Armed angel #23 二期終幕後 ニルティエ
地上休暇の第一夜。ひたすらラブエロ。R18。
少し長めの全三回。その2。
「あなただって…よく知っているだろう。がむしゃらなまでに刹那は生きる。生きて彼は覚醒を果たした。刹那は変革する。このさきも。あなたという存在を礎に遥か遠くに到達する。彼はイオリアの願いの先駆者だ。刹那はぼくが護る。それはティエリア・アーデの使命だ。そしてぼくはあなたを護る。それはティエリア・アーデの…無二の希みだ」
ちからづよく宣言する腕のなかの恋人は、その変わらぬ見た目に反して、だれよりも大きな変革を成しているのだ。五年前、ニールが予感したとおりに。
「…俺、やっぱおまえに置いていかれてるな」
ティエリアがむっとしたように眉を顰める。
「ぼくはあなたを置いていったりしない」
あのときとおなじことばを返された。
「あなたこそ、ほかのだれにも触れたり触れられたりしなかったのか」
ニールはやわらかに目を細めて、おのれの頬に添えられていたティエリアの両の掌を両手でつかんで下ろす。そのまま腕ごときつく抱きしめた。
「そんなあいてがどこにいるよ」
この生を得てからこっち、考えることといえば、いちど手を放してしまった天使のことばかりだったというのに。
「…ニール」
愛しげにおのれの名を呟いた口唇に、そっと口唇を寄せた。
窓から射し込む街灯りだけを光源に、薄闇の帷の降りた一室のふたつ並んだベッドの片側で、白いシーツに絡みあう影が落ちている。
ティエリアが希んだとおりに、ニールは隈無くそのすべてに触れてゆく。指先で。掌で。舌で。口唇で。甘い吐息はしだいに切羽詰まったものへと変わって、華奢な指先が焦れたように癖のある胡桃色の髪を掻いた。
「…んぁ、…ニール……ニールぅ」
ひと束掬い取ってキスを捧げた紫黒の髪からはじまり、かたちのよい脚の爪先までをひとつひとつ余すことなく口に含んで、ニールはそうして辿り着いた快楽の頂に舌を這わせて鈴口を尖端でなぶる。裏筋を舐めその奥の狭間を二本の指で暴きながら、蟻の門渡りを舌で辿り、指と合わせて潜り込ませた。
「ひ…ぁ、ああ…っ」
ほっそりとした腰が撥ねる。見せかけの生殖器官は、五年前とおなじように首を擡げて濡れて震える。舌先と指で襞を掻き分けて丹念に解した。
「ニー…ル。ニー…、は…あ、ロ…クオン、…」
意識が情欲に塗り籠められていくにしたがって、曖昧に揺れる呼称がティエリアの口を吐いた。ニールもあえてもう訂正はしない。どちらでもかまわないのだ、ほんとうは。だいじなのはティエリアがおのれという存在を呼ぶ、その事実だけ。まぎれもなく自分はニール・ディランディでありロックオン・ストラトスであるのだから。
三本の指だけをそこに残して、ニールの舌は再びティエリアの肌の稜線を辿りはじめた。引き締まったなめらかな腹から、呼吸ごとに上下する胸の尖りを押し潰すように舐めて甘咬みし、赤子のように吸った。鎖骨の窪みにたまった汗を舌で舐め取って、やわらかな頸筋を食むように口接ける。すでにいくつも散らされている朱い痕がまたひとつ浮かびあがり、喉もとから下顎を狂おしく吸いながら、甘く淫靡な囁きとともに耳朶に吐息を吹き込む。
「ティエ…」
ニールを掻き抱いていた腕が、猛々しい筋肉の張りを確かめるように汗ばんだ肌を滑り、背から腰へと彷徨い落ちたあげく、指に絡む茂みに屹立する脈動を捉えた。
