Armed angel #09 一期(第二十一、二十二話) ニルティエ
ヴェーダ喪失とロックオン負傷。ティエリアの決意。ニールの未来。
序盤と終盤にエロあり。R18。
全七回。その1。
自分の世界の根幹をなすものの存在があっけなく喪失したときの絶望を知りながら、ティエリアにとってのヴェーダというものがどれほど重きをなすかを知りながら、たぶんほんとうの意味でわかってなどいなかった。いや、わかっていながらどこかで目を背けていたのかもしれない。これを機にティエリアをヴェーダから引き離したいという心理がなかったとは云いきれない。
この右目はその代償だと思っている。
ヴェーダをわけのわからぬまま理不尽に失ってしまったティエリアの喪失感を思えば。それはニールが突然家族を亡くしたときのように。ティエリアにとってヴェーダはまさしくこの世で唯一そう呼べる存在でもあったのだから。
だから後悔はない。あるとすれば、もっとうまく護るべきだったと云うことだけだ。だれよりなによりたいせつな愛しい存在に負い目を背負わせるような真似などだれが望むものか。
* * *
国連軍の統合が成り、戦術予報士の指示で宇宙(そら)へと帰還した。
トリニティの武力介入に国連軍が疑似太陽炉搭載型MSを投入して応戦したことから、なにものかがヴェーダに介入していることは確定された。
その後のうごきはまだない。
スメラギからなにごとか任務を云いつかっているらしい戦況オペレーター兼プログラマーのクリスティナとフェルト、ロールアウトしたGNアームズの受け取りにドックへと向かったイアンとラッセを除くクルーと、マイスター四人は艦内待機で自由時間となっている。
介入の事実を受けてヴェーダのターミナルユニットには籠もらなくなったものの、どうしても自室に閉じ籠もりがちになるティエリアを、ニールは連れ出しおのれの部屋に招いた。
実際のところ地上任務の多かったニールがティエリアとトレミーで過ごす時間はそれほど多くはなかったし、あったとしてもニールからティエリアの部屋を訪なうことがほとんどだったから、ティエリアはものめずらしそうにニールの自室を見回している。ここに来るのは南アフリカ国境紛争への出撃まえ以来だろうか。
「こんなもの、いつのまに」
それでも、ほぼ私物というものを持たないティエリアの無機質な部屋に比べれば、この部屋には住人の痕跡があり、それなりの生活感がある。微重力空間ということもあって小物のたぐいはクローゼットとストレージにすべて収めてしまってあるが、持ち込んだ読みかけの本がデスクわきに置かれ、掌サイズのその一枚だけは透明な樹脂に入れられて、ベッドの枕もとに浮かんでいた。
「覚えてないか?」
いまティエリアが手に取ってみているのは、先般の地上休暇で泊まった宿屋の近くで撮ったツーショットだ。丘の牧草地でのんびりところころ羊の群れが草を食む、それを背景に宿の主人がサービスに一枚撮ってくれた、むかしながらの印画紙へのプリント写真である。ティエリアを撮った画像はニールの携帯端末に幾枚か納められているが、ふたりきりで撮った紙媒体のものという意味で、貴重な一枚なのだった。
「…ああ、そういえばあのとき宿のまえで並んで立たされましたね」
宿の主人に向けられた四角い物体がいまでは骨董品の銀塩カメラだということの、知識としてはあってもそれで撮られているという実感がティエリアにはなかったらしい。
ニールの故郷をランチア・ラリーを駆って急ぎ足で周り、だが結局控えていたミッションのプランが即日上がってこなかったため、一泊するよゆうができてのことだった。懐古趣味のきらいのあるニールが興味を示したので、主人がよろこんで、いまとなってはかなり高価な一枚を焼いてくれたというわけだ。それに劣化防止の樹脂措置を施してニールはみやげとして持ち帰った。ティエリアがこうした〝もの〟への執着を持たないことを知っていたから、ニールが手許に置いておけばいいと判断したのである。
