「天涯の遊子」沖桂篇。
沖田と桂。
銀時と土方が出張ってきて、長くなった。4回に分ける。
現在の、現時点推移と、回想が時系列で、同時進行。
紅桜以降、動乱篇まえ。
さくさくと、踏みしめる音がする。きゅっきゅっという音がそれに続いた。
「こんな雪んなか、草履で冷たくないんですかィ?」
「しかたあるまい。こんなに降り積もるとは思っていなかったのだから」
ちらちらと、まだ粉雪の舞い落ちるなか。町の喧噪からは離れた道で、三歩ほど先を歩く桂のあとを、沖田はブーツ履きで追う。
隊服ではない。私服の袷に袴姿、外套を羽織って長靴、という和洋折衷の出で立ちだ。桂はといえば、袷羽織に綿入れの袢纏、雪踏履き。背に流した髪ごと白のマフラーで肩と首とをくるんでいる。その髪はようやく以前ほどの長さを取り戻しただろうか。
指名手配犯のあとを、おとなしくついて歩く、真選組一番隊隊長。なんて、どう見ても、格好がつかねぇや。そりゃ非番だけどもよ。まったく。
「この俺が、手懐けられたもんでィ」
沖田がそうひとりごちたのを、聞き咎めた桂が足を止めた。
「無理に、ついてこなくてもよいのだが」
「そういう意味じゃありませんや。いまこうしてるのは、俺の意志ってやつでさぁ」
飄々と云ってのけるのへ、おもしろいやつだな、と返して桂はまた、先へ行く。凛として颯爽と迷いのないその後ろ姿に、見惚れるでもなく見惚れて、沖田は内心でつぶやいた。おもしろいのは、あんたのほうですぜ。桂の旦那。
沖田自身、いまの状況をたのしんでいると云えば云えるが、なぜこんなことになったかという、説明はつかない。ただ、流れでそうなった。としかいえないのだ。たしかなところでは。だが、もとはといえば。
「土方の野郎のせいでィ」
* * *
沖田が、どうも土方のようすが妙だと気づいたのは、桂一派と高杉一派が派手にやり合ったという、一件のあとくらいからだ。いや、正確にはそれ以前にも若干引っかかる部分はあったのだが、確信に変わったのが、そのころのことだった。
表向きは変わらず、沖田とはちがってまじめに隊の仕事をこなす土方だったが、どうも桂捕縛への迷いが見て取れる。以前ほどの執念を感じない、といえばいいのか。近藤のためになら根っこの部分では身を惜しまないのは沖田も土方もおなじだったから、気づいたのかもしれない。
桂逮捕は真選組にはこのうえのない御馳走のはずだった。真選組の手柄は近藤の出世に繋がる。出世して近藤の幕府内での発言力が増せば、それはひいては真選組の自分たちのちからとなる。沖田自身ももっと、うごきやすくなる。
だがその近藤からして、ヴァーチャルな電脳世界では桂と交流があるようなのだ。ひとの好い大将は、あれは別人だ、などと云って庇うが。
土方にも桂と、こちらは現実世界で、捕り物以外の交流があった。そう、沖田は睨んでいる。土方は、沖田同様捩れた部分はあるが、本質的には人情肌の常識人だ。リアルな桂という存在やその内面に触れたなら、その内容如何では切っ先が鈍る可能性は大いにありうる。
最初は、好奇心だった。桂とのあいだに、なにがあったのだろう。揶揄うに格好のネタでも転がっているかもしれない。それに、近藤や土方にだけ桂との私的な交流があって、自分にだけないというのも、沖田には我慢のならない、おもしろくない話だ。
桂逮捕とはべつの次元で、沖田が追ってみたくなったとしても、無理からぬことだろう。と、沖田は自分で自分に云いきかせる。
そんな矢先のこと。
桂の潜伏先が附近にあるとの報を受けて駆けつけた、町はずれの境界を為す竹林の手前。一対多で、切り結ぶ桂の姿を見た。やりとりから見るに、穏健派に変わった桂を憾みに思う、過激派浪士たちのようだった。
