「天涯の遊子」銀桂篇。全4回。
銀時と桂。と、エリザベス。
紅桜以降、雪まつりよりまえ。
後半に微エロあり、注意。
おのれの天の邪鬼は棚にあげて、進退に窮した銀時は、紙と筆をまえに、かたまった。書いたところで、桂にまともな天麩羅が揚げられるとは思えない。だいち、あぶない。というか、絶対危険だ。手投げ爆弾なら朝飯前につくる腕だが、こいつは天麩羅鍋を爆発させかねない。
『お手紙なら、出るついでにお届けしますよ。桂さん』
台所をかたし終えたエリザベスが、茶の間の障子を開けて覗いて、助け船を出してきた。
「いや、手紙では」
「ああ、そう? わるいね。じゃあこれ、神楽ちゃんと新八くんに届けてくんない?」
桂の言葉を遮って云いながら、銀時はさらさらと筆を走らせる。いつものごとく新八と新八の姉に神楽を託す内容だから、手慣れたものだった。
「おい、銀時?」
「しょうがねぇな。おめーに天麩羅つくらせるほうが、神楽ひとりにするより危険だっつーの」
書き終えた雁皮紙をたたみ、わざわざ檀紙に包むようなものでもないから省いて、それぞれに直に宛名を書く。立ち上がって銀時は障子端で待つエリザベスに手渡した。
「どういう風の吹き回しか知らねーが、やけに気を回してくれんじゃないの」
小声で告げる銀時に、エリザベスは腹のまえにプラカードを低く出してみせる。桂を憚っての会話のようだ。
『桂さんはずっと貴殿を見舞うか迷っておられた。あの子らを巻き込んだことを心配されていた。しばらくはご自分から万事屋を訪なうことはないだろう』
銀時は、まじまじと目のまえの、白いものの表情のない目を見た。
『先般、坂本さんとの会食に貴殿が現れたことには驚かれたようだが、元気なさまをごらんになって安心されたごようすだった』
あのとき桂は、そんな内心を、おくびにも出さなかったくせに。
『それと、まあ、桂さんの包丁惨事を未然に防いでくれた礼だ』
最後のひとことで銀時を転けさせておいて、手紙を受け取ったエリザベスが玄関口へと向かう。桂が小さな札のようなものを手に、見送りに出てきた。
「エリザベス。これを持て」
「危険はないと思うが、なにか不都合が起きたら必ずおれに連絡するのだぞ」
云いながら、凹凸のない手首らしきところに、札についた紐を巻き付ける。まるで迷子札のようだと銀時は思った。まあ、そもそもがペットなのだから、あながちまちがってはいないのかも知れないが。そのペットの気遣いで、このあとの桂との時間を手に入れたのかと思えば、いささか据わりが悪い。
「それから、すまぬがこれで。途中いつもの和菓子屋になりと寄り、リーダーと新八くんとその姉君になにか手土産を、たのむ」
白いものの掌に、紙幣を握らせた。
おまかせください、桂さん。軽くぺこりと頭を下げて、白いものが発つ。
「なに渡したの。あの手首の」
もどった茶の間にどかりと座り込み、銀時は聞くともなしに聞いた。
「交通安全のお札だ」
桂は優雅に裾を捌いてとなりに座す。
「ああ、以前に事故って入院してたっけ。って、んなもんじゃねーだろ?」
「小型の通信機と発信機とが仕込んである」
「げ」
「先日坂本が、いくつかくれたのでな」
「…あっそ」
たしかに役に立つ男だよな、と口には出さずに銀時は思う。
「それってよ、てめーに持ってろってことじゃねぇの」
「おれ?」
「いや、だからさ。あいつ、おめーに甘いから。心配で。たまには連絡よこせとか、そういう」
ちゃぶ台の茶器の盆に飲み終えた湯呑みをもどしながら、桂は小首を傾げた。
「連絡ならしているぞ。めーるで」
銀時はことばにつまった。
「………なにそれ」
「めーるだ。知らぬのか。電脳空間を用いた飛脚便のようなものだ」