写真のなかで、笑顔のニールに寄り添われて、笑んでこそいないがふだんに比べればずっと穏やかな表情のティエリアが佇んでいる。
「…こんなふうにひとは記憶を記録するのか…」
「思い出っていうんだよ」
ティエリアの背中から覗き込むようにして、ニールもおなじように写真を見た。
「思い出…ぼくにはない」
「ない? …てことはないだろう。これだって、思い出だろう?」
「ぼくには記憶だ。記憶は風化しあるいは美化されて思い出というものに変質する。重要度における取捨選択はあるが、基本的にぼくには忘れるということがない。なので記憶はいつまで経とうが記憶のままです」
「………」
記憶のまま、ということがどういうことなのかその感覚はニールにはわからない。だがそれはひどく味気なく残酷なことのようにも思えた。
背中から華奢なからだをそっと抱きしめる。ティエリアはおとなしくその腕のなかに収まった。
「でもこれをあなたがこうして持っていてくれるのは…なんだか…気恥ずかしがうれしいな」
「…そっか。じゃあずっと肌身離さず持ってるよ」
ティエリアの手におのれの手を添えて、写真を握る。うれしい、という表現を先日来ティエリアは口にするようになった。それはニールのおもいへ明示されたティエリアのこころで、それ以上をまだことばとして聞くことはできないが、それだけでもニールを温かくする。
ティエリアの指先が写真のニールの顔をなぞった。
「あなたはいつも笑っているが…これはいい笑顔のほうだ」
ニールは苦笑した。処世術として身に付いた笑顔をティエリアは、理解できない気持ちわるい、といって眉を顰める。いまでこそ、それも人間社会の特性として受け容れているが、やはりティエリアに誤魔化しは利かないのだ。
「あたりまえだ。おまえさんといるんだから」
そう囁いて紫黒の髪に鼻を埋め、耳のうしろに口接けた。
「…ロックオン」
ぴくんとからだを竦めて逃げ出そうとするのを、むろんのことゆるさない。抱きしめていた腕を解き革手袋の指先がそのまま背後から、ティエリアのカーディガンのボタンを外してゆく。
ふたりの手から離れた写真がふわりと宙に浮かんだ。
ちゃぷん。
ニールの腕のなかでティエリアは眸を閉じる。
「…あ、…ぅふ……」
湯槽のなかで背後から抱きしめられたまま、背中越しに覗く白磁の肌が赤みを差して徐々に息づく。さっきからずっとニールの指に弄られている胸の尖りは、弾けるまえの茱萸の実のように熟している。
「……ロック…オン」
浴室の窓から覗く花緑青のシャムロックの群れ。その彼方には乳白色のひつじたちが羊飼いに追われて家路に就く。雲の多い空は茜の太陽を透かしてオレンジに染まり、その対面からは灰紫が迫っている。
昼間ランチアのなかでも抱いたのに、ティエリアと過ごす地上休暇の旅先の夜は、あっけなくおのれの欲の深さを流露させた。ひたひたと底から溜まっていく湯を待つあいだ、ニールはずっと白い背中にキスを繰り返し、胸に回した両の掌で愛撫を続けている。
「…ん、あ……ぅ、ロックオン…も、…や」
眉根を寄せて紅玉がきつく閉じられる。顎を仰け反らせ、ちいさくひらいた口唇が洩らす吐息は濡れて熱っぽい。
「ティエリア…」
耳朶に甘く囁きを落としながら、耳殻を口唇で食み舌先を奥へ差し込む。
「んっあ、やぁ」
愛撫する腕にちからなく添えられていた手指が、もがくように上から背後のニールの髪をつかんだ。
「あ、ぁあ」
