Armed angel #22 二期終幕後 ニルティエ+リジェネ
ティエリア大好きリジェネ
全三回。その2。
うっとりと閉じられたリジェネの双眸と、対極にティエリアの紅玉が吃驚に見開かれる。ホロモニターの虚像とはいえ眼前に繰り広げられた光景に、ニールは反射的にその映像を叩き切った。
「なんの真似だ、リジェネ・レジェッタ!」
捉えていた手を強烈にはねのけられて、リジェネはその痛みに顔を蹙めた。それでも口唇も舌も咬まれなかったのだから上々だろう。
「僕はティエリアが好きだもの。キスしてなにがおかしいんだい?」
しれっと云われて、ティエリアは絶句する。
「それに、見ただろう? あいつの反応」
かるく片目を瞑って悪戯っぽく笑うリジェネに、ティエリアはその意図を覚って半ば諦念の溜め息を吐いた。
「彼を…試すような真似をするな」
「きみが煮え切らないからじゃないか」
「…リジェネ」
「あいつの押しつけがましいやせ我慢も鼻持ちならないしね」
それもまた本音なのだろう、リジェネはぷいとそっぽを向く。
「きみに愛されてる自信があるから、無為を覚悟で居座れるんだ。いつ触れられるかわからなくても、いずれ絶対その日が来ると確信してるんだよ、腹が立つ」
ティエリアは先刻とは逆に、むくれるリジェネの肩を抱き寄せた。
「……ぼくがヴェーダを離れたら、きみはどうする」
ティエリアと違って、リジェネはもう生体端末として実体を得ることはできない。
「離れたって、リンクを切るわけじゃないだろう。連邦がどう管轄しようとヴェーダを掌握しているのはきみだ、ティエリア。ぼくは、まあ、有事の際の連絡役ぐらいはしてあげてもいいよ。あとはごろごろして過ごすかな」
「…ありがとう、リジェネ」
「………ふん。…」
率直に示された謝意に、リジェネは口唇を噛んだ。
「どうせ喧嘩でもしてとっとともどってくる羽目になるんだろうけどさ。帰らなかったら……承知しないからね」
「ぼくは…ヴェーダの子だ。イノベイドとしての責務を放棄したりしない」
「…それだけかい?」
ちらりと睨めてきた相似の紅玉に、ティエリアはやわらかに破顔した。
「もちろん、ぼくはきみの対だ。リジェネ…。それを忘れることはない」
* * *
反射的に叩き切った通信端末をベッドの上に放り投げる。
「…くそっ」
次いでそのベッドに乱暴に身を投げると、頭を抱え込み背を丸めてニールは呻いた。
あいては意識体のデータだ。あれはたかだか映像の産物でしかない。理屈ではわかっていても、目のまえで恋しいあいてが自分でないだれかと口接けるさまを見せつけられて、平静でいられるほどニールは枯れていなかった。
明らかに挑発してきたリジェネに、不意打ちだったろうとはいえそれをゆるしたティエリア。対に甘いのはイノベイドの本能なのかも知れないが、触れることさえゆるされぬ身には思う以上に痛手となってこの身を抉る。
イノベイドの生体は人間のようには本能的な度し難い性欲を持たないが、脳が人間であるところのニールにはそれもあやしく、第二次性徴を経た健常な男子ならあたりまえにある朝の生理現象こそ鳴りを潜めているにせよ、淫夢を見ればそれに則した反応はあるし、恋人をおもえば抑えようもない愛欲に満たされる。至極当然に。
「ティエリア…」
覚悟はしている。ティエリアがまたうつわであるところの肉体を得て、人間社会に復帰するのはいつとも知れない。ヴェーダの一部となって人類を見守る意を決したティエリアが、そうおいそれとヴェーダから出てくることがないだろうことも、想像に難くなかった。
「以前には、あれほどヴェーダを慕ったやつだもんな…」
そもそも、ニールがこうしたかたちで生き存えるなどティエリアには想像の外の出来事だ。だからこそ彼はアロウズとの決戦に際してイノベイドとしての自身の選択をまえに、ニールをひとりにしないと、そばにいることをわざわざおのれに誓ったのだ。すでに肉体を失うことを覚悟していたのだから、それはこころのありようとしてだったろう。