ヴァーチェを、ナドレを、セラヴィーを、セラフィムを、巧みに駆るマイスターのしなやかな指先が、ニールの欲を育てる。それはもうそんな必要のないほど熱く固く張りつめていたが、ティエリア・アーデの手管に容赦はない。
「ティエ…リア」
熱っぽく上擦った声が出て、すでに猶予はなかった。まるい膝がニールの腰を挟み込んで擦れる。
「も、いい。おまえが、は…ぁ、…きつく…なるぞ」
増した質量はそのままティエリアに負担を強いる。それを抑えきれる理性など、とうに残っていない。つぷりと侵攻を開始したニールの欲望は、さしたる時間をおかずに付け根までをティエリアの奥深くに埋め込まれた。
「………ああ、」
しっとりと重く濡れた息を吐いて、ニールの頸に絡めた腕をティエリアはぎゅっと引き寄せる。
「…、…あなた…だ」
そのかたちを認めてか、脈打つ熱の塊をすっぽりと包み込み蠕動をはじめた内奥に、狂おしいほどの愛しさが溢れ、湧き上がる快感にニールは咽奥で呻いた。
「……ぁ…ぅ……く」
「…ロッ…オ………ン…ぁ」
組み合わされたたがいのうすい粘膜が擦られて喜悦を生み、さらなる絶え間ない躍動にティエリアが喘ぐ。
この生体としてはたがいに初めて交わるからだは、たっぷりと時間を掛けて準備されてなお、敏感にたがいの熱を感じ取った。
激しさを増す抽送と律動に添うように、ティエリアの腰が揺らめく。
「あ、…んあ。あ、ぁぁ、ニール。ニール…」
膝から下をニールの腰に絡めて、逃すまいとするようにティエリアの半身が撓った。
「ロックオン…ん、ぁん、んあ、…」
せつなげに身を捩り撥ねる白磁の肌が、ニールの眼前で乱れてよがる。
「あ、あ…ああ」
肩先で切り揃えられた紫黒の髪がシーツを打って散らばり、淫らに蠢いて、碧緑の視線を捉えて放さない。愛欲に濡れた肌が凄艶な彩を浮かべて、抱くおとこの情火を煽った。
「ティ…エ。…ティエリア。ティエ…リア」
シーツをつかみ損ねて彷徨う白い五本の指に五本の指を交差し絡めてつよく握る。
「あ…、は、ニール…ニー…ル」
苦しげに寄せられた眉根のした、うすく開かれた瞼のあいまから覗く濡れた双眸がニールを求める。息も絶え絶えの、その淫らにやわらかな口唇を噛み付くように吸いながら、突き刺し突き立てた腰から背筋を遡って、火花散るかの焼けつく熱が走り抜けた。
甘い嬌声が一室に谺して、ニールの聴覚を侵す。尖端からいくども迸る熱を自照しながら、その衝撃ごとにびくりと撥ねるティエリアの裸身をつよく抱きしめた。
その果ては、けれど次なる前奏でしかない。
しがみつくニールの重みを甘受して快楽に濡れたおもてで微笑むティエリアに、つなげたままのおのれがまたずくりと疼く。熱に浮かされた紅玉が応えるように碧緑を見つめ、口唇がキスを強請(ねだ)る。
笑みを返してそれを啄み、ニールはティエリアを穿ったままくるりとその身を反した。
「あっ、んん」
ティエリアの細い咽が仰け反って、羽根のない天使の貝殻骨が、薄闇に浮かんだ白磁の背に陰翳を落とす。
「ティエリア…」
熱と情欲にまみれた声で、背中越しの耳朶を浸した。
「ん…ロックオ…ン……ニール…」
背後から覆い被さるように、埋め込まれたものがふたたび律動をはじめて、その熱がまたティエリアを浸食する。
四つに這いしなやかな背に玉の汗を散らせて、背後から飲み込まんばかりに羽根を広げたおとこの情炎に、ティエリアは追い立てられる。頑是ない幼子のように首を振り、紫黒の髪の濡れて張り付くうなじが薄紅に染まる。
それは毒にも似て、とろりとニールの神経を冒す。愛しさに膨れあがる欲は瞬く間に弾けて、ティエリアの奥深くへと雪崩れ込んだ。