「…ここも、感じるんだ」
揶揄うように耳孔を舌先で擽っておいてふたつの茱萸を指先で弾き、うすい筋肉の乗った滑らかな胸から腹へと掌を滑らせた。腰骨あたりまでを覆いはじめた透明な湯から顔を覗かせる兆した尖端を掠めて鼠蹊をなぞり、蟻の門渡りを辿って奥へと指を這わせる。
「んくっ」
襞を数えて押し広げるようにすれば、ティエリアの背が撓り紫黒の髪がニールの肩の上でうち広がるように乱れた。
「…う、ぁ。はっ」
それでも過ごして半日にも満たない情事の名残が、いつもよりいくぶんか早く侵入を容易にさせる。
「ロックオン…っ」
「…ティエ…」
肩先まで朱の差した肌が、身悶えるように震えた。
「い…っ。も、い…い」
「もう、大丈夫そう?」
こくこくと二度ほどちいさく頷く。うしろから細い腰にもうすでに当たっていたものの存在に、ティエリアが横目で睨めた。
「あなた…だって、もう、苦しい…だろう」
「…よくおわかりで」
ニールは笑んで、ティエリアの腰をつかんで浮かし、もういちど、こんどはおのれの欲の頂のうえからその身を落とした。
「…っあ、ぁあああ」
抑えた甘い悲鳴が浴室に響く。ティエリアは背を仰け反らせて、その侵攻とつづく抽送に堪えた。
「あ。はっ…はぁ、ぁん。ん」
乱れた喘ぎが周囲を曇らす湯気に溶ける。満たされた湯のおもてが波立つ。
「…く、う。ティ…エ。ティエ…リア」
からだを反され、湯槽の両端に広げ掛けられたしなやかな脚が、その狭間に埋まるニールの腰のうごきに連れて擦れて、濡れた音を立てた。
「……ロックオン…あ、んあ」
頸に回された腕が胡桃色の髪を掻き抱き、あわされた頬と頬が湯に滑った。
「ティエリア…、…ん」
そのまま顔をずらせて口接けて、囁く。
「ティエ…。…眸、あけて」
ニールに揺さぶられながら、その声にティエリアがうっすらと瞼を擡げた。
「…な…、に……」
その紅玉がおのれの碧緑を映し込むのを認めて、ニールは笑んだ。
「…なんでも、ない」
苦しげに喘ぎながら、甘く濡れた声が咎めた。
「なんなんだ…あなたは」
つなげた部分が熱い。全身が熱かった。湯に包まれティエリアに包まれて、ニールはその幸福に酔った。
脳裡に甦る情景が、いっそうニールを煽る。
立ったまま背後からティエリアのまえをはだけて乱した素手の掌が、下腹を包みこんでいる。中途まで落とされたスラックスから覗くまるい膝が震えている。
「んっ…ふぅ」
愛撫に漏れる吐息が熱を帯びてくる。ニールの手のなかのものがあたまを擡げて、微かに撥ねる。
「や、…ぁあ」
シャツの衿を押し広げられておおきく覗いた白い背中が、ニールの眼下で撓む。その肌理の細かな肌にいくつもの痕を散らしながら、ニールの口唇はいま肩口を咬んでいる。
兆した尖端から滲んでこぼれ落ちた透明な雫が、まるく珠になって中空に浮かんだ。
「…ティエ」
それを視界の端に捉えてニールは愛撫の手をつよめる。ほどなく、おおきく背を仰け反らせ紫黒の髪を筋肉の張った胸に押しつけるようにして、ティエリアが果てた。
「…んっ」
くったりと、ティエリアはニールの胸に体重を預けてくる。
背中から抱きしめていた身をベッドに横たえさせて、そのついで、とでもいうように浮かんだいくつかの白い雫の珠を、ぱくんと口で食んで呑み込む。
「ロックオン!」
見るともなしにそれを見ていたティエリアが、頸筋に血を昇らせて咎めた。
「ごちそうさん」
「………っっ」
真っ赤になって絶句するティエリアに、屈託なく笑んでみせた。
「いまさら、だろ」
見せかけの器官であり機能であっても、これはニールの与える快楽の証し。いつもは口をつけたまま直接呑んでいるのだから、それだけの差だ。
続 2011.10.20.