ぺちっ。と桂の額を叩く。
「知っとるわ!そんなこと。そうじゃなくて、ヅラ。おめーバカ本とは頻繁にメールのやりとりしてんの!?」
「ヅラじゃない。桂だ。バカ本じゃなく坂本だ。おれは頻繁にでもないが坂本は筆まめでな。三日を空けず、なんだかんだと送ってくるぞ。どこぞの星の希少な植物の写真だの、かわいらしい生きものの写真だの、付けて。めずらしい食べものなんかは、たいがいあとから実物も届く」
あいつのどこが筆まめだよ。たまに本文と追伸が入れ違いの手紙を送りつけてくるくらいが関の山だ。おまえ相手だからに決まってんじゃん。そう銀時は思ったが、口にしたのはそれではなく。
「おまえ俺には教えてねーじゃん」
「貴様は電話もめーるもめったにせんだろう。面倒だ直接会ったほうが早い、というたちではないか」
「そーゆー問題じゃ、なくてさ」
どういえばいいのだろう。なんであいつが知ってて、俺はダメなの。会いたくなったら隠れ家に行くしかない。それだって、いるかどうかもわからない。緊急時以外かけられない番号だけ教えられたって、こちらからの連絡手段はないのとおなじだ。またおまえになにかあったとき、真っ先にそれを知るのはだれだというのか。生死の知れぬ桂を求めて待つしかないなど、二度と御免だ。
内心の、嫉妬やら怒りやら焦燥やらが渦を巻く。それを見透かしたように、桂は宥めるような口調になった。
「貴様は、だめだ。銀時。なにかの折りにまたどんな迷惑が、子らに掛からぬとも知れん。いま以上の情報はやれぬ」
「あいつらは迷惑かけられたなんて思ってねーよ。あのあとなんでか、酢昆布やらDVDやらCDやら写真集やら高級アイスのギフト券やら、おまえから送られてきたときだって。ものには喜んでたが、なんでいつものように直接持って来ないんだと愚痴ってたぐれぇだからな」
神楽など、それを理由にまた奢らせる、リーダーをなんだと思ってるアルかと、息巻いていた。
「心情の問題ではない」
だがこんなとき、桂はどこまでも冷静だ。端麗な顔立ちが、いっそ小面憎く思えてくる。
「現実に危害が及んだことを云っている」
じっと銀時の目を見ながら話していた桂は、わずかに目を伏せた。
「あの子らの気持ちはありがたいが」
「坂本になら、迷惑かけていいと思ってるわけか」
われながら非道い言い種だと銀時は思った。桂は目線をもどして微笑する。
「あれにはいろいろ、表にも裏にもツテがあるからな。たいがいの危機は手前で回避できる。りすくのないところに、まず進展は望めない。辰馬は商人だ。快援隊とは、たがいの損得ずくを勘定の上で関係が成り立っている」
ああ、いらいらする。訊いているのはそんなことじゃない。
「辰馬個人の話をしてんだよ」
そんな話をしたいんじゃない。
「…厚意に甘えている、とは思う」
「……まあ、あいつも好き好んで、甘えさせてんだろうけど」
「銀時」
「責めてるんじゃねぇ」
自分にそんな資格がないことを銀時は承知していた。おのれの剣が届く範囲を守るしか銀時にはできない。それがしょせんは手前勝手な情理に過ぎぬことも、桂がおとなしくその範疇に納まるような存在でないことも理解していた。していたが、しかし。
坂本と銀時とでは立っている場所が違う。持てるちからが違う。そんなことはわかっている。だがそれをここまであからさまに桂から断言されたことに、衝撃を覚えた。
桂のとなりに在ることは、過去には銀時の強烈な自負であり、いまの銀時にとっては生涯の希みだ。だが桂は。いまの桂は銀時をとなりに置いてはいないのか。見下げているのではない。むしろそれは。坂本の指摘どおりの。
「いつから俺は、おまえの庇護下に入っちゃったわけ?」
