二十万打御礼リクエスト。坂誕遅刻。
【坂桂で、坂本に甘え倒す桂と、その現場を偶然見てしまって地の底まで落ち込む銀】
銀時視点の坂桂。
坂本と桂。と、銀時。
視点のちがう坂桂は落としどころがむずかしかった…。
このネタで深く書くとシリアス展開になってしまうので、あえて軽く。
分けるほどの話じゃないけど長さが中途半端なのでいったん切る。
前後篇、前篇。
銀時が桂の隠れ処を訪ねると、出迎えたのは白いペンギンお化けだった。
「なに、あいついねーの?」
『桂さんならお出かけになりました』
ふっくらとした外見に似せず、いつもながらすばやく看板を掲げて応える。
「あいつがおめーを置いてくなんざめずらしいじゃん」
『きょうはべつのボディガードがいますから』
や、あいつにボディガードは要らねぇだろ。素手で熊だって倒せるやつだ。猫の尻尾を剣化して鋼鉄の檻を一刀両断にするやつだぞ。
『またの名をゴールドカードとも云いますが』
げっ。それってもしや。
江戸に戻ってきてやがったのか、あいつ。にしても帰るなり桂を連れ出してふたりきりで出掛けているとなれば、銀時の内心は穏やかではない。桂にとって坂本と自分とは存在の意味がちがうのだとあたまではわかっていても、しょせん感情なんてそんなもので割り切れるもんじゃないからやっかいだ。
ともあれ、ひさしぶりにふたりの時間を持てる、という当てが外れて銀時はうさばらしにパチンコ屋に向かった。
ちーん、じゃらじゃらじゃら。
「おー。きたきた」
ギャンブルの神さまが同情でもしてくれたのか、めずらしく当たりの台を引いた。ハコをおおかた埋める銀の玉に銀時の気分もやや上方修正される。鼻歌まじりになにげにガラス窓越しに通りを見ると、一瞬見慣れた長い黒髪がよぎった。ような気がした。
「…ヅラ?」
立ち上がりかけて、いやいやと思いなおす。どうせいまごろあいつは辰馬といるんだし。坂本ひとりならともかく、あの黒もじゃが桂を連れてこんな場末の遊興場に来るはずもない。坂本ならおのれには足を踏み入れることさえかなわぬ別天地にだって連れて行ってやれるだろう。などと自虐気味に考える。浮上したはずの気分がまたぞろ沈みかけて、銀時はぶんぶんと首を振った。
ちーん、じゃらじゃら。
「おーう。絶好調ぅ」
気を取りなおすようにひとりごちてふたたびパチンコ台に意識を持っていこうとするが、ほどなく耳に届いた声にそれは水泡に帰した。
「ここでえいがか」
「うむ」
見れば、長い黒髪の見慣れた蒼い着物姿がパチンコ屋の景品の並んだディスプレイを眺めながら、長身に赤茶の外套を纏ったサングラス姿のもじゃもじゃあたまを伴って、店に入ってくる。
え、なんで。あいつパチンコなんてやんの。
内心で呟いて銀時は、思わずパチンコ台の影に身を隠すようにして、店の出入り口を覗き見た。
なんで俺、隠れてるの。隠れる必要なんかねーじゃん。
そうは思うが、からだは無意識のままに気配を消そうとしている。店内放送と出玉の音のけたたましく響く喧噪のなかでは銀時に気づくこともなく、ふたりはパチンコ台の並ぶいくつもの道を結ぶホールの通路を歩く。
「賭け事にさしたる興味はないが、党首たるもの、こうした世情にも通じておらぬとな。ちかごろは、あにめやどらまの往年の名作やらなにやらのきゃらくたーなるもののぱちんこ台もあるらしく、同志たちのあいだでぶーむになっておるのだ。会合で会話に混ざれぬのでは、円滑な話し合いの妨げになる」
って、なんの会合だよ。どういう攘夷活動だよ、それ。あいかわらずゆるい連中だな。
心のなかでだけ突っ込んで、銀時はそちらの気配に全身の器官を集中させた。
桂は坂本にきまじめにパチンコのしかたを問うている。パチンコ台と店員と客と煙草の煙に遮られながら垣間見る、どんなときでも無駄にきれいなその顔はたのしげだ。
なんでだよ。ここに来るくらいのことなら俺に云えばいいじゃん。
ふたたび急降下していく気分を紛らすように、銀時はいっそう熱心に玉を弾く。
ああ、そうかお財布か。俺じゃ玉もろくに買えねぇもんなぁ。
ちん。じゃらじゃらじゃら。ちくしょう、こんな日に限って絶好調だ。
溢れ出す勢いの銀玉に手慣れたしぐさでハコを入れ替え、満杯の一個目を足もとに置いた。
「おお!坂本坂本。なにやらいっぱい玉がでてきたぞ」
はしゃぐ桂の声に坂本が相好を崩すのが容易く想像できた。
「そん調子じゃー桂さん」