おおきく息を吐き、こんどはやわらかに背後から抱きしめた。そのまま横抱きに手足を絡めてベッドに沈む。
「…ティエ…」
耳もとで呼びかけると、やや遠退いていたらしいティエリアの意識が、その声に引き戻されるようにニールを認めた。
「ニ……ル…」
「…ティエリア。…ティエ…」
きれいな音の名を囁きながらニールの指先はティエリアの胸と下腹とに戯れ掛かる。たがいのつながりから泡立つような濡れた音が立って、ティエリアはぴくりと身を竦ませた。
「…っ、だ、め」
「ティエ…?」
「抜いたら、…零れ、る」
そうと気づかぬままの媚態と淫猥なつぶやきに、あっけなくニールの理性はまたも崩壊した。
「…抜かねぇよ。まだ、このままだ」
「…え…は?」
再度ころりと身を転がされて、ティエリアはまた正面からニールの重みを受けとめる羽目になる。
「ニ…ル…」
ニールの腰を深く咬まされて広げられた脚が、白いシーツを蹴った。
「ぁん」
そのまま軽く突くだけで甘い反応が返る。
「ニール…、んぅ」
戸惑うような困ったような声がニール呼ぶが、かまわず腰を揺らした。ゆっくりと振って、みたびティエリアの快楽を探る。抗うまもなく、ティエリアは引き出されていく愉悦に溺れた。
気怠い吐息はどこかしら満足げに響いた。
おのれの背と腰に四肢を絡める浮世離れした麗人を、抱きかかえるようにしてニールは起きあがる。
驚いたように瞠られたティエリアの眸をみつめかえして、碧緑が笑んだ。
「そのまましっかり捉まってろ」
一点でつながったまま抱き起こされて、ティエリアは周章ててニールの頸に腕を交差させてしがみつき、下肢に絡めていた両脚にちからを込めた。
「あう」
挿入されたままのものの角度が変わり、それにティエリア自身の自重が加わって、くぐもった悲鳴が洩れる。
たっぷりと注ぎ込まれたものがあふれ零れるのを厭うティエリアが、必死になって離れまいとするのに、ニールはにやけゆるむ頬を隠しきれない。気づいたティエリアが睨めつけてくるのへ、へらりと笑って抱きかかえた腕を揺すった。
「ほら。落っこちたら、抜けて洩れるぜ」
「ニール!」
羞恥と怒気を孕んで朱に染まった目もとが、凄絶なまでに色っぽい。
「怒るなって。バスでちゃんと後始末するから」
「あなたが抜かずにつづけるからだろう!」
「んなことかまわずに、強請ってきたのはおまえさんだろ」
実際、ニールにもそれにかまうよゆうはなかったのだ。だって、それほどまでに餓(かつ)えていた。たぶんきっとおたがいに。たしかに生きている、たがいという存在に。
ぷんとむくれてしまったティエリアを湯を張るまえのバスに横たわらせる。いまはめったに表れなくなった懐かしい姿をそこに見つけて、こころのどこかでよろこんでいる自分がいるのをニールは感じた。
そこでようやく引き抜くと、こぽりと音がして、夥しい残滓が渇いた浴槽を濡らす。おのれの為した因果に思わず自嘲したら、またティエリアに睨まれた。
「…っ…く」
慣れたしぐさでティエリアのからだを開いて始末をし、シャワーで洗い流してから、あらためて湯を張っていく。
「見せかけの器官でも、中身が俺だとこうなるってことだな」
ティエリアを背中から膝のあいだに抱き寄せて、肩越しに横顔を眺めた。
「ほんと、よくできてるよ。以前となにも変わらねぇ」
「…ぼくたちの生体に、生殖能力はない」
少し思案するかの間をおいてぽつりと返したティエリアに、ニールは背後からなめらかな頬に頬を擦り寄せる。
「関係ねぇな。俺は別に手前ぇのこどもが欲しいわけじゃねぇ」