初めて見る桂の剣に、その太刀筋に、沖田は昂奮に震えた。魅入られたといってもいい。柔よく剛を制す。加えてその身のこなしの速さが尋常ではない。沖田も小柄だから、相手のちからを利用する剣術には長けているが、桂のそれは、悔しいがその上を行く。そう認めざるを得ないほどの太刀捌きだった。しかも、だれひとりとして殺していない。すべて峰打ちの、秒殺である。
悶絶した不逞の浪士たちの処置は部下にまかせて、ひとり、沖田は桂に対峙した。十数人を叩き伏せて、息ひとつ乱していない。迷わず剣を抜く。青眼に構えた。桂が、すっと目を細めた。つねに能面のような桂のおもての、口許にうっすら笑みが浮かぶのを、沖田は見た。
「なにが、おかしいんでィ」
「童。いまは止めておかぬか」
「なに?」
「いまやれば、十中八九、おれが勝つ。だが手加減はできそうにないゆえ、峰打ちというわけにはゆかぬ。それでは貴様がもったいない」
「そりゃまた、たいそうな自信ですねィ」
「貴様にも、わかるだろう。その腕なら」
「わかっちゃいても、やってみたくなる、って話でね」
云いながら、背筋に流れる汗を、沖田は感じた。なんだ、この威圧感。剣の力量差以上のなにかに、沖田は気圧されていた。てやんでィ。だからって、ここで退けるかい。気圧されながらもなお感じる昂揚感を、沖田は抑えきれずにいる。つよい。こいつは半端なく、つよい。仕合いたい。こんな対手(あいて)とはめったに剣を交えられるものではない。
沖田に退く気がないのを感じとったのか、桂は攻めるでなく、守りの構えに刀を据えた。
「ちっ」
どうにもまともにやり合っちゃくれねぇようだ。子どもと思って、本気になれないのか。ちくしょう。
「十年待てばいいんですかィ? そのころには旦那はおっさん、俺ぁばりばりの現役ですぜィ」
云いながらも打ち込む間を量るが、こう斬り込めばこう返される手筋までもが浮かんできて、隙が見えない。
沖田にとって、じりじりと焼けつくような時間だけが過ぎる。この桂から感じられるのは静謐だけだ。沖田が退かなければ桂が退くタイミングもない。だが沖田が仕掛けないかぎり、桂はけして仕掛けては来ないだろう。長期戦は得手ではなかった。さっさとかたをつけたいほうだ。
沖田がいっそもう討ち掛かるかと、焦れて決めかけたとき。ふいに、下草を踏みしめる音ともに、その緊張感に気の抜けた空気が這入り込んできた。
「あれぇ、こんなところでなにしてるの。総一郞くん」
いつもの黒の上下に片身の着流し、白銀髪。纏う気怠げな空気が、妙に空々しい。ふぅっと沖田は息を吐いた。
「…万事屋の旦那。もうからだの具合はいいんですかィ。旦那くらいの年齢(とし)ともなると治りが遅いんじゃありやせんか」
「てめー、二十代を年寄り扱いするなんざ、子どもの証明だよ。子どもが刀なんざ振り回すもんじゃないよ。ったく」
完全に気勢を殺がれて、沖田は刀を鞘に収めながら
「云っておきやすが、振り回してたのは俺じゃなく、こっちの旦那でさぁ」
と、見ればもうそこに、桂の姿はない。あいかわらず、逃げ足の早い。
「逃げの小太郎、とはよく云ったもんでィ」
万事屋の旦那こと銀時は、竹林の奥へと続く道を、見るともなしに眺めている。
「旦那こそ、こんなところになんか用ですかィ?」
「銀さんは万事屋ですよ、総一郞くん。呼ばれりゃ、どこへなりともお出ましします」
「総悟ですって、旦那。おとぼけは無しにしましょうや。先の一件で、旦那が桂一派に加担したってぇのは、もう割れてまさぁ」
別段問いつめるふうでもなく、ただ事実として話しているだけ、という沖田の口調に銀時は、ぽり、と頭を掻いた。
「いやべつに。桂一派に加担した覚えはねぇんだけど」
