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「天涯の遊子」銀桂篇。全4回。
銀時と桂。
紅桜以降、雪まつりよりまