになってはならないと薬嫌いのくせに予防接種も受ける気になったのだろうが。逆効果どころか、こんなやっかいな副作用を背負い込んでくるあたりが。
「あー、もー。ほんとめんどくせーやつ」
ひとりごちて銀時は、よいせ、とソファから立ち上がると、そのまま厨に向かった。
「神楽、おめーはメシ食ったら、お妙んとこに泊まらせてもらいな。ぱっつぁん頼まぁ。粥はおれがやるから、さきにメシ食っちまえ」
「まて、銀時。おれはかわりさえたのめれば。あとは…ごほっ、かくれがに…でもごほごほ…もどって」
「副作用が治まるまでひとりでやりすごすってぇのか。莫迦かてめーは。ガキはおとなしくおとなを頼ってりゃいいんだよ」
「ガごほごほっキじゃない、桂だ」
「銀ちゃん。ワタシ大丈夫ね。ヅラの面倒みるアルヨ」
「駄目だ。おめーがいたら、こいつが要らん気を回すだろうがよ」
神楽は天人だから、地球の病原菌への耐性が未知数だ。これが副作用でも当人が咳き込んでいる以上、桂の懸念はもっともで、用心に越したことはない。そもそも定春の散歩の時間を見越して訪ねてきたふしがある。
「でも」
「咳が治まりゃ問題ねーだろ。それまでの辛抱だ。銀さんだってほかに仕事もあるからよ。そんときは神楽、おまえが世話しな」
ぽんぽんとあたまを撫でるように叩く。
「ほんとアルか。銀ちゃん、ちゃんとヅラの面倒みるアルか? ワタシにもまかせるネ?」
「神楽ちゃんだけだとお昼ごはんとか、困るでしょ。僕も看ますから」
それでも渋るふたりの子らをなんとか、釣瓶落としの陽差しの名残のあるうちに送り出す。無理矢理寝かしつけた桂は、幼い顔にほっとしたような表情を浮かべた。
ふとんのうえに半身を起こして、粥を木の匙で掬ってゆっくりと食べる。ちょうど桂と出会ったころか、いっそそれ以前にまで退行した姿は、いまの銀時とはまるきり親子のようだ。寝床の傍らで食事を摂りながら、そう気づいて銀時は思わず苦笑した。
幼いからだはエネルギーの配分がうまくいかないから、ぎりぎりまで体力を使い果たして、ことんと落ちるのが常だ。食事をすませると、桂はうつらうつらとしていたかと思えば、まもなく寝入ってしまった。
そもそも薬の副作用だから、これ以上飲ませる薬はない。生姜湯に玉子粥、からだを温めつつ消化のよいもので栄養をつけ、あとはゆっくり休養させるしかないだろう。体力が回復すれば体調も整って抵抗力も増すだろうから、このおかしな副作用も治まるんじゃないか。
そんな考えを巡らしながら銀時は、桂の乱れて顔に掛かった髪を指先で整える。
桂の頼みは、あすからしばらくバイトに代わりにでてくれ、ということだった。いま忙しい時期だ。つづけて休むと迷惑になる。かといってエリザベスには党首代行の責務もあるし。バイト代の八割がそのまま依頼料、というのだから、稼ぎの問題よりも、仕事に穴を空けないためなのだなと知れた。
夜の仕事だから、あすからは新八を泊まらせるしかないだろう。桂はひとりで大丈夫だと拒んだが、こんな状態でなに云ってやがる。いまのてめーは新八よりガキなんだから、諦めろ。と退けた。
黒服や客引きくらいなら、なんということもない。かまっ娘倶楽部のぶんはパー子にならざるをえないのが痛いところだが、この際はやむをえない。てか、いくつバイトを掛け持ちしてんだこいつ。そりゃ疲れもたまるだろうよ。
続 2008.12.31.