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自分の世界の根幹をなすものの存在があっけなく喪失したときの絶望を知りながら、ティエリアにとってのヴェーダというものがどれほど重きをなすかを知りながら、たぶんほんとうの意味でわかってなどいなかった。いや、わかっていながらどこかで目を背けていたのかもしれない。これを機にティエリアをヴェーダから引き離したいという心理がなかったとは云いきれない。
この右目はその代償だと思っている。
ヴェーダをわけのわからぬまま理不尽に失ってしまったティエリアの喪失感を思えば。それはニールが突然家族を亡くしたときのように。ティエリアにとってヴェーダはまさしくこの世で唯一そう呼べる存在でもあったのだから。
だから後悔はない。あるとすれば、もっとうまく護るべきだったと云うことだけだ。だれよりなによりたいせつな愛しい存在に負い目を背負わせるような真似などだれが望むものか。
* * *
国連軍の統合が成り、戦術予報士の指示で宇宙(そら)へと帰還した。
トリニティの武力介入に国連軍が疑似太陽炉搭載型MSを投入して応戦したことから、なにものかがヴェーダに介入していることは確定された。
その後のうごきはまだない。
スメラギからなにごとか任務を云いつかっているらしい戦況オペレーター兼プログラマーのクリスティナとフェルト、ロールアウトしたGNアームズの受け取りにドックへと向かったイアンとラッセを除くクルーと、マイスター四人は艦内待機で自由時間となっている。
介入の事実を受けてヴェーダのターミナルユニットには籠もらなくなったものの、どうしても自室に閉じ籠もりがちになるティエリアを、ニールは連れ出しおのれの部屋に招いた。
実際のところ地上任務の多かったニールがティエリアとトレミーで過ごす時間はそれほど多くはなかったし、あったとしてもニールからティエリアの部屋を訪なうことがほとんどだったから、ティエリアはものめずらしそうにニールの自室を見回している。ここに来るのは南アフリカ国境紛争への出撃まえ以来だろうか。
「こんなもの、いつのまに」
それでも、ほぼ私物というものを持たないティエリアの無機質な部屋に比べれば、この部屋には住人の痕跡があり、それなりの生活感がある。微重力空間ということもあって小物のたぐいはクローゼットとストレージにすべて収めてしまってあるが、持ち込んだ読みかけの本がデスクわきに置かれ、掌サイズのその一枚だけは透明な樹脂に入れられて、ベッドの枕もとに浮かんでいた。
「覚えてないか?」
いまティエリアが手に取ってみているのは、先般の地上休暇で泊まった宿屋の近くで撮ったツーショットだ。丘の牧草地でのんびりところころ羊の群れが草を食む、それを背景に宿の主人がサービスに一枚撮ってくれた、むかしながらの印画紙へのプリント写真である。ティエリアを撮った画像はニールの携帯端末に幾枚か納められているが、ふたりきりで撮った紙媒体のものという意味で、貴重な一枚なのだった。
「…ああ、そういえばあのとき宿のまえで並んで立たされましたね」
宿の主人に向けられた四角い物体がいまでは骨董品の銀塩カメラだということの、知識としてはあってもそれで撮られているという実感がティエリアにはなかったらしい。
ニールの故郷をランチア・ラリーを駆って急ぎ足で周り、だが結局控えていたミッションのプランが即日上がってこなかったため、一泊するよゆうができてのことだった。懐古趣味のきらいのあるニールが興味を示したので、主人がよろこんで、いまとなってはかなり高価な一枚を焼いてくれたというわけだ。それに劣化防止の樹脂措置を施してニールはみやげとして持ち帰った。ティエリアがこうした〝もの〟への執着を持たないことを知っていたから、ニールが手許に置いておけばいいと判断したのである。