家族というものへのニールの情を識るティエリアに、これはちゃんと伝えておくべきだろう。
「血肉を分けた肉親を持つことだけが家族を持つことじゃねぇって、ティエも刹那もアレルヤも、いまは知ってるだろ。…俺もだよ」
「ニール」
「再会したときに、俺、云ったよな」
人間でなくなったことを、ティエリアが気に掛けるほどニールは悩んでいない。その理由は明白で、ここにティエリアがいるからだ。
「おまえとリジェネにもらったものを貶める気はねぇんだ」
「……」
ニールのなかではすでに解決している問題だった。未来永劫ともに在るという誓約は甘い夢でしかないが、自らそれを放棄する愚だけは二度と犯さない。
この件でティエリアがニールに負い目を感じる必要などどこにもない。それをきちんと納得して欲しい。でなければニールもまたそもそもその原因となったおのれの所業を引き摺りつづけることになる。
「…そういうものか」
訥々と語るニールに、ティエリアはこくんと頷きを返した。
口が回るわりにおのれの肝心なことは煙に巻く習癖のあるニールが、出会ったころからティエリアあいてにだけは勝手が違った。この度し難いきれいな生きものは、その無垢さで隠した真実を容易く衝いて容赦ない糾弾を浴びせてきた。清んだ紅玉をまえにおのれを偽ることは、ひどく苦痛をともなった。だからニールはもうそれを繰り返すまいと思うのだろう。
「そういうものです」
「あなたには…教わってばかりだな」
「……教えてるようで教えられてるんだよ、こっちはさ」
苦笑したニールに、肩越しにきょとんとした眼差しを向けてくるティエリアは、犯罪的にかわいらしかった。
続 2012.04.24.
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「あなただって…よく知っているだろう。がむしゃらなまでに刹那は生きる。生きて彼は覚醒を果たした。刹那は変革する。このさきも。あなたという存在を礎に遥か遠くに到達する。彼はイオリアの願いの先駆者だ。刹那はぼくが護る。それはティエリア・アーデの使命だ。そしてぼくはあなたを護る。それはティエリア・アーデの…無二の希みだ」
ちからづよく宣言する腕のなかの恋人は、その変わらぬ見た目に反して、だれよりも大きな変革を成しているのだ。五年前、ニールが予感したとおりに。
「…俺、やっぱおまえに置いていかれてるな」
ティエリアがむっとしたように眉を顰める。
「ぼくはあなたを置いていったりしない」
あのときとおなじことばを返された。
「あなたこそ、ほかのだれにも触れたり触れられたりしなかったのか」
ニールはやわらかに目を細めて、おのれの頬に添えられていたティエリアの両の掌を両手でつかんで下ろす。そのまま腕ごときつく抱きしめた。
「そんなあいてがどこにいるよ」
この生を得てからこっち、考えることといえば、いちど手を放してしまった天使のことばかりだったというのに。
「…ニール」
愛しげにおのれの名を呟いた口唇に、そっと口唇を寄せた。
窓から射し込む街灯りだけを光源に、薄闇の帷の降りた一室のふたつ並んだベッドの片側で、白いシーツに絡みあう影が落ちている。
ティエリアが希んだとおりに、ニールは隈無くそのすべてに触れてゆく。指先で。掌で。舌で。口唇で。甘い吐息はしだいに切羽詰まったものへと変わって、華奢な指先が焦れたように癖のある胡桃色の髪を掻いた。
「…んぁ、…ニール……ニールぅ」