さきに手前勝手に死んだおのれには、それでも充分としなければならない。腹を括って受け容れたティエリアの死は、ティエリアが味わわされたニールの死とは意味が違う。自惚れていいなら、ニールが家族を失ったとき同様、それは絶望的な現実であったはずだ。
比せば、ニールはティエリアとまだ会話ができる。気持ちを通わすことが叶う。ただ触れられないことが、抱きしめられないことが、つらいだけだ。
だが。
「…人間ってのはぜーたくに慣れるようにできてるよな…」
ひとつ叶えばまたつぎを希む。それは貪欲なこころの変化だ。父や母や妹とはちがい、ふたたびの希む未来の可能性があることは、ニールの唯一の救いであり、そのおなじだけの重さの責め苦となっている。
枕もとに放り投げられた端末が光る。一拍遅れて鳴り出したコール音が耳に届いた。
「………」
束の間ニールは明滅する光を眺め、気怠く手を伸べて端末のホロモニターを開く。暗いままのホロ画面に白く浮かびあがる文字はティエリアと綴られている。ヴェーダからの通信とは別に、彼が私用としている回線だった。
やや躊躇いののち、ニールは音声モードで通話ボタンを押した。
「……」
無言で応じたニールに、ティエリアが問い掛ける。
「ニール・ディランディ?」
「…ああ、聞こえてる」
「怒っているのですか」
こうした方面に疎いティエリアでも、さすがにあのあといつものように即座に出ずに音声のみで応じたとあっては、そうと気づいたものらしい。
「気分は、よくない」
「当然…ですね。謝罪します」
すなおに詫びられて、拗ねているのもおとなげない気がしてきた。
「…いや、まあ、おまえのせいじゃねぇんだけど、な」
「いえ。リジェネにあんな真似をさせたのは、ぼく自身のせいでもあるので」
そうしたリジェネを庇う云いようがニールの気に障るとまでは、ティエリアにはわからない。
「報告はあれですんでる。それを云うためにかけてきたのか?」
暗いホロモニターのむこうで、困惑するような気配と、それでいてどこか苦笑を滲ませたような息遣いがあった。
「…云ったろ、気分はよくない。切るぞ」
われながら児戯な反応だと思ったが、つい口を吐いて出た。不機嫌の理由はたんにキス云々だけの問題ではなく、その根本的解決におのれは口出しする権限を持たず、どうしようもないのだとわかっているから、よけいそうなる。
「いま、展望室に出て来られますか」
ティエリアはニールの返答を無視してきた。
「展望室?」
意外なことばに思わず鸚鵡返しになった。
トレミーにいたころ、ヴェーダとのリンクが途絶えてからティエリアはよく展望室にいたが、この外宇宙航行母艦の衛星側にもそれらしき場所が設えられてはいる。
「なんで、また」
「場所はわかりますね。では、そこで待機を。一〇セコンド後に」
「ちょ、おい、ティエリア?」
一方的に用件を伝えて通信は切れた。
浮かんでいた[SOUND ONLY]の文字からブラックアウトしたホロモニターの画面をニールはやや茫然としばし見つめる。
「なんだってんだ、いったい」
訝りながらも、それを無視することなどできるはずもない。ニールはおとなしく云われたままに展望室で待った。
展望室の透過壁越しに、いまは月の姿が見える。時間によっては地球の姿も見ることがかなうが、ニールはあまりここに来たことがない。なんのかんのと修復作業で時間を取られていることもあったし、もうひとつには死の直前に見た地球の姿がまなうらにかさなるせいもあった。
復讐の愚かしさを知ってなお、あのときのおのれの行動を後悔はしても否定はできない。その成否に因らず、結句、復讐の銃爪を引くことでしかニールはいまの心境に辿り着けなかったろう。あのまま死んで永遠に失ったはずのその機会を、思いがけずおのれは得られたのだ。
「ま、そのわりには、情けねぇことになってるがな」
