Armed angel #04 一期(第三話あたり) ニルティエ
ソレスタルビーイングによる武力介入行動開始後まもなく。
セカンドミッション終了ののち。ニールとティエリアの逢瀬の夜。
徹頭徹尾エロ。R18。
ちょっと中途半端な長さなので短めだけど三回に分ける。
全三回。その1。
羊水に抱かれた未成熟な肢体が、藍緑色に淡く光るポッドのなかで佇んでいる。眠るように閉じられていたその瞼がゆっくりと擡げられて、水を溶かしこんだようなふたつの紅玉が、透明な窓越しに凝然とニールを見つめた。
ときおり夢に見るそれは、医療ポッドで眠るティエリアのようでいて、やはりそうではなく、しかしその紅玉はたしかにティエリアのものにちがいない。
人間であれと思うこころの隙間に、人外であることの不確かな現実が這入り込み、夢寐を侵しているものか。そんなとき目覚めはいつも曖昧で、ニールはおのれの意識を叱咤する。この目でこの耳でこの口でこの腕で、おのが全身でたしかめるものだけが、おのれにとっての真実だ。
だから、抱きたい。ただ欲望の果てにではなく。ありのままのティエリアをまるごと抱きしめるために。
セカンドミッションは無事ラストフェイズを終えて完遂された。
さきに単機で帰還行動をしていながら帰投の遅れている刹那・F・セイエイを除いたマイスター三人は機体を無人島に隠し置き、ヴァーチェのみを軌道エレベーター天柱からコロニー開発用の資材に紛れ込ませて宇宙(そら)にもどすべく手筈を調える。機体とともにプトレマイオスに帰還するティエリアの搭乗予定時刻は明日、グリニッジ標準時五時三十二分、現地時間で十四時十八分発のリニアトレインである。
つまりはそれまでが、ニールに与えられたティエリアの時間ということだ。ファーストミッション開始まえにラグランジュ3の基地で取り付けた約束の。
無人島から天柱地上ステーションへの移動に利便な宿泊先に移動し、各々にあてがわれた一室でニールはティエリアを待っている。
ほどなく、ティエリアは予告どおりニールの部屋を訪ねてきた。来訪を告げるインターフォンに部屋のドアを開ける。
「よう」
いつもの調子でそう声を掛けて部屋に招じ入れ、いつものように挨拶代わりのさりげないキスを贈った。
「おれは、どうすれば?」
のっけからのティエリアの生真面目な問いに、ニールはちいさく笑ってその身をそっと抱きよせる。
「そう硬くなりなさんな。すぐにどうこうしたりしねぇから」
背中にやわらかく腕を回し、もう一方の手で紫黒の髪を撫でた。ティエリアはおとなしくその腕に収まったが、なにを思ったか、ふいにニールの背に腕を回して着ていたベストをぎゅっとつかんだ。そのまま顔をTシャツの胸に押しつけてくる。
「…っと。どうした、ティエリア?」
ついぞ馴染みのない挙動に、些か面食らう。
「あなたの、匂いだ」
「……っ」
驚きのあまり、息が止まるかと思った。
「地上は、うるさい。強制される音の洪水、あふれかえる雑多な匂い、肌にまとわりつく湿気、刻々と変わる気温、みんなみんな鬱陶しいばかりだ」
「ティエリア」
「でもこの匂いは知っている。あなたは宇宙(そら)とおなじ匂いがする。ここは…落ち着く」
「あー……」
一瞬どうしていいのかわからなくなった。無垢なる凶器だ。年長者のよゆうなど粉微塵に破壊してくれる。
「あんま…煽るなよ。だいち…落ち着かれても困るんだけど」
「? …意味がわからない」
かたちのよい鼻梁をTシャツに押しあてたまま、ティエリアはニールのおもてを仰ぐ。素通しの眼鏡越しに、深紅の双眸はいまも清んでいる。ニールは髪を撫でていた指先で邪魔なフレームをつまんで外し、その顎を掬うようにしてたまらず深く口接けた。
「ん…む」
いきなりもたらされた濃厚な接吻に、背に回されていたティエリアの腕が反射的にニールを引き剥がそうともがく。それにかまわずにねっとりと舌を絡めてティエリアが覚えた快感を引き出すことに専念した。