「てことは、桂個人に手を貸した、ってことですかねィ」
おや、という顔で銀時が沖田を見る。
「まあ、そういう解釈も成り立つか。どっちにしろありゃ万事屋の依頼仕事の延長だよ、総悟くん。上にもそう云っといて」
「ごめんでさぁ。そんな面倒くさいこと」
「んじゃま、そーゆーことで」
と、銀時はもと来た道を引き返す。
「あれ?依頼先に出向くんじゃないんですかィ?」
わざとらしくそう投げかける沖田に、
「きょうはもう無駄足って、わかったんでね」
銀時は振り返りもせず、手だけをひらひらと振ってこたえた。
* * *
その桂の隠れ家へ、いま自分は向かっている。不思議だと、沖田は思った。むろんあのときの、あの隠れ家はもうとうに引き払われていて、向かっているのはまたちがう、べつのどこかだ。
* * *
竹林脇で仕合損なったあと、桂をみつけるたび、やっぱりバズーカ砲で追い回したが、本音を云えば、飛び道具での決着などもう、望んでいない。あれは、そう、あいさつ代わりの儀式のようなものだ。あんなもので桂は捕らえられないし、捕らえるまえに本身で渡り合いたいという目的が、沖田にはできてしまった。
真選組への後ろめたさなどはつゆほども感じない。いずれ捕らえればいい。そのまえにちょっとだけ沖田が桂の時間を拝借したところで、なんの問題があるだろう。
いつものように、茶店のまえのベンチで昼寝を決め込んで。部下の報告を待っている、という名目で任務をさぼっていた沖田は、のれんをくぐる銀時と目があった。
「よく、会うねぇ。総一郞くん」
「総悟でさぁ、旦那。…このまえは、どうも。世話、かけちまって」
「うん? なんのこと」
空とぼけるのは、銀時なりの気遣いだろう。沖田には忘れられるはずもないが、姉の死から、ようやく平常を取り戻したところだった。
続 2008.02.03.
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さくさくと、踏みしめる音がする。きゅっきゅっという音がそれに続いた。
「こんな雪んなか、草履で冷たくないんですかィ?」
「しかたあるまい。こんなに降り積もるとは思っていなかったのだから」
ちらちらと、まだ粉雪の舞い落ちるなか。町の喧噪からは離れた道で、三歩ほど先を歩く桂のあとを、沖田はブーツ履きで追う。
隊服ではない。私服の袷に袴姿、外套を羽織って長靴、という和洋折衷の出で立ちだ。桂はといえば、袷羽織に綿入れの袢纏、雪踏履き。背に流した髪ごと白のマフラーで肩と首とをくるんでいる。その髪はようやく以前ほどの長さを取り戻しただろうか。
指名手配犯のあとを、おとなしくついて歩く、真選組一番隊隊長。なんて、どう見ても、格好がつかねぇや。そりゃ非番だけどもよ。まったく。
「この俺が、手懐けられたもんでィ」
沖田がそうひとりごちたのを、聞き咎めた桂が足を止めた。
「無理に、ついてこなくてもよいのだが」
「そういう意味じゃありませんや。いまこうしてるのは、俺の意志ってやつでさぁ」
飄々と云ってのけるのへ、おもしろいやつだな、と返して桂はまた、先へ行く。凛として颯爽と迷いのないその後ろ姿に、見惚れるでもなく見惚れて、沖田は内心でつぶやいた。おもしろいのは、あんたのほうですぜ。桂の旦那。
沖田自身、いまの状況をたのしんでいると云えば云えるが、なぜこんなことになったかという、説明はつかない。ただ、流れでそうなった。としかいえないのだ。たしかなところでは。だが、もとはといえば。
「土方の野郎のせいでィ」
* * *
沖田が、どうも土方のようすが妙だと気づいたのは、桂一派と高杉一派が派手にやり合ったという、一件のあとくらいからだ。いや、正確にはそれ以前にも若干引っかかる部分はあったのだが、確信に変わったのが、そのころのことだった。