透過壁に手を伸べて、指先で月の輪郭を辿る。日常けして外すことのなかった革手袋は、いまはこの手にはない。このからだでも地上に降りていたときには銃を手にしていたから嵌めていたが、ここではその必要がない。だれよりティエリアがそれを希まなかった。
ヴェーダの委譲がすんで、あなたの好きにして欲しいとティエリアに申し入れられたとき、ニールはそれを逆手にとってここを離れることを拒んだ。映像のティエリアは困った顔をして、それでもすんなり受け容れたのは、ティエリアもまたそれを希んでくれたからだと自負している。ただひとつ、それならここではそのグローブをしないで欲しい、というのがティエリアの条件だった。暗に、もう銃を持たせたくはないのだと云ったに等しい。
ニールがそれを呑んだのはむろんその意を汲んだからだが、自身にそんな決意があったわけではない。いまさら人殺しの罪過は消えないし、たとえその罪をかさねる気はなくても、もしこのさきティエリアの存在を脅かす事態が生じれば、躊躇いなく銃爪を引くであろう自分をニールは知っていた。
紛争根絶と恒久和平を望みそのために銃爪を引いていた。ティエリアの存在はその道標だ。ティエリアやリジェネの云うようにいずれ刹那がその鍵となるのなら、そのためにもおのれは銃爪を引くだろう。変革の刻はまだはじまったばかりだ。
「…これも、詭弁か」
苦笑するおのれの顔が、宇宙の藍を映して浮かぶ。愛しいもののために引く銃爪に、それ以外の理由など、あってないようなものだ。
空気音がして、眺めていた透過壁がふいにその愛しい姿を映した。
「ティエリア…」
ガンダムと同等かそれ以上の技術がこの母艦には備わっている。設計思想のおおもとがおなじ人物なのだから、あたりまえといえばあたりまえだ。イオリア・シュヘンベルグ。ヴェーダの生みの親。ひいてはティエリアの、とんでもない創造主。その建造物にはとても二百年前のものとは思えぬ叡智が込められている。
続 2012.04.08.
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うっとりと閉じられたリジェネの双眸と、対極にティエリアの紅玉が吃驚に見開かれる。ホロモニターの虚像とはいえ眼前に繰り広げられた光景に、ニールは反射的にその映像を叩き切った。
「なんの真似だ、リジェネ・レジェッタ!」
捉えていた手を強烈にはねのけられて、リジェネはその痛みに顔を蹙めた。それでも口唇も舌も咬まれなかったのだから上々だろう。
「僕はティエリアが好きだもの。キスしてなにがおかしいんだい?」
しれっと云われて、ティエリアは絶句する。
「それに、見ただろう? あいつの反応」
かるく片目を瞑って悪戯っぽく笑うリジェネに、ティエリアはその意図を覚って半ば諦念の溜め息を吐いた。
「彼を…試すような真似をするな」
「きみが煮え切らないからじゃないか」
「…リジェネ」
「あいつの押しつけがましいやせ我慢も鼻持ちならないしね」
それもまた本音なのだろう、リジェネはぷいとそっぽを向く。
「きみに愛されてる自信があるから、無為を覚悟で居座れるんだ。いつ触れられるかわからなくても、いずれ絶対その日が来ると確信してるんだよ、腹が立つ」
ティエリアは先刻とは逆に、むくれるリジェネの肩を抱き寄せた。
「……ぼくがヴェーダを離れたら、きみはどうする」
ティエリアと違って、リジェネはもう生体端末として実体を得ることはできない。
「離れたって、リンクを切るわけじゃないだろう。連邦がどう管轄しようとヴェーダを掌握しているのはきみだ、ティエリア。ぼくは、まあ、有事の際の連絡役ぐらいはしてあげてもいいよ。あとはごろごろして過ごすかな」
「…ありがとう、リジェネ」
「………ふん。…」
率直に示された謝意に、リジェネは口唇を噛んだ。
「どうせ喧嘩でもしてとっとともどってくる羽目になるんだろうけどさ。帰らなかったら……承知しないからね」
「ぼくは…ヴェーダの子だ。イノベイドとしての責務を放棄したりしない」