台をまえにかじりつくように座っている桂の背後から、立って見ていた坂本が覗き込むようにして顔を寄せる。肩越しのそのもじゃあたまを桂は嫌がるでもなく、気持ち振り返るようにして笑んだ。しかも、銀時だって滅多に見ることのない極上の笑顔だ。
なんだよ、きょうは出血大サービスデーですか、このやろー。
「これが巷で云う、びぎなーずらっくとやらか」
「けんどこれで病み付きになったりしやーせんか。そしたらどうするがだ」
桂の背をうしろから覆うように半身を傾げて、坂本もまた、いつもの豪快だが気の抜けたような笑いとはちがう、愛しさに溢れた慈しむような笑みをおもてに乗せている。
「いつもこうなら攘夷活動の資金も潤沢になるがなぁ。…ああ、現金には換えられぬのだったか」
「まあ、非合法でならこたわんこともないきね」
「きょうのところはよいのだ。これ何杯なら景品と引き換えできるものかな」
桂はあっというまに満杯になったハコを坂本に示した。
じゃらじゃらじゃらじゃら。
「おおっと。いかん桂さん。もうハコを交換せんと」
「交換?どうやるのだ」
じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら。桂が呑気に受け応える間にも溢れ出した玉に、坂本は周章てて桂の傍らにしゃがみ込んでハコを手早く入れ替える。
「おお。やるな、坂本」
ついでに散らばった玉もすばやく拾い集めて、空いているハコに投げ込んだ。
そのようすを周囲の客がちらちらと見ているのは、派手な出玉のせいばかりではあるまい。妙に場違いな整いすぎた能面の美貌の主と、それに無邪気に甘えられるおとこへのやっかみと羨望が透けて見える。
「さっき熱心に眺めちょったがけど、あれが欲しいがかぇ」
「うむ」
そう頷く桂の双眸はやけに真剣で、坂本を見つめる眼差しは、頼みとしているぞ、とばかりに煌めく。ことがパチンコなどというものだけに桂は門外漢であるがゆえもあろうが、それにしても。
「変わらんのう、桂さんは」
坂本はふたたび桂の席の背後からその痩躯を抱え込むように立って、パチンコ台の表面のガラスに映る桂の顔を覗き込んだ。桂はやはり気にするふうもなく、また熱心に玉を弾き出す。ときおり、無意識なのかおのれの両脇におかれた坂本の腕を叩いたり袖口をひっぱったりして、助言を請うている。そのたび坂本もあれやこれやと応えてやっている。
どうにもいたたまれなくなって銀時は手前ぇのハコを抱えて、席を離れた。
景品交換所で銀玉は、万事屋のきょうのぶんの食料と銀時のおやつの甘味に化けた。パチンコ屋を飛び出してはきたものの、あのふたりが気になってその場を離れるに離れられない。こんなことならあのまま当たり台のまえに座って稼げるだけ稼いでいたらよかったんだ、と思ってみても後の祭りである。
隠れて覗き見、ふたりの会話に聞き耳を立てるような真似をしているおのれに厭気が差したからだが、店先を右に過ぎり、また左に返す、を繰り返しているようではやっていることはたいして変わらない。
ふんぎりがつかないまま銀時が店先をうろうろしているところへ、なかからふたりがでてくる気配に、大あわてでパチンコ屋の脇の路地に駆け込んだ。
桂は機嫌よく、ちょうど胸に抱えるくらいの白いぬいぐるみを手にしている。いつもの溺愛する白いものの似姿のそれではなく、どうやらふわふわの四つ足のようだった。正面から抱きしめているから三角の両耳とふんわりとした背中とフランクフルトのような尻尾しか見えず、伸びた手足からまるいピンクの肉球が覗いているところを見ると、おおかたいぬかねこ、といったところだろう。
並んだ坂本が、持とうか、というしぐさを見せたが、桂は首を横に振った。
「よいのだ。それよりどこかでうまい蕎麦でも食いたい」
「ほんなら、しょうえい店を知っちゅう」
坂本は慣れたようすで流しの駕籠屋を止めると、いったんぬいぐるみを預かって桂をさきに乗せ、桂が車内でだいじそうにそれを受け取ると、その隣に身を滑らせた。
半ば茫然とそれを見送り、どんよりと重い空気を背負った銀時が、その場に立ち尽くす。
おのれにはあんな真似はできない。桂のほうもまた銀時にそれを求めたりはしないが、自分にはまず滅多に望まないことをほかのおとこにねだるさまは、当人にその意識が無くとも見せつけられているようなものだった。
続 2010.11.16.