表向きは変わらず、沖田とはちがってまじめに隊の仕事をこなす土方だったが、どうも桂捕縛への迷いが見て取れる。以前ほどの執念を感じない、といえばいいのか。近藤のためになら根っこの部分では身を惜しまないのは沖田も土方もおなじだったから、気づいたのかもしれない。
桂逮捕は真選組にはこのうえのない御馳走のはずだった。真選組の手柄は近藤の出世に繋がる。出世して近藤の幕府内での発言力が増せば、それはひいては真選組の自分たちのちからとなる。沖田自身ももっと、うごきやすくなる。
だがその近藤からして、ヴァーチャルな電脳世界では桂と交流があるようなのだ。ひとの好い大将は、あれは別人だ、などと云って庇うが。
土方にも桂と、こちらは現実世界で、捕り物以外の交流があった。そう、沖田は睨んでいる。土方は、沖田同様捩れた部分はあるが、本質的には人情肌の常識人だ。リアルな桂という存在やその内面に触れたなら、その内容如何では切っ先が鈍る可能性は大いにありうる。
最初は、好奇心だった。桂とのあいだに、なにがあったのだろう。揶揄うに格好のネタでも転がっているかもしれない。それに、近藤や土方にだけ桂との私的な交流があって、自分にだけないというのも、沖田には我慢のならない、おもしろくない話だ。
桂逮捕とはべつの次元で、沖田が追ってみたくなったとしても、無理からぬことだろう。と、沖田は自分で自分に云いきかせる。
そんな矢先のこと。
桂の潜伏先が附近にあるとの報を受けて駆けつけた、町はずれの境界を為す竹林の手前。一対多で、切り結ぶ桂の姿を見た。やりとりから見るに、穏健派に変わった桂を憾みに思う、過激派浪士たちのようだった。
初めて見る桂の剣に、その太刀筋に、沖田は昂奮に震えた。魅入られたといってもいい。柔よく剛を制す。加えてその身のこなしの速さが尋常ではない。沖田も小柄だから、相手のちからを利用する剣術には長けているが、桂のそれは、悔しいがその上を行く。そう認めざるを得ないほどの太刀捌きだった。しかも、だれひとりとして殺していない。すべて峰打ちの、秒殺である。
悶絶した不逞の浪士たちの処置は部下にまかせて、ひとり、沖田は桂に対峙した。十数人を叩き伏せて、息ひとつ乱していない。迷わず剣を抜く。青眼に構えた。桂が、すっと目を細めた。つねに能面のような桂のおもての、口許にうっすら笑みが浮かぶのを、沖田は見た。
「なにが、おかしいんでィ」
「童。いまは止めておかぬか」
「なに?」
「いまやれば、十中八九、おれが勝つ。だが手加減はできそうにないゆえ、峰打ちというわけにはゆかぬ。それでは貴様がもったいない」
「そりゃまた、たいそうな自信ですねィ」
「貴様にも、わかるだろう。その腕なら」
「わかっちゃいても、やってみたくなる、って話でね」
云いながら、背筋に流れる汗を、沖田は感じた。なんだ、この威圧感。剣の力量差以上のなにかに、沖田は気圧されていた。てやんでィ。だからって、ここで退けるかい。気圧されながらもなお感じる昂揚感を、沖田は抑えきれずにいる。つよい。こいつは半端なく、つよい。仕合いたい。こんな対手(あいて)とはめったに剣を交えられるものではない。
沖田に退く気がないのを感じとったのか、桂は攻めるでなく、守りの構えに刀を据えた。
「ちっ」
どうにもまともにやり合っちゃくれねぇようだ。子どもと思って、本気になれないのか。ちくしょう。
「十年待てばいいんですかィ? そのころには旦那はおっさん、俺ぁばりばりの現役ですぜィ」
云いながらも打ち込む間を量るが、こう斬り込めばこう返される手筋までもが浮かんできて、隙が見えない。