写真のなかで、笑顔のニールに寄り添われて、笑んでこそいないがふだんに比べればずっと穏やかな表情のティエリアが佇んでいる。
「…こんなふうにひとは記憶を記録するのか…」
「思い出っていうんだよ」
ティエリアの背中から覗き込むようにして、ニールもおなじように写真を見た。
「思い出…ぼくにはない」
「ない? …てことはないだろう。これだって、思い出だろう?」
「ぼくには記憶だ。記憶は風化しあるいは美化されて思い出というものに変質する。重要度における取捨選択はあるが、基本的にぼくには忘れるということがない。なので記憶はいつまで経とうが記憶のままです」
「………」
記憶のまま、ということがどういうことなのかその感覚はニールにはわからない。だがそれはひどく味気なく残酷なことのようにも思えた。
背中から華奢なからだをそっと抱きしめる。ティエリアはおとなしくその腕のなかに収まった。
「でもこれをあなたがこうして持っていてくれるのは…なんだか…気恥ずかしがうれしいな」
「…そっか。じゃあずっと肌身離さず持ってるよ」
ティエリアの手におのれの手を添えて、写真を握る。うれしい、という表現を先日来ティエリアは口にするようになった。それはニールのおもいへ明示されたティエリアのこころで、それ以上をまだことばとして聞くことはできないが、それだけでもニールを温かくする。
ティエリアの指先が写真のニールの顔をなぞった。
「あなたはいつも笑っているが…これはいい笑顔のほうだ」
ニールは苦笑した。処世術として身に付いた笑顔をティエリアは、理解できない気持ちわるい、といって眉を顰める。いまでこそ、それも人間社会の特性として受け容れているが、やはりティエリアに誤魔化しは利かないのだ。
「あたりまえだ。おまえさんといるんだから」
そう囁いて紫黒の髪に鼻を埋め、耳のうしろに口接けた。
「…ロックオン」
ぴくんとからだを竦めて逃げ出そうとするのを、むろんのことゆるさない。抱きしめていた腕を解き革手袋の指先がそのまま背後から、ティエリアのカーディガンのボタンを外してゆく。
ふたりの手から離れた写真がふわりと宙に浮かんだ。
ちゃぷん。
ニールの腕のなかでティエリアは眸を閉じる。
「…あ、…ぅふ……」
湯槽のなかで背後から抱きしめられたまま、背中越しに覗く白磁の肌が赤みを差して徐々に息づく。さっきからずっとニールの指に弄られている胸の尖りは、弾けるまえの茱萸の実のように熟している。
「……ロック…オン」
浴室の窓から覗く花緑青のシャムロックの群れ。その彼方には乳白色のひつじたちが羊飼いに追われて家路に就く。雲の多い空は茜の太陽を透かしてオレンジに染まり、その対面からは灰紫が迫っている。
昼間ランチアのなかでも抱いたのに、ティエリアと過ごす地上休暇の旅先の夜は、あっけなくおのれの欲の深さを流露させた。ひたひたと底から溜まっていく湯を待つあいだ、ニールはずっと白い背中にキスを繰り返し、胸に回した両の掌で愛撫を続けている。
「…ん、あ……ぅ、ロックオン…も、…や」
眉根を寄せて紅玉がきつく閉じられる。顎を仰け反らせ、ちいさくひらいた口唇が洩らす吐息は濡れて熱っぽい。
「ティエリア…」
耳朶に甘く囁きを落としながら、耳殻を口唇で食み舌先を奥へ差し込む。
「んっあ、やぁ」
愛撫する腕にちからなく添えられていた手指が、もがくように上から背後のニールの髪をつかんだ。
「あ、ぁあ」
「…ここも、感じるんだ」