思いもよらぬことばを聞かされた態で、桂が銀時を見た。なるほど、坂本は慧眼だ。無自覚なのだ。
「おれは攘夷で手一杯だ。貴様を守るにまで手を回す余力などないが?」
どの口でそれを云うのか。いま、銀時たちの身辺に気を配りながら必要以上の交流を避けようとしているではないか。
「ヅラ」
「ヅラじゃない」
「桂」
「……」
いつものように訂正するまえに呼び直されて、桂は怪訝そうに黙る。
「俺は」
伝えなければ。桂の死を眼前にしたとき、突き上げられた激しい焦燥感と、ともに沸き上がった、あの感覚。あの生々しさを忘れぬうちにちゃんと。でなければ自分はまたその機会を失ってしまう。
あのあとあの浜辺で、おもうさま抱きしめることにはまにあった。まだぜんぜん足りないけれど、ふたたび桂をこの腕に抱くことをゆるされて。それでもまだ云うべきことの半分も告げていない。聞きたいことばを聞けていない。
いったんは決意して、なのに出端をくじかれ、早々に隠れ家が変わる事態に逡巡し、無意識に延ばし延ばしにしているあいだに、坂本が。
ちゃんとことばにし行動に移せるやつはつよい。こと桂に対するに限って、坂本にあって銀時にないのは、そこだった。銀時には甘えがある。云わなくても桂にはわかっている、つねにどこかでそう思っている。いまもそう思う。思うが。それだけではこの腕はもう届かない。つかんで放したくないものに。
となりに立っていたいのだ。となりに立っていてほしいのだ。途は違えようとも、俺は。
銀時は大きく息を吐いて、乾く口唇を舐めた。黙った桂を正面に据える。
「おまえが、好きだ。小太郎」
この年齢(とし)になって、こんなことばを口に乗せることになろうとは。
「大好きだ」
目のまえの桂が、これ以上はないくらい大きく眸を見開いた。
続 2008.03.18.
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おのれの天の邪鬼は棚にあげて、進退に窮した銀時は、紙と筆をまえに、かたまった。書いたところで、桂にまともな天麩羅が揚げられるとは思えない。だいち、あぶない。というか、絶対危険だ。手投げ爆弾なら朝飯前につくる腕だが、こいつは天麩羅鍋を爆発させかねない。
『お手紙なら、出るついでにお届けしますよ。桂さん』
台所をかたし終えたエリザベスが、茶の間の障子を開けて覗いて、助け船を出してきた。
「いや、手紙では」
「ああ、そう? わるいね。じゃあこれ、神楽ちゃんと新八くんに届けてくんない?」
桂の言葉を遮って云いながら、銀時はさらさらと筆を走らせる。いつものごとく新八と新八の姉に神楽を託す内容だから、手慣れたものだった。
「おい、銀時?」
「しょうがねぇな。おめーに天麩羅つくらせるほうが、神楽ひとりにするより危険だっつーの」
書き終えた雁皮紙をたたみ、わざわざ檀紙に包むようなものでもないから省いて、それぞれに直に宛名を書く。立ち上がって銀時は障子端で待つエリザベスに手渡した。
「どういう風の吹き回しか知らねーが、やけに気を回してくれんじゃないの」
小声で告げる銀時に、エリザベスは腹のまえにプラカードを低く出してみせる。桂を憚っての会話のようだ。
『桂さんはずっと貴殿を見舞うか迷っておられた。あの子らを巻き込んだことを心配されていた。しばらくはご自分から万事屋を訪なうことはないだろう』
銀時は、まじまじと目のまえの、白いものの表情のない目を見た。
『先般、坂本さんとの会食に貴殿が現れたことには驚かれたようだが、元気なさまをごらんになって安心されたごようすだった』
あのとき桂は、そんな内心を、おくびにも出さなかったくせに。
『それと、まあ、桂さんの包丁惨事を未然に防いでくれた礼だ』