沖田にとって、じりじりと焼けつくような時間だけが過ぎる。この桂から感じられるのは静謐だけだ。沖田が退かなければ桂が退くタイミングもない。だが沖田が仕掛けないかぎり、桂はけして仕掛けては来ないだろう。長期戦は得手ではなかった。さっさとかたをつけたいほうだ。
沖田がいっそもう討ち掛かるかと、焦れて決めかけたとき。ふいに、下草を踏みしめる音ともに、その緊張感に気の抜けた空気が這入り込んできた。
「あれぇ、こんなところでなにしてるの。総一郞くん」
いつもの黒の上下に片身の着流し、白銀髪。纏う気怠げな空気が、妙に空々しい。ふぅっと沖田は息を吐いた。
「…万事屋の旦那。もうからだの具合はいいんですかィ。旦那くらいの年齢(とし)ともなると治りが遅いんじゃありやせんか」
「てめー、二十代を年寄り扱いするなんざ、子どもの証明だよ。子どもが刀なんざ振り回すもんじゃないよ。ったく」
完全に気勢を殺がれて、沖田は刀を鞘に収めながら
「云っておきやすが、振り回してたのは俺じゃなく、こっちの旦那でさぁ」
と、見ればもうそこに、桂の姿はない。あいかわらず、逃げ足の早い。
「逃げの小太郎、とはよく云ったもんでィ」
万事屋の旦那こと銀時は、竹林の奥へと続く道を、見るともなしに眺めている。
「旦那こそ、こんなところになんか用ですかィ?」
「銀さんは万事屋ですよ、総一郞くん。呼ばれりゃ、どこへなりともお出ましします」
「総悟ですって、旦那。おとぼけは無しにしましょうや。先の一件で、旦那が桂一派に加担したってぇのは、もう割れてまさぁ」
別段問いつめるふうでもなく、ただ事実として話しているだけ、という沖田の口調に銀時は、ぽり、と頭を掻いた。
「いやべつに。桂一派に加担した覚えはねぇんだけど」
「てことは、桂個人に手を貸した、ってことですかねィ」
おや、という顔で銀時が沖田を見る。
「まあ、そういう解釈も成り立つか。どっちにしろありゃ万事屋の依頼仕事の延長だよ、総悟くん。上にもそう云っといて」
「ごめんでさぁ。そんな面倒くさいこと」
「んじゃま、そーゆーことで」
と、銀時はもと来た道を引き返す。
「あれ?依頼先に出向くんじゃないんですかィ?」
わざとらしくそう投げかける沖田に、
「きょうはもう無駄足って、わかったんでね」
銀時は振り返りもせず、手だけをひらひらと振ってこたえた。
* * *
その桂の隠れ家へ、いま自分は向かっている。不思議だと、沖田は思った。むろんあのときの、あの隠れ家はもうとうに引き払われていて、向かっているのはまたちがう、べつのどこかだ。
* * *
竹林脇で仕合損なったあと、桂をみつけるたび、やっぱりバズーカ砲で追い回したが、本音を云えば、飛び道具での決着などもう、望んでいない。あれは、そう、あいさつ代わりの儀式のようなものだ。あんなもので桂は捕らえられないし、捕らえるまえに本身で渡り合いたいという目的が、沖田にはできてしまった。
真選組への後ろめたさなどはつゆほども感じない。いずれ捕らえればいい。そのまえにちょっとだけ沖田が桂の時間を拝借したところで、なんの問題があるだろう。
いつものように、茶店のまえのベンチで昼寝を決め込んで。部下の報告を待っている、という名目で任務をさぼっていた沖田は、のれんをくぐる銀時と目があった。
「よく、会うねぇ。総一郞くん」
「総悟でさぁ、旦那。…このまえは、どうも。世話、かけちまって」
「うん? なんのこと」
空とぼけるのは、銀時なりの気遣いだろう。沖田には忘れられるはずもないが、姉の死から、ようやく平常を取り戻したところだった。
続 2008.02.03.
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