ひと束掬い取ってキスを捧げた紫黒の髪からはじまり、かたちのよい脚の爪先までをひとつひとつ余すことなく口に含んで、ニールはそうして辿り着いた快楽の頂に舌を這わせて鈴口を尖端でなぶる。裏筋を舐めその奥の狭間を二本の指で暴きながら、蟻の門渡りを舌で辿り、指と合わせて潜り込ませた。
「ひ…ぁ、ああ…っ」
ほっそりとした腰が撥ねる。見せかけの生殖器官は、五年前とおなじように首を擡げて濡れて震える。舌先と指で襞を掻き分けて丹念に解した。
「ニー…ル。ニー…、は…あ、ロ…クオン、…」
意識が情欲に塗り籠められていくにしたがって、曖昧に揺れる呼称がティエリアの口を吐いた。ニールもあえてもう訂正はしない。どちらでもかまわないのだ、ほんとうは。だいじなのはティエリアがおのれという存在を呼ぶ、その事実だけ。まぎれもなく自分はニール・ディランディでありロックオン・ストラトスであるのだから。
三本の指だけをそこに残して、ニールの舌は再びティエリアの肌の稜線を辿りはじめた。引き締まったなめらかな腹から、呼吸ごとに上下する胸の尖りを押し潰すように舐めて甘咬みし、赤子のように吸った。鎖骨の窪みにたまった汗を舌で舐め取って、やわらかな頸筋を食むように口接ける。すでにいくつも散らされている朱い痕がまたひとつ浮かびあがり、喉もとから下顎を狂おしく吸いながら、甘く淫靡な囁きとともに耳朶に吐息を吹き込む。
「ティエ…」
ニールを掻き抱いていた腕が、猛々しい筋肉の張りを確かめるように汗ばんだ肌を滑り、背から腰へと彷徨い落ちたあげく、指に絡む茂みに屹立する脈動を捉えた。
ヴァーチェを、ナドレを、セラヴィーを、セラフィムを、巧みに駆るマイスターのしなやかな指先が、ニールの欲を育てる。それはもうそんな必要のないほど熱く固く張りつめていたが、ティエリア・アーデの手管に容赦はない。
「ティエ…リア」
熱っぽく上擦った声が出て、すでに猶予はなかった。まるい膝がニールの腰を挟み込んで擦れる。
「も、いい。おまえが、は…ぁ、…きつく…なるぞ」
増した質量はそのままティエリアに負担を強いる。それを抑えきれる理性など、とうに残っていない。つぷりと侵攻を開始したニールの欲望は、さしたる時間をおかずに付け根までをティエリアの奥深くに埋め込まれた。
「………ああ、」
しっとりと重く濡れた息を吐いて、ニールの頸に絡めた腕をティエリアはぎゅっと引き寄せる。
「…、…あなた…だ」
そのかたちを認めてか、脈打つ熱の塊をすっぽりと包み込み蠕動をはじめた内奥に、狂おしいほどの愛しさが溢れ、湧き上がる快感にニールは咽奥で呻いた。
「……ぁ…ぅ……く」
「…ロッ…オ………ン…ぁ」
組み合わされたたがいのうすい粘膜が擦られて喜悦を生み、さらなる絶え間ない躍動にティエリアが喘ぐ。
この生体としてはたがいに初めて交わるからだは、たっぷりと時間を掛けて準備されてなお、敏感にたがいの熱を感じ取った。
激しさを増す抽送と律動に添うように、ティエリアの腰が揺らめく。
「あ、…んあ。あ、ぁぁ、ニール。ニール…」
膝から下をニールの腰に絡めて、逃すまいとするようにティエリアの半身が撓った。
「ロックオン…ん、ぁん、んあ、…」
せつなげに身を捩り撥ねる白磁の肌が、ニールの眼前で乱れてよがる。
「あ、あ…ああ」
肩先で切り揃えられた紫黒の髪がシーツを打って散らばり、淫らに蠢いて、碧緑の視線を捉えて放さない。愛欲に濡れた肌が凄艶な彩を浮かべて、抱くおとこの情火を煽った。
「ティ…エ。…ティエリア。ティエ…リア」