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銀時が桂の隠れ処を訪ねると、出迎えたのは白いペンギンお化けだった。
「なに、あいついねーの?」
『桂さんならお出かけになりました』
ふっくらとした外見に似せず、いつもながらすばやく看板を掲げて応える。
「あいつがおめーを置いてくなんざめずらしいじゃん」
『きょうはべつのボディガードがいますから』
や、あいつにボディガードは要らねぇだろ。素手で熊だって倒せるやつだ。猫の尻尾を剣化して鋼鉄の檻を一刀両断にするやつだぞ。
『またの名をゴールドカードとも云いますが』
げっ。それってもしや。
江戸に戻ってきてやがったのか、あいつ。にしても帰るなり桂を連れ出してふたりきりで出掛けているとなれば、銀時の内心は穏やかではない。桂にとって坂本と自分とは存在の意味がちがうのだとあたまではわかっていても、しょせん感情なんてそんなもので割り切れるもんじゃないからやっかいだ。
ともあれ、ひさしぶりにふたりの時間を持てる、という当てが外れて銀時はうさばらしにパチンコ屋に向かった。
ちーん、じゃらじゃらじゃら。
「おー。きたきた」
ギャンブルの神さまが同情でもしてくれたのか、めずらしく当たりの台を引いた。ハコをおおかた埋める銀の玉に銀時の気分もやや上方修正される。鼻歌まじりになにげにガラス窓越しに通りを見ると、一瞬見慣れた長い黒髪がよぎった。ような気がした。
「…ヅラ?」
立ち上がりかけて、いやいやと思いなおす。どうせいまごろあいつは辰馬といるんだし。坂本ひとりならともかく、あの黒もじゃが桂を連れてこんな場末の遊興場に来るはずもない。坂本ならおのれには足を踏み入れることさえかなわぬ別天地にだって連れて行ってやれるだろう。などと自虐気味に考える。浮上したはずの気分がまたぞろ沈みかけて、銀時はぶんぶんと首を振った。
ちーん、じゃらじゃら。
「おーう。絶好調ぅ」
気を取りなおすようにひとりごちてふたたびパチンコ台に意識を持っていこうとするが、ほどなく耳に届いた声にそれは水泡に帰した。
「ここでえいがか」
「うむ」
見れば、長い黒髪の見慣れた蒼い着物姿がパチンコ屋の景品の並んだディスプレイを眺めながら、長身に赤茶の外套を纏ったサングラス姿のもじゃもじゃあたまを伴って、店に入ってくる。
え、なんで。あいつパチンコなんてやんの。
内心で呟いて銀時は、思わずパチンコ台の影に身を隠すようにして、店の出入り口を覗き見た。
なんで俺、隠れてるの。隠れる必要なんかねーじゃん。
そうは思うが、からだは無意識のままに気配を消そうとしている。店内放送と出玉の音のけたたましく響く喧噪のなかでは銀時に気づくこともなく、ふたりはパチンコ台の並ぶいくつもの道を結ぶホールの通路を歩く。
「賭け事にさしたる興味はないが、党首たるもの、こうした世情にも通じておらぬとな。ちかごろは、あにめやどらまの往年の名作やらなにやらのきゃらくたーなるもののぱちんこ台もあるらしく、同志たちのあいだでぶーむになっておるのだ。会合で会話に混ざれぬのでは、円滑な話し合いの妨げになる」
って、なんの会合だよ。どういう攘夷活動だよ、それ。あいかわらずゆるい連中だな。
心のなかでだけ突っ込んで、銀時はそちらの気配に全身の器官を集中させた。
桂は坂本にきまじめにパチンコのしかたを問うている。パチンコ台と店員と客と煙草の煙に遮られながら垣間見る、どんなときでも無駄にきれいなその顔はたのしげだ。
なんでだよ。ここに来るくらいのことなら俺に云えばいいじゃん。
ふたたび急降下していく気分を紛らすように、銀時はいっそう熱心に玉を弾く。
ああ、そうかお財布か。俺じゃ玉もろくに買えねぇもんなぁ。
ちん。じゃらじゃらじゃら。ちくしょう、こんな日に限って絶好調だ。
溢れ出す勢いの銀玉に手慣れたしぐさでハコを入れ替え、満杯の一個目を足もとに置いた。
「おお!坂本坂本。なにやらいっぱい玉がでてきたぞ」
はしゃぐ桂の声に坂本が相好を崩すのが容易く想像できた。
「そん調子じゃー桂さん」
台をまえにかじりつくように座っている桂の背後から、立って見ていた坂本が覗き込むようにして顔を寄せる。肩越しのそのもじゃあたまを桂は嫌がるでもなく、気持ち振り返るようにして笑んだ。しかも、銀時だって滅多に見ることのない極上の笑顔だ。