最後のひとことで銀時を転けさせておいて、手紙を受け取ったエリザベスが玄関口へと向かう。桂が小さな札のようなものを手に、見送りに出てきた。
「エリザベス。これを持て」
「危険はないと思うが、なにか不都合が起きたら必ずおれに連絡するのだぞ」
云いながら、凹凸のない手首らしきところに、札についた紐を巻き付ける。まるで迷子札のようだと銀時は思った。まあ、そもそもがペットなのだから、あながちまちがってはいないのかも知れないが。そのペットの気遣いで、このあとの桂との時間を手に入れたのかと思えば、いささか据わりが悪い。
「それから、すまぬがこれで。途中いつもの和菓子屋になりと寄り、リーダーと新八くんとその姉君になにか手土産を、たのむ」
白いものの掌に、紙幣を握らせた。
おまかせください、桂さん。軽くぺこりと頭を下げて、白いものが発つ。
「なに渡したの。あの手首の」
もどった茶の間にどかりと座り込み、銀時は聞くともなしに聞いた。
「交通安全のお札だ」
桂は優雅に裾を捌いてとなりに座す。
「ああ、以前に事故って入院してたっけ。って、んなもんじゃねーだろ?」
「小型の通信機と発信機とが仕込んである」
「げ」
「先日坂本が、いくつかくれたのでな」
「…あっそ」
たしかに役に立つ男だよな、と口には出さずに銀時は思う。
「それってよ、てめーに持ってろってことじゃねぇの」
「おれ?」
「いや、だからさ。あいつ、おめーに甘いから。心配で。たまには連絡よこせとか、そういう」
ちゃぶ台の茶器の盆に飲み終えた湯呑みをもどしながら、桂は小首を傾げた。
「連絡ならしているぞ。めーるで」
銀時はことばにつまった。
「………なにそれ」
「めーるだ。知らぬのか。電脳空間を用いた飛脚便のようなものだ」
ぺちっ。と桂の額を叩く。
「知っとるわ!そんなこと。そうじゃなくて、ヅラ。おめーバカ本とは頻繁にメールのやりとりしてんの!?」
「ヅラじゃない。桂だ。バカ本じゃなく坂本だ。おれは頻繁にでもないが坂本は筆まめでな。三日を空けず、なんだかんだと送ってくるぞ。どこぞの星の希少な植物の写真だの、かわいらしい生きものの写真だの、付けて。めずらしい食べものなんかは、たいがいあとから実物も届く」
あいつのどこが筆まめだよ。たまに本文と追伸が入れ違いの手紙を送りつけてくるくらいが関の山だ。おまえ相手だからに決まってんじゃん。そう銀時は思ったが、口にしたのはそれではなく。
「おまえ俺には教えてねーじゃん」
「貴様は電話もめーるもめったにせんだろう。面倒だ直接会ったほうが早い、というたちではないか」
「そーゆー問題じゃ、なくてさ」
どういえばいいのだろう。なんであいつが知ってて、俺はダメなの。会いたくなったら隠れ家に行くしかない。それだって、いるかどうかもわからない。緊急時以外かけられない番号だけ教えられたって、こちらからの連絡手段はないのとおなじだ。またおまえになにかあったとき、真っ先にそれを知るのはだれだというのか。生死の知れぬ桂を求めて待つしかないなど、二度と御免だ。
内心の、嫉妬やら怒りやら焦燥やらが渦を巻く。それを見透かしたように、桂は宥めるような口調になった。
「貴様は、だめだ。銀時。なにかの折りにまたどんな迷惑が、子らに掛からぬとも知れん。いま以上の情報はやれぬ」
「あいつらは迷惑かけられたなんて思ってねーよ。あのあとなんでか、酢昆布やらDVDやらCDやら写真集やら高級アイスのギフト券やら、おまえから送られてきたときだって。ものには喜んでたが、なんでいつものように直接持って来ないんだと愚痴ってたぐれぇだからな」
神楽など、それを理由にまた奢らせる、リーダーをなんだと思ってるアルかと、息巻いていた。