絡めた舌を解いて口唇に囁きを落とし、軽く啄むだけのキスを与えては、また深く口を吸う。舌先で口蓋を擽ってはすぐにも引っ込み、ティエリアの舌が無意識にそれを追うのをたしかめる。しばらくそうしてキスを繰り返していると、華奢なからだから強張りが消え弛んでいくのがわかった。
抱きよせたままその身を促してベッドに寝そべらせる。枕もとのサイドボードに眼鏡を置き、ベストとシャツを脱ぎ捨ててニールはティエリアの上に覆い被さった。
真下になった紅玉がニールの碧緑を見つめてくる。その目のまえで、挑むかのようにゆっくりと両の手の革手袋を外しに掛かった。肌に馴染んだ焦げ茶のグローブの五本の指先を順に口で軽く銜えて緩め、掌から捲るように抜き取っていく。ティエリアの深紅の眸はじっとそのうごきを追っている。魅入られたように、薄くひらかれた口唇が接吻に濡れてあやしく光る。
「…く」
迫り上がるものを怺えてグローブをまとめてサイドボードに放り、ニールはその口唇をぺろりと舐めると、そのまま白い頸筋に舌を這わせた。喉もとをつよく吸って鎖骨の窪みを甘噛みする。素手となった掌でからだの稜線をなぞりながら、薄桃色のカーディガンと薄緑のシャツのボタンをひとつずつ外した。ティエリアはその触れるか触れないかの感触に身を捩らせて、ニールの胡桃色の髪をつかむ。やがてはだけた胸の晒された白磁の肌に、吸い寄せられるようにニールは口接けはじめた。
しっとりとした肌理の細かな肌合いを両の掌で存分に味わいつつ、鎖骨から胸、脇腹を辿って腰骨へと至り、それをまた、腰骨から腹、胸を辿って鎖骨へと、このうえなくきれいなからだの触り心地をたしかめる。
その間に胸の淡い尖りを舌で押し潰し、軽く歯を立てて、吸う。
「ひ……うっ」
慣れぬ刺激にティエリアの背が撓う。もうひとつを指の腹で押し込んではつまみ上げ、くいと拗る。口唇と指先とを交互に違えて左右を責めた。
「は………ぁふ………ロ…ックオン…」
戸惑いと愉悦に掠れた声がおのれの名を呼ぶ。それに意識を揺蕩わせながらニールの口唇は、薄く筋肉の乗った胸もとから腹部へと降りてゆく。ベルトを緩めて細身の引き締まった腰を引き出し、そのまま脇腹くぐって、いくつもの朱痕を残した。用を為さなくなった上衣とシャツを腕から抜いて、ベッドの下に落とす。露わになった背中の目も眩むような艶めいた白さに、浅ましく喉が鳴った。
「ティエリ…ア…」
横から抱いてその背中にも口接けを落とす。腰から背筋を遡って貝殻骨を掠め、肩先そして二の腕のうちまで、接吻と甘噛みとを繰り返した。
「ロック…オン」
次第に浅く早くなってゆくティエリアの息が、薄い胸を波打たせる。その胸に両脇から回した掌で戯れ掛かりながら、背後から紫黒の髪を掻き分け頸筋に鼻を埋め、ニールは匂い立つ肌の熱を感じ取る。その肌を吸いながら、背中から抱え込むように掌を下腹へと這わせた。
「や…っ」
スラックスの釦を外しながら、意識的にその指を肌側へと押し込む。ティエリアの腰が逃げをうつ。むろんのことゆるさずに、開いた前立てから下着のなかに掌を滑り込ませた。うすい茂みから淡く兆したものを握り込む。とたん、ひゅっと息を呑んだティエリアが、激しく抵抗した。
「やっ。いやだっ」
おのれの腰に回されたおとこの腕をきつくつかみ、外そうともがく。下膊に爪が食い込み、痕を残した。ばたつく両脚は中途半端に緩んだ下衣に阻まれ、却ってうごきを狭めるばかりだ。ニールは怯まず、耳もとでティエリアの名を呼びながら、絡めた指をゆっくりとうごかす。やわやわと揉みしだきながら、付け根から尖端へと扱く。窪みに爪を食い込ませて、雁と裏筋とを嬲った。
「や…だ。や…ぁ」