揶揄うように耳孔を舌先で擽っておいてふたつの茱萸を指先で弾き、うすい筋肉の乗った滑らかな胸から腹へと掌を滑らせた。腰骨あたりまでを覆いはじめた透明な湯から顔を覗かせる兆した尖端を掠めて鼠蹊をなぞり、蟻の門渡りを辿って奥へと指を這わせる。
「んくっ」
襞を数えて押し広げるようにすれば、ティエリアの背が撓り紫黒の髪がニールの肩の上でうち広がるように乱れた。
「…う、ぁ。はっ」
それでも過ごして半日にも満たない情事の名残が、いつもよりいくぶんか早く侵入を容易にさせる。
「ロックオン…っ」
「…ティエ…」
肩先まで朱の差した肌が、身悶えるように震えた。
「い…っ。も、い…い」
「もう、大丈夫そう?」
こくこくと二度ほどちいさく頷く。うしろから細い腰にもうすでに当たっていたものの存在に、ティエリアが横目で睨めた。
「あなた…だって、もう、苦しい…だろう」
「…よくおわかりで」
ニールは笑んで、ティエリアの腰をつかんで浮かし、もういちど、こんどはおのれの欲の頂のうえからその身を落とした。
「…っあ、ぁあああ」
抑えた甘い悲鳴が浴室に響く。ティエリアは背を仰け反らせて、その侵攻とつづく抽送に堪えた。
「あ。はっ…はぁ、ぁん。ん」
乱れた喘ぎが周囲を曇らす湯気に溶ける。満たされた湯のおもてが波立つ。
「…く、う。ティ…エ。ティエ…リア」
からだを反され、湯槽の両端に広げ掛けられたしなやかな脚が、その狭間に埋まるニールの腰のうごきに連れて擦れて、濡れた音を立てた。
「……ロックオン…あ、んあ」
頸に回された腕が胡桃色の髪を掻き抱き、あわされた頬と頬が湯に滑った。
「ティエリア…、…ん」
そのまま顔をずらせて口接けて、囁く。
「ティエ…。…眸、あけて」
ニールに揺さぶられながら、その声にティエリアがうっすらと瞼を擡げた。
「…な…、に……」
その紅玉がおのれの碧緑を映し込むのを認めて、ニールは笑んだ。
「…なんでも、ない」
苦しげに喘ぎながら、甘く濡れた声が咎めた。
「なんなんだ…あなたは」
つなげた部分が熱い。全身が熱かった。湯に包まれティエリアに包まれて、ニールはその幸福に酔った。
脳裡に甦る情景が、いっそうニールを煽る。
立ったまま背後からティエリアのまえをはだけて乱した素手の掌が、下腹を包みこんでいる。中途まで落とされたスラックスから覗くまるい膝が震えている。
「んっ…ふぅ」
愛撫に漏れる吐息が熱を帯びてくる。ニールの手のなかのものがあたまを擡げて、微かに撥ねる。
「や、…ぁあ」
シャツの衿を押し広げられておおきく覗いた白い背中が、ニールの眼下で撓む。その肌理の細かな肌にいくつもの痕を散らしながら、ニールの口唇はいま肩口を咬んでいる。
兆した尖端から滲んでこぼれ落ちた透明な雫が、まるく珠になって中空に浮かんだ。
「…ティエ」
それを視界の端に捉えてニールは愛撫の手をつよめる。ほどなく、おおきく背を仰け反らせ紫黒の髪を筋肉の張った胸に押しつけるようにして、ティエリアが果てた。
「…んっ」
くったりと、ティエリアはニールの胸に体重を預けてくる。
背中から抱きしめていた身をベッドに横たえさせて、そのついで、とでもいうように浮かんだいくつかの白い雫の珠を、ぱくんと口で食んで呑み込む。
「ロックオン!」
見るともなしにそれを見ていたティエリアが、頸筋に血を昇らせて咎めた。
「ごちそうさん」
「………っっ」
真っ赤になって絶句するティエリアに、屈託なく笑んでみせた。
「いまさら、だろ」
見せかけの器官であり機能であっても、これはニールの与える快楽の証し。いつもは口をつけたまま直接呑んでいるのだから、それだけの差だ。
続 2011.10.20.
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