「心情の問題ではない」
だがこんなとき、桂はどこまでも冷静だ。端麗な顔立ちが、いっそ小面憎く思えてくる。
「現実に危害が及んだことを云っている」
じっと銀時の目を見ながら話していた桂は、わずかに目を伏せた。
「あの子らの気持ちはありがたいが」
「坂本になら、迷惑かけていいと思ってるわけか」
われながら非道い言い種だと銀時は思った。桂は目線をもどして微笑する。
「あれにはいろいろ、表にも裏にもツテがあるからな。たいがいの危機は手前で回避できる。りすくのないところに、まず進展は望めない。辰馬は商人だ。快援隊とは、たがいの損得ずくを勘定の上で関係が成り立っている」
ああ、いらいらする。訊いているのはそんなことじゃない。
「辰馬個人の話をしてんだよ」
そんな話をしたいんじゃない。
「…厚意に甘えている、とは思う」
「……まあ、あいつも好き好んで、甘えさせてんだろうけど」
「銀時」
「責めてるんじゃねぇ」
自分にそんな資格がないことを銀時は承知していた。おのれの剣が届く範囲を守るしか銀時にはできない。それがしょせんは手前勝手な情理に過ぎぬことも、桂がおとなしくその範疇に納まるような存在でないことも理解していた。していたが、しかし。
坂本と銀時とでは立っている場所が違う。持てるちからが違う。そんなことはわかっている。だがそれをここまであからさまに桂から断言されたことに、衝撃を覚えた。
桂のとなりに在ることは、過去には銀時の強烈な自負であり、いまの銀時にとっては生涯の希みだ。だが桂は。いまの桂は銀時をとなりに置いてはいないのか。見下げているのではない。むしろそれは。坂本の指摘どおりの。
「いつから俺は、おまえの庇護下に入っちゃったわけ?」
思いもよらぬことばを聞かされた態で、桂が銀時を見た。なるほど、坂本は慧眼だ。無自覚なのだ。
「おれは攘夷で手一杯だ。貴様を守るにまで手を回す余力などないが?」
どの口でそれを云うのか。いま、銀時たちの身辺に気を配りながら必要以上の交流を避けようとしているではないか。
「ヅラ」
「ヅラじゃない」
「桂」
「……」
いつものように訂正するまえに呼び直されて、桂は怪訝そうに黙る。
「俺は」
伝えなければ。桂の死を眼前にしたとき、突き上げられた激しい焦燥感と、ともに沸き上がった、あの感覚。あの生々しさを忘れぬうちにちゃんと。でなければ自分はまたその機会を失ってしまう。
あのあとあの浜辺で、おもうさま抱きしめることにはまにあった。まだぜんぜん足りないけれど、ふたたび桂をこの腕に抱くことをゆるされて。それでもまだ云うべきことの半分も告げていない。聞きたいことばを聞けていない。
いったんは決意して、なのに出端をくじかれ、早々に隠れ家が変わる事態に逡巡し、無意識に延ばし延ばしにしているあいだに、坂本が。
ちゃんとことばにし行動に移せるやつはつよい。こと桂に対するに限って、坂本にあって銀時にないのは、そこだった。銀時には甘えがある。云わなくても桂にはわかっている、つねにどこかでそう思っている。いまもそう思う。思うが。それだけではこの腕はもう届かない。つかんで放したくないものに。
となりに立っていたいのだ。となりに立っていてほしいのだ。途は違えようとも、俺は。
銀時は大きく息を吐いて、乾く口唇を舐めた。黙った桂を正面に据える。
「おまえが、好きだ。小太郎」
この年齢(とし)になって、こんなことばを口に乗せることになろうとは。
「大好きだ」
目のまえの桂が、これ以上はないくらい大きく眸を見開いた。
続 2008.03.18.
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