ロックオン…、と消え入るような声で名を呼んで、かぶりを振って拒絶の意を繰り返す。たしかに反応はあるのに、それがまだ快感につながっていない。
「ティエリア…?」
ただただ髪を乱して首を振るティエリアに、ニールはふいに確信めいた真実に思い至った。
「触れたこと…ないのか? 自分でも?」
がくがくと頷くばかりのティエリアに、ニールは手のうごきを止めて、落ち着かせるようにやわらかな声音で背中越しに囁く。
「知識がないわけじゃ…ないよな。いま、俺がしていることの意味は、わかってるか?」
「…理解…している」
そう応える声にはいつもの張りはなかったが、ニールの手が止まったことでひと息ついたのか、ティエリアはこんどはしっかりと頷いた。
「自慰も、わかる」
「…けど、したことがないんだな。精通は?」
「………」
「まだなのか?」
「ちがう」
「ちがう? じゃあ、済ませてる?」
「……見せかけ…だ」
要領を得ない。どう対応すべきか迷うニールに、ティエリアは意を決したように、おのれを包みこむニールの手の甲に細い指を添わせてきた。
「…ティエリア?」
「…つづけて…ください」
しかし。
「もう逃げない…だから……ロックオン」
羞恥とも未知への恐怖ともちがう、なにがしかに挑むような声がニールの耳を打った。それに背を押されて、ニールはゆるやかに手のうごきを再開させる。
「OK、ティエリア。…愛してるよ」
空いているほうの手でティエリアの頬を撫で、背後からその横顔の口の端にキスをする。ちいさく頷いたティエリアは眸を閉じて、ニールの愛撫の感覚だけを追いはじめた。
荒っぽくならないよう、けれど高処へと昇りつめられるよう、ときにつよく激しく攻め、ときにやさしく退きながら、ニールはおのれの欲は先送りに呑み込んで、ティエリアを高めることに砕身する。ティエリアの息が怺えようもなく荒くなり、やがてちいさく引き絞ったような声を上げて果てるまで、ニールはその背中を抱きしめていた。
続 2011.09.17.
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羊水に抱かれた未成熟な肢体が、藍緑色に淡く光るポッドのなかで佇んでいる。眠るように閉じられていたその瞼がゆっくりと擡げられて、水を溶かしこんだようなふたつの紅玉が、透明な窓越しに凝然とニールを見つめた。
ときおり夢に見るそれは、医療ポッドで眠るティエリアのようでいて、やはりそうではなく、しかしその紅玉はたしかにティエリアのものにちがいない。
人間であれと思うこころの隙間に、人外であることの不確かな現実が這入り込み、夢寐を侵しているものか。そんなとき目覚めはいつも曖昧で、ニールはおのれの意識を叱咤する。この目でこの耳でこの口でこの腕で、おのが全身でたしかめるものだけが、おのれにとっての真実だ。
だから、抱きたい。ただ欲望の果てにではなく。ありのままのティエリアをまるごと抱きしめるために。
セカンドミッションは無事ラストフェイズを終えて完遂された。
さきに単機で帰還行動をしていながら帰投の遅れている刹那・F・セイエイを除いたマイスター三人は機体を無人島に隠し置き、ヴァーチェのみを軌道エレベーター天柱からコロニー開発用の資材に紛れ込ませて宇宙(そら)にもどすべく手筈を調える。機体とともにプトレマイオスに帰還するティエリアの搭乗予定時刻は明日、グリニッジ標準時五時三十二分、現地時間で十四時十八分発のリニアトレインである。
つまりはそれまでが、ニールに与えられたティエリアの時間ということだ。ファーストミッション開始まえにラグランジュ3の基地で取り付けた約束の。
無人島から天柱地上ステーションへの移動に利便な宿泊先に移動し、各々にあてがわれた一室でニールはティエリアを待っている。
ほどなく、ティエリアは予告どおりニールの部屋を訪ねてきた。来訪を告げるインターフォンに部屋のドアを開ける。