「…それだけかい?」
ちらりと睨めてきた相似の紅玉に、ティエリアはやわらかに破顔した。
「もちろん、ぼくはきみの対だ。リジェネ…。それを忘れることはない」
* * *
反射的に叩き切った通信端末をベッドの上に放り投げる。
「…くそっ」
次いでそのベッドに乱暴に身を投げると、頭を抱え込み背を丸めてニールは呻いた。
あいては意識体のデータだ。あれはたかだか映像の産物でしかない。理屈ではわかっていても、目のまえで恋しいあいてが自分でないだれかと口接けるさまを見せつけられて、平静でいられるほどニールは枯れていなかった。
明らかに挑発してきたリジェネに、不意打ちだったろうとはいえそれをゆるしたティエリア。対に甘いのはイノベイドの本能なのかも知れないが、触れることさえゆるされぬ身には思う以上に痛手となってこの身を抉る。
イノベイドの生体は人間のようには本能的な度し難い性欲を持たないが、脳が人間であるところのニールにはそれもあやしく、第二次性徴を経た健常な男子ならあたりまえにある朝の生理現象こそ鳴りを潜めているにせよ、淫夢を見ればそれに則した反応はあるし、恋人をおもえば抑えようもない愛欲に満たされる。至極当然に。
「ティエリア…」
覚悟はしている。ティエリアがまたうつわであるところの肉体を得て、人間社会に復帰するのはいつとも知れない。ヴェーダの一部となって人類を見守る意を決したティエリアが、そうおいそれとヴェーダから出てくることがないだろうことも、想像に難くなかった。
「以前には、あれほどヴェーダを慕ったやつだもんな…」
そもそも、ニールがこうしたかたちで生き存えるなどティエリアには想像の外の出来事だ。だからこそ彼はアロウズとの決戦に際してイノベイドとしての自身の選択をまえに、ニールをひとりにしないと、そばにいることをわざわざおのれに誓ったのだ。すでに肉体を失うことを覚悟していたのだから、それはこころのありようとしてだったろう。
さきに手前勝手に死んだおのれには、それでも充分としなければならない。腹を括って受け容れたティエリアの死は、ティエリアが味わわされたニールの死とは意味が違う。自惚れていいなら、ニールが家族を失ったとき同様、それは絶望的な現実であったはずだ。
比せば、ニールはティエリアとまだ会話ができる。気持ちを通わすことが叶う。ただ触れられないことが、抱きしめられないことが、つらいだけだ。
だが。
「…人間ってのはぜーたくに慣れるようにできてるよな…」
ひとつ叶えばまたつぎを希む。それは貪欲なこころの変化だ。父や母や妹とはちがい、ふたたびの希む未来の可能性があることは、ニールの唯一の救いであり、そのおなじだけの重さの責め苦となっている。
枕もとに放り投げられた端末が光る。一拍遅れて鳴り出したコール音が耳に届いた。
「………」
束の間ニールは明滅する光を眺め、気怠く手を伸べて端末のホロモニターを開く。暗いままのホロ画面に白く浮かびあがる文字はティエリアと綴られている。ヴェーダからの通信とは別に、彼が私用としている回線だった。
やや躊躇いののち、ニールは音声モードで通話ボタンを押した。
「……」
無言で応じたニールに、ティエリアが問い掛ける。
「ニール・ディランディ?」
「…ああ、聞こえてる」
「怒っているのですか」
こうした方面に疎いティエリアでも、さすがにあのあといつものように即座に出ずに音声のみで応じたとあっては、そうと気づいたものらしい。
「気分は、よくない」
「当然…ですね。謝罪します」
すなおに詫びられて、拗ねているのもおとなげない気がしてきた。
「…いや、まあ、おまえのせいじゃねぇんだけど、な」
「いえ。リジェネにあんな真似をさせたのは、ぼく自身のせいでもあるので」
そうしたリジェネを庇う云いようがニールの気に障るとまでは、ティエリアにはわからない。
「報告はあれですんでる。それを云うためにかけてきたのか?」