なんだよ、きょうは出血大サービスデーですか、このやろー。
「これが巷で云う、びぎなーずらっくとやらか」
「けんどこれで病み付きになったりしやーせんか。そしたらどうするがだ」
桂の背をうしろから覆うように半身を傾げて、坂本もまた、いつもの豪快だが気の抜けたような笑いとはちがう、愛しさに溢れた慈しむような笑みをおもてに乗せている。
「いつもこうなら攘夷活動の資金も潤沢になるがなぁ。…ああ、現金には換えられぬのだったか」
「まあ、非合法でならこたわんこともないきね」
「きょうのところはよいのだ。これ何杯なら景品と引き換えできるものかな」
桂はあっというまに満杯になったハコを坂本に示した。
じゃらじゃらじゃらじゃら。
「おおっと。いかん桂さん。もうハコを交換せんと」
「交換?どうやるのだ」
じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら。桂が呑気に受け応える間にも溢れ出した玉に、坂本は周章てて桂の傍らにしゃがみ込んでハコを手早く入れ替える。
「おお。やるな、坂本」
ついでに散らばった玉もすばやく拾い集めて、空いているハコに投げ込んだ。
そのようすを周囲の客がちらちらと見ているのは、派手な出玉のせいばかりではあるまい。妙に場違いな整いすぎた能面の美貌の主と、それに無邪気に甘えられるおとこへのやっかみと羨望が透けて見える。
「さっき熱心に眺めちょったがけど、あれが欲しいがかぇ」
「うむ」
そう頷く桂の双眸はやけに真剣で、坂本を見つめる眼差しは、頼みとしているぞ、とばかりに煌めく。ことがパチンコなどというものだけに桂は門外漢であるがゆえもあろうが、それにしても。
「変わらんのう、桂さんは」
坂本はふたたび桂の席の背後からその痩躯を抱え込むように立って、パチンコ台の表面のガラスに映る桂の顔を覗き込んだ。桂はやはり気にするふうもなく、また熱心に玉を弾き出す。ときおり、無意識なのかおのれの両脇におかれた坂本の腕を叩いたり袖口をひっぱったりして、助言を請うている。そのたび坂本もあれやこれやと応えてやっている。
どうにもいたたまれなくなって銀時は手前ぇのハコを抱えて、席を離れた。
景品交換所で銀玉は、万事屋のきょうのぶんの食料と銀時のおやつの甘味に化けた。パチンコ屋を飛び出してはきたものの、あのふたりが気になってその場を離れるに離れられない。こんなことならあのまま当たり台のまえに座って稼げるだけ稼いでいたらよかったんだ、と思ってみても後の祭りである。
隠れて覗き見、ふたりの会話に聞き耳を立てるような真似をしているおのれに厭気が差したからだが、店先を右に過ぎり、また左に返す、を繰り返しているようではやっていることはたいして変わらない。
ふんぎりがつかないまま銀時が店先をうろうろしているところへ、なかからふたりがでてくる気配に、大あわてでパチンコ屋の脇の路地に駆け込んだ。
桂は機嫌よく、ちょうど胸に抱えるくらいの白いぬいぐるみを手にしている。いつもの溺愛する白いものの似姿のそれではなく、どうやらふわふわの四つ足のようだった。正面から抱きしめているから三角の両耳とふんわりとした背中とフランクフルトのような尻尾しか見えず、伸びた手足からまるいピンクの肉球が覗いているところを見ると、おおかたいぬかねこ、といったところだろう。
並んだ坂本が、持とうか、というしぐさを見せたが、桂は首を横に振った。
「よいのだ。それよりどこかでうまい蕎麦でも食いたい」
「ほんなら、しょうえい店を知っちゅう」
坂本は慣れたようすで流しの駕籠屋を止めると、いったんぬいぐるみを預かって桂をさきに乗せ、桂が車内でだいじそうにそれを受け取ると、その隣に身を滑らせた。
半ば茫然とそれを見送り、どんよりと重い空気を背負った銀時が、その場に立ち尽くす。
おのれにはあんな真似はできない。桂のほうもまた銀時にそれを求めたりはしないが、自分にはまず滅多に望まないことをほかのおとこにねだるさまは、当人にその意識が無くとも見せつけられているようなものだった。
続 2010.11.16.
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