「よう」
いつもの調子でそう声を掛けて部屋に招じ入れ、いつものように挨拶代わりのさりげないキスを贈った。
「おれは、どうすれば?」
のっけからのティエリアの生真面目な問いに、ニールはちいさく笑ってその身をそっと抱きよせる。
「そう硬くなりなさんな。すぐにどうこうしたりしねぇから」
背中にやわらかく腕を回し、もう一方の手で紫黒の髪を撫でた。ティエリアはおとなしくその腕に収まったが、なにを思ったか、ふいにニールの背に腕を回して着ていたベストをぎゅっとつかんだ。そのまま顔をTシャツの胸に押しつけてくる。
「…っと。どうした、ティエリア?」
ついぞ馴染みのない挙動に、些か面食らう。
「あなたの、匂いだ」
「……っ」
驚きのあまり、息が止まるかと思った。
「地上は、うるさい。強制される音の洪水、あふれかえる雑多な匂い、肌にまとわりつく湿気、刻々と変わる気温、みんなみんな鬱陶しいばかりだ」
「ティエリア」
「でもこの匂いは知っている。あなたは宇宙(そら)とおなじ匂いがする。ここは…落ち着く」
「あー……」
一瞬どうしていいのかわからなくなった。無垢なる凶器だ。年長者のよゆうなど粉微塵に破壊してくれる。
「あんま…煽るなよ。だいち…落ち着かれても困るんだけど」
「? …意味がわからない」
かたちのよい鼻梁をTシャツに押しあてたまま、ティエリアはニールのおもてを仰ぐ。素通しの眼鏡越しに、深紅の双眸はいまも清んでいる。ニールは髪を撫でていた指先で邪魔なフレームをつまんで外し、その顎を掬うようにしてたまらず深く口接けた。
「ん…む」
いきなりもたらされた濃厚な接吻に、背に回されていたティエリアの腕が反射的にニールを引き剥がそうともがく。それにかまわずにねっとりと舌を絡めてティエリアが覚えた快感を引き出すことに専念した。
絡めた舌を解いて口唇に囁きを落とし、軽く啄むだけのキスを与えては、また深く口を吸う。舌先で口蓋を擽ってはすぐにも引っ込み、ティエリアの舌が無意識にそれを追うのをたしかめる。しばらくそうしてキスを繰り返していると、華奢なからだから強張りが消え弛んでいくのがわかった。
抱きよせたままその身を促してベッドに寝そべらせる。枕もとのサイドボードに眼鏡を置き、ベストとシャツを脱ぎ捨ててニールはティエリアの上に覆い被さった。
真下になった紅玉がニールの碧緑を見つめてくる。その目のまえで、挑むかのようにゆっくりと両の手の革手袋を外しに掛かった。肌に馴染んだ焦げ茶のグローブの五本の指先を順に口で軽く銜えて緩め、掌から捲るように抜き取っていく。ティエリアの深紅の眸はじっとそのうごきを追っている。魅入られたように、薄くひらかれた口唇が接吻に濡れてあやしく光る。
「…く」
迫り上がるものを怺えてグローブをまとめてサイドボードに放り、ニールはその口唇をぺろりと舐めると、そのまま白い頸筋に舌を這わせた。喉もとをつよく吸って鎖骨の窪みを甘噛みする。素手となった掌でからだの稜線をなぞりながら、薄桃色のカーディガンと薄緑のシャツのボタンをひとつずつ外した。ティエリアはその触れるか触れないかの感触に身を捩らせて、ニールの胡桃色の髪をつかむ。やがてはだけた胸の晒された白磁の肌に、吸い寄せられるようにニールは口接けはじめた。
しっとりとした肌理の細かな肌合いを両の掌で存分に味わいつつ、鎖骨から胸、脇腹を辿って腰骨へと至り、それをまた、腰骨から腹、胸を辿って鎖骨へと、このうえなくきれいなからだの触り心地をたしかめる。
その間に胸の淡い尖りを舌で押し潰し、軽く歯を立てて、吸う。
「ひ……うっ」
慣れぬ刺激にティエリアの背が撓う。もうひとつを指の腹で押し込んではつまみ上げ、くいと拗る。口唇と指先とを交互に違えて左右を責めた。
「は………ぁふ………ロ…ックオン…」