暗いホロモニターのむこうで、困惑するような気配と、それでいてどこか苦笑を滲ませたような息遣いがあった。
「…云ったろ、気分はよくない。切るぞ」
われながら児戯な反応だと思ったが、つい口を吐いて出た。不機嫌の理由はたんにキス云々だけの問題ではなく、その根本的解決におのれは口出しする権限を持たず、どうしようもないのだとわかっているから、よけいそうなる。
「いま、展望室に出て来られますか」
ティエリアはニールの返答を無視してきた。
「展望室?」
意外なことばに思わず鸚鵡返しになった。
トレミーにいたころ、ヴェーダとのリンクが途絶えてからティエリアはよく展望室にいたが、この外宇宙航行母艦の衛星側にもそれらしき場所が設えられてはいる。
「なんで、また」
「場所はわかりますね。では、そこで待機を。一〇セコンド後に」
「ちょ、おい、ティエリア?」
一方的に用件を伝えて通信は切れた。
浮かんでいた[SOUND ONLY]の文字からブラックアウトしたホロモニターの画面をニールはやや茫然としばし見つめる。
「なんだってんだ、いったい」
訝りながらも、それを無視することなどできるはずもない。ニールはおとなしく云われたままに展望室で待った。
展望室の透過壁越しに、いまは月の姿が見える。時間によっては地球の姿も見ることがかなうが、ニールはあまりここに来たことがない。なんのかんのと修復作業で時間を取られていることもあったし、もうひとつには死の直前に見た地球の姿がまなうらにかさなるせいもあった。
復讐の愚かしさを知ってなお、あのときのおのれの行動を後悔はしても否定はできない。その成否に因らず、結句、復讐の銃爪を引くことでしかニールはいまの心境に辿り着けなかったろう。あのまま死んで永遠に失ったはずのその機会を、思いがけずおのれは得られたのだ。
「ま、そのわりには、情けねぇことになってるがな」
透過壁に手を伸べて、指先で月の輪郭を辿る。日常けして外すことのなかった革手袋は、いまはこの手にはない。このからだでも地上に降りていたときには銃を手にしていたから嵌めていたが、ここではその必要がない。だれよりティエリアがそれを希まなかった。
ヴェーダの委譲がすんで、あなたの好きにして欲しいとティエリアに申し入れられたとき、ニールはそれを逆手にとってここを離れることを拒んだ。映像のティエリアは困った顔をして、それでもすんなり受け容れたのは、ティエリアもまたそれを希んでくれたからだと自負している。ただひとつ、それならここではそのグローブをしないで欲しい、というのがティエリアの条件だった。暗に、もう銃を持たせたくはないのだと云ったに等しい。
ニールがそれを呑んだのはむろんその意を汲んだからだが、自身にそんな決意があったわけではない。いまさら人殺しの罪過は消えないし、たとえその罪をかさねる気はなくても、もしこのさきティエリアの存在を脅かす事態が生じれば、躊躇いなく銃爪を引くであろう自分をニールは知っていた。
紛争根絶と恒久和平を望みそのために銃爪を引いていた。ティエリアの存在はその道標だ。ティエリアやリジェネの云うようにいずれ刹那がその鍵となるのなら、そのためにもおのれは銃爪を引くだろう。変革の刻はまだはじまったばかりだ。
「…これも、詭弁か」
苦笑するおのれの顔が、宇宙の藍を映して浮かぶ。愛しいもののために引く銃爪に、それ以外の理由など、あってないようなものだ。
空気音がして、眺めていた透過壁がふいにその愛しい姿を映した。
「ティエリア…」
ガンダムと同等かそれ以上の技術がこの母艦には備わっている。設計思想のおおもとがおなじ人物なのだから、あたりまえといえばあたりまえだ。イオリア・シュヘンベルグ。ヴェーダの生みの親。ひいてはティエリアの、とんでもない創造主。その建造物にはとても二百年前のものとは思えぬ叡智が込められている。
続 2012.04.08.
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