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ここはどこだろう。
四肢がずきずきと痛む。だが幸い大きな怪我はないようだ。
そこまで考えて、丘の中腹の狭い道、センターラインを踏み越えてきた対向車を避けようと、愛用のベスパのハンドルを切り損ね、カーブから崖下へ転落したのだということを思い出した。同時に、後部座席に乗せていた同乗者のことを。
銀時は周章てて左右を見回した。
すぐそばにはフロントの凹んだベスパが転がっている。これが原形を留めているところからしても、背の低い草木がクッション代わりになったのだろう、落下の痕跡を残して無惨に折れ拉げているものが、頭上の道路から転々として見受けられる。だがそのどこにも、おのれのほかに人影はない。
まさか草木のあいまに埋もれてはいまいか。ちいさな軽いからだが宙に舞った姿を想像して、背中に冷たいものが流れるのを感じる。自分はどのくらい気を失っていたのだ。振り仰ぎ見た太陽は西に傾きかけていて、まだまだ中天にあるころにのんびりバイクを走らせていたのだから、一、二時間といったところだろうか。それ以上は経ってはいまいが、怪我が酷いならおおごとだ。
銀時はその名を呼び、からだの痛みなどわすれて、そこいら中を捜し回った。常ならば、ここまで焦ったりはしない。そんなにかんたんにくたばるやつじゃないことをだれより知っている。
だがいまは。
いまの桂は。
* * *
竜宮城から江戸へと帰還して、しばらくは老化ガスとそのワクチンの余波で混沌としていた世上も治まったころ、それは起きた。
「たのもう」
万事屋の玄関先で声がする。
神楽は定春の散歩、新八は買い出しで不在。応接間のソファでごろりとだらしなく横になっていた銀時は、開いたまま顔に乗せてあったジャンプを面倒くさそうに持ちあげた。
「留守でーす」
「いるではないか」
聞き覚えのあるもの云いで、声が返った。
「ヅラ?」
最初の一声でわからなかったのは、その声が馴染んだものよりずいぶんと幼く、そのくせ妙にくぐもって聞こえたからだ。
訝しんだ銀時は身を起こしながら、声を掛ける。
「鍵、開いてるぜ」
「しつれいする」
律儀な桂は、ひとこと挨拶をして、戸を開けた。
がた、ごと。がた、ごと。妙に手間取っている。
「たてつけがわるいな」
いつまで経っても入ってこないのに業を煮やして焦れた銀時は、ぽりぽりと腹をかきながら玄関に向かった。
がらり。
「なにやってんの、莫迦ヅラ」
なんなく開けて、見慣れた面(おもて)に文句を云いかけて、銀時はその標的を失った。否。正確にはその標的は、銀時の足もとにいたのだ。
「な……、んなの。おめぇ、そのかっこ」
それでもそれがひとめで桂とわかった自分は、やはり幼なじみなのだろう。応えようとした桂が、顔半分ほどを覆ったマスクを外し、口を開いて息を吸い込んだとたんに咳き込む。
ごほっ。ごほんごほん。ごほん。
「ちょ、おい、だいじょうぶかよ」
周章ててしゃがみ込んで背をさすってやる。銀時が、らしくもなくついそんな態度になったのは、目のまえの桂が年端もいかぬこどもの姿だったからだった。
すまん。ちょっと喉のぐあいもおかしくてな。いや風邪ではない。どうも副作用のようなのだ。じつは一昨日、早いうちがいいからと周りに勧められて、いんふるえんざの予防接種を受けたのだが、あっという間にこのざまで。医者が云うには、体内に残った先の抗老化うぃるすわくちんと妙な反応を引き起こしたのではないか、と。
銀時のつくったはちみつ入り生姜湯を飲みながら、あいまあいまにそう語った桂は、ことの当事者とも思えぬほどに、淡々として動じていない。どこからあつらえたのか、幼いなりにもきちんと袷に袴姿なのが往時をしのばせた。
「で。それでなんだって、そんなからだでうちに来たのよ」
「きさま、云ったではないか」
ちっとは銀さんに委せなさい。
「たしかに、云ったけど」
「このようななりでは、じょういかつどうもままならん。いや、かえって、エリザベスや同士たちのあしでまといになる。それはおれのほんいではない。ゆっくりようじょうしてくれと、みなも云うのでな。だから、きた」
「いや、だから、って。だからなんで」
なんだか話し方までたどたどしい。なかみはおとなのままだが、なりが幼少時のそれだから、身体の機能がついていかず口がうまくまわらないせいか。
「このすがたをみせたほうがはなしがはやいだろう。それでだな、まかせたいのは…」
遮る声が桂の語尾をかき消した。
「銀ちゃん、鈍いアル。病気で弱っている子どもが身近なおとなを頼るのはあたりまえネ」
「いや、病気じゃないからね。ワクチンの副作用だから」
「細かいことに拘るなヨ」
桂の話の途中で散歩から帰ってきた神楽は、幼い桂を見るなり、ちっちゃいだのかわいいだのを連発し、話を最後までおとなしく聞かせるのに苦労した。
桂は桂で周章てたように大きなマスクをしなおして、神楽から距離を取ろうとするのだが、神楽のほうはいっこうに頓着しないから困ったようすで銀時を見る。副作用ならうつらねーだろ。そうは思ったが、現状が現状だけになんとなく気持ちはわからないでもない。