戸惑いと愉悦に掠れた声がおのれの名を呼ぶ。それに意識を揺蕩わせながらニールの口唇は、薄く筋肉の乗った胸もとから腹部へと降りてゆく。ベルトを緩めて細身の引き締まった腰を引き出し、そのまま脇腹くぐって、いくつもの朱痕を残した。用を為さなくなった上衣とシャツを腕から抜いて、ベッドの下に落とす。露わになった背中の目も眩むような艶めいた白さに、浅ましく喉が鳴った。
「ティエリ…ア…」
横から抱いてその背中にも口接けを落とす。腰から背筋を遡って貝殻骨を掠め、肩先そして二の腕のうちまで、接吻と甘噛みとを繰り返した。
「ロック…オン」
次第に浅く早くなってゆくティエリアの息が、薄い胸を波打たせる。その胸に両脇から回した掌で戯れ掛かりながら、背後から紫黒の髪を掻き分け頸筋に鼻を埋め、ニールは匂い立つ肌の熱を感じ取る。その肌を吸いながら、背中から抱え込むように掌を下腹へと這わせた。
「や…っ」
スラックスの釦を外しながら、意識的にその指を肌側へと押し込む。ティエリアの腰が逃げをうつ。むろんのことゆるさずに、開いた前立てから下着のなかに掌を滑り込ませた。うすい茂みから淡く兆したものを握り込む。とたん、ひゅっと息を呑んだティエリアが、激しく抵抗した。
「やっ。いやだっ」
おのれの腰に回されたおとこの腕をきつくつかみ、外そうともがく。下膊に爪が食い込み、痕を残した。ばたつく両脚は中途半端に緩んだ下衣に阻まれ、却ってうごきを狭めるばかりだ。ニールは怯まず、耳もとでティエリアの名を呼びながら、絡めた指をゆっくりとうごかす。やわやわと揉みしだきながら、付け根から尖端へと扱く。窪みに爪を食い込ませて、雁と裏筋とを嬲った。
「や…だ。や…ぁ」
ロックオン…、と消え入るような声で名を呼んで、かぶりを振って拒絶の意を繰り返す。たしかに反応はあるのに、それがまだ快感につながっていない。
「ティエリア…?」
ただただ髪を乱して首を振るティエリアに、ニールはふいに確信めいた真実に思い至った。
「触れたこと…ないのか? 自分でも?」
がくがくと頷くばかりのティエリアに、ニールは手のうごきを止めて、落ち着かせるようにやわらかな声音で背中越しに囁く。
「知識がないわけじゃ…ないよな。いま、俺がしていることの意味は、わかってるか?」
「…理解…している」
そう応える声にはいつもの張りはなかったが、ニールの手が止まったことでひと息ついたのか、ティエリアはこんどはしっかりと頷いた。
「自慰も、わかる」
「…けど、したことがないんだな。精通は?」
「………」
「まだなのか?」
「ちがう」
「ちがう? じゃあ、済ませてる?」
「……見せかけ…だ」
要領を得ない。どう対応すべきか迷うニールに、ティエリアは意を決したように、おのれを包みこむニールの手の甲に細い指を添わせてきた。
「…ティエリア?」
「…つづけて…ください」
しかし。
「もう逃げない…だから……ロックオン」
羞恥とも未知への恐怖ともちがう、なにがしかに挑むような声がニールの耳を打った。それに背を押されて、ニールはゆるやかに手のうごきを再開させる。
「OK、ティエリア。…愛してるよ」
空いているほうの手でティエリアの頬を撫で、背後からその横顔の口の端にキスをする。ちいさく頷いたティエリアは眸を閉じて、ニールの愛撫の感覚だけを追いはじめた。
荒っぽくならないよう、けれど高処へと昇りつめられるよう、ときにつよく激しく攻め、ときにやさしく退きながら、ニールはおのれの欲は先送りに呑み込んで、ティエリアを高めることに砕身する。ティエリアの息が怺えようもなく荒くなり、やがてちいさく引き絞ったような声を上げて果てるまで、ニールはその背中を抱きしめていた。
続 2011.09.17.
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