シーツをつかみ損ねて彷徨う白い五本の指に五本の指を交差し絡めてつよく握る。
「あ…、は、ニール…ニー…ル」
苦しげに寄せられた眉根のした、うすく開かれた瞼のあいまから覗く濡れた双眸がニールを求める。息も絶え絶えの、その淫らにやわらかな口唇を噛み付くように吸いながら、突き刺し突き立てた腰から背筋を遡って、火花散るかの焼けつく熱が走り抜けた。
甘い嬌声が一室に谺して、ニールの聴覚を侵す。尖端からいくども迸る熱を自照しながら、その衝撃ごとにびくりと撥ねるティエリアの裸身をつよく抱きしめた。
その果ては、けれど次なる前奏でしかない。
しがみつくニールの重みを甘受して快楽に濡れたおもてで微笑むティエリアに、つなげたままのおのれがまたずくりと疼く。熱に浮かされた紅玉が応えるように碧緑を見つめ、口唇がキスを強請(ねだ)る。
笑みを返してそれを啄み、ニールはティエリアを穿ったままくるりとその身を反した。
「あっ、んん」
ティエリアの細い咽が仰け反って、羽根のない天使の貝殻骨が、薄闇に浮かんだ白磁の背に陰翳を落とす。
「ティエリア…」
熱と情欲にまみれた声で、背中越しの耳朶を浸した。
「ん…ロックオ…ン……ニール…」
背後から覆い被さるように、埋め込まれたものがふたたび律動をはじめて、その熱がまたティエリアを浸食する。
四つに這いしなやかな背に玉の汗を散らせて、背後から飲み込まんばかりに羽根を広げたおとこの情炎に、ティエリアは追い立てられる。頑是ない幼子のように首を振り、紫黒の髪の濡れて張り付くうなじが薄紅に染まる。
それは毒にも似て、とろりとニールの神経を冒す。愛しさに膨れあがる欲は瞬く間に弾けて、ティエリアの奥深くへと雪崩れ込んだ。
おおきく息を吐き、こんどはやわらかに背後から抱きしめた。そのまま横抱きに手足を絡めてベッドに沈む。
「…ティエ…」
耳もとで呼びかけると、やや遠退いていたらしいティエリアの意識が、その声に引き戻されるようにニールを認めた。
「ニ……ル…」
「…ティエリア。…ティエ…」
きれいな音の名を囁きながらニールの指先はティエリアの胸と下腹とに戯れ掛かる。たがいのつながりから泡立つような濡れた音が立って、ティエリアはぴくりと身を竦ませた。
「…っ、だ、め」
「ティエ…?」
「抜いたら、…零れ、る」
そうと気づかぬままの媚態と淫猥なつぶやきに、あっけなくニールの理性はまたも崩壊した。
「…抜かねぇよ。まだ、このままだ」
「…え…は?」
再度ころりと身を転がされて、ティエリアはまた正面からニールの重みを受けとめる羽目になる。
「ニ…ル…」
ニールの腰を深く咬まされて広げられた脚が、白いシーツを蹴った。
「ぁん」
そのまま軽く突くだけで甘い反応が返る。
「ニール…、んぅ」
戸惑うような困ったような声がニール呼ぶが、かまわず腰を揺らした。ゆっくりと振って、みたびティエリアの快楽を探る。抗うまもなく、ティエリアは引き出されていく愉悦に溺れた。
気怠い吐息はどこかしら満足げに響いた。
おのれの背と腰に四肢を絡める浮世離れした麗人を、抱きかかえるようにしてニールは起きあがる。
驚いたように瞠られたティエリアの眸をみつめかえして、碧緑が笑んだ。
「そのまましっかり捉まってろ」
一点でつながったまま抱き起こされて、ティエリアは周章ててニールの頸に腕を交差させてしがみつき、下肢に絡めていた両脚にちからを込めた。
「あう」
挿入されたままのものの角度が変わり、それにティエリア自身の自重が加わって、くぐもった悲鳴が洩れる。