「ヅラ、心配要らないヨ。部下の面倒を見るのはリーダーのつとめネ。ここで治るまで養生するヨロシ」
「そうですよ、銀さん。こんなちいさな桂さんを、まさか追い返したりしませんよね」
ついさっき買い出しから戻って、ことの経緯を遡って聞きなおした新八は、竜宮城で老いた銀時と桂につきあわされていたせいか、その逆の現象もあっさり受け入れてしまい、厨で夕食の準備を始めている。
「…追い返したりなんかしねーけど」
「決まりアル」
「じゃあ僕、和室のほうにふとん敷いてきますね。桂さん、疲れてるんじゃないですか。横になってたほうがいいですよ。体調のよくないときに予防接種を受けると却ってよくないっていいますよ。だから副作用も出ちゃったんじゃないんですか。お粥できたら運びますから」
喉の通りのよい食べもののほうがよさそうですね、と雪平鍋にことことと、米から粥を炊いていた新八は、そういって小走りに銀時の寝間へと向かった。まったくよく気がつくというか、気を回しすぎるというべきか。
「いや、新八くん。ありがたいがながいする気はないのだ。きみにもリーダーにもめいわくになってはいかん。たちよったのは、銀時におれのかわりをたのもうと」
「なにを云ってるネ。そんな風邪菌、ワタシの敵じゃないアル」
「だから風邪じゃねーし」
と口では云いながら、銀時から見ても桂が疲れているのはたしかなようで、桂のことだから、自分が寝込むようなことになってはならないと薬嫌いのくせに予防接種も受ける気になったのだろうが。逆効果どころか、こんなやっかいな副作用を背負い込んでくるあたりが。
「あー、もー。ほんとめんどくせーやつ」
ひとりごちて銀時は、よいせ、とソファから立ち上がると、そのまま厨に向かった。
「神楽、おめーはメシ食ったら、お妙んとこに泊まらせてもらいな。ぱっつぁん頼まぁ。粥はおれがやるから、さきにメシ食っちまえ」
「まて、銀時。おれはかわりさえたのめれば。あとは…ごほっ、かくれがに…でもごほごほ…もどって」
「副作用が治まるまでひとりでやりすごすってぇのか。莫迦かてめーは。ガキはおとなしくおとなを頼ってりゃいいんだよ」
「ガごほごほっキじゃない、桂だ」
「銀ちゃん。ワタシ大丈夫ね。ヅラの面倒みるアルヨ」
「駄目だ。おめーがいたら、こいつが要らん気を回すだろうがよ」
神楽は天人だから、地球の病原菌への耐性が未知数だ。これが副作用でも当人が咳き込んでいる以上、桂の懸念はもっともで、用心に越したことはない。そもそも定春の散歩の時間を見越して訪ねてきたふしがある。
「でも」
「咳が治まりゃ問題ねーだろ。それまでの辛抱だ。銀さんだってほかに仕事もあるからよ。そんときは神楽、おまえが世話しな」
ぽんぽんとあたまを撫でるように叩く。
「ほんとアルか。銀ちゃん、ちゃんとヅラの面倒みるアルか? ワタシにもまかせるネ?」
「神楽ちゃんだけだとお昼ごはんとか、困るでしょ。僕も看ますから」
それでも渋るふたりの子らをなんとか、釣瓶落としの陽差しの名残のあるうちに送り出す。無理矢理寝かしつけた桂は、幼い顔にほっとしたような表情を浮かべた。
ふとんのうえに半身を起こして、粥を木の匙で掬ってゆっくりと食べる。ちょうど桂と出会ったころか、いっそそれ以前にまで退行した姿は、いまの銀時とはまるきり親子のようだ。寝床の傍らで食事を摂りながら、そう気づいて銀時は思わず苦笑した。
幼いからだはエネルギーの配分がうまくいかないから、ぎりぎりまで体力を使い果たして、ことんと落ちるのが常だ。食事をすませると、桂はうつらうつらとしていたかと思えば、まもなく寝入ってしまった。
そもそも薬の副作用だから、これ以上飲ませる薬はない。生姜湯に玉子粥、からだを温めつつ消化のよいもので栄養をつけ、あとはゆっくり休養させるしかないだろう。体力が回復すれば体調も整って抵抗力も増すだろうから、このおかしな副作用も治まるんじゃないか。
そんな考えを巡らしながら銀時は、桂の乱れて顔に掛かった髪を指先で整える。
桂の頼みは、あすからしばらくバイトに代わりにでてくれ、ということだった。いま忙しい時期だ。つづけて休むと迷惑になる。かといってエリザベスには党首代行の責務もあるし。バイト代の八割がそのまま依頼料、というのだから、稼ぎの問題よりも、仕事に穴を空けないためなのだなと知れた。
夜の仕事だから、あすからは新八を泊まらせるしかないだろう。桂はひとりで大丈夫だと拒んだが、こんな状態でなに云ってやがる。いまのてめーは新八よりガキなんだから、諦めろ。と退けた。
黒服や客引きくらいなら、なんということもない。かまっ娘倶楽部のぶんはパー子にならざるをえないのが痛いところだが、この際はやむをえない。てか、いくつバイトを掛け持ちしてんだこいつ。そりゃ疲れもたまるだろうよ。
続 2008.12.31.
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