たっぷりと注ぎ込まれたものがあふれ零れるのを厭うティエリアが、必死になって離れまいとするのに、ニールはにやけゆるむ頬を隠しきれない。気づいたティエリアが睨めつけてくるのへ、へらりと笑って抱きかかえた腕を揺すった。
「ほら。落っこちたら、抜けて洩れるぜ」
「ニール!」
羞恥と怒気を孕んで朱に染まった目もとが、凄絶なまでに色っぽい。
「怒るなって。バスでちゃんと後始末するから」
「あなたが抜かずにつづけるからだろう!」
「んなことかまわずに、強請ってきたのはおまえさんだろ」
実際、ニールにもそれにかまうよゆうはなかったのだ。だって、それほどまでに餓(かつ)えていた。たぶんきっとおたがいに。たしかに生きている、たがいという存在に。
ぷんとむくれてしまったティエリアを湯を張るまえのバスに横たわらせる。いまはめったに表れなくなった懐かしい姿をそこに見つけて、こころのどこかでよろこんでいる自分がいるのをニールは感じた。
そこでようやく引き抜くと、こぽりと音がして、夥しい残滓が渇いた浴槽を濡らす。おのれの為した因果に思わず自嘲したら、またティエリアに睨まれた。
「…っ…く」
慣れたしぐさでティエリアのからだを開いて始末をし、シャワーで洗い流してから、あらためて湯を張っていく。
「見せかけの器官でも、中身が俺だとこうなるってことだな」
ティエリアを背中から膝のあいだに抱き寄せて、肩越しに横顔を眺めた。
「ほんと、よくできてるよ。以前となにも変わらねぇ」
「…ぼくたちの生体に、生殖能力はない」
少し思案するかの間をおいてぽつりと返したティエリアに、ニールは背後からなめらかな頬に頬を擦り寄せる。
「関係ねぇな。俺は別に手前ぇのこどもが欲しいわけじゃねぇ」
家族というものへのニールの情を識るティエリアに、これはちゃんと伝えておくべきだろう。
「血肉を分けた肉親を持つことだけが家族を持つことじゃねぇって、ティエも刹那もアレルヤも、いまは知ってるだろ。…俺もだよ」
「ニール」
「再会したときに、俺、云ったよな」
人間でなくなったことを、ティエリアが気に掛けるほどニールは悩んでいない。その理由は明白で、ここにティエリアがいるからだ。
「おまえとリジェネにもらったものを貶める気はねぇんだ」
「……」
ニールのなかではすでに解決している問題だった。未来永劫ともに在るという誓約は甘い夢でしかないが、自らそれを放棄する愚だけは二度と犯さない。
この件でティエリアがニールに負い目を感じる必要などどこにもない。それをきちんと納得して欲しい。でなければニールもまたそもそもその原因となったおのれの所業を引き摺りつづけることになる。
「…そういうものか」
訥々と語るニールに、ティエリアはこくんと頷きを返した。
口が回るわりにおのれの肝心なことは煙に巻く習癖のあるニールが、出会ったころからティエリアあいてにだけは勝手が違った。この度し難いきれいな生きものは、その無垢さで隠した真実を容易く衝いて容赦ない糾弾を浴びせてきた。清んだ紅玉をまえにおのれを偽ることは、ひどく苦痛をともなった。だからニールはもうそれを繰り返すまいと思うのだろう。
「そういうものです」
「あなたには…教わってばかりだな」
「……教えてるようで教えられてるんだよ、こっちはさ」
苦笑したニールに、肩越しにきょとんとした眼差しを向けてくるティエリアは、犯罪的にかわいらしかった。
続 2012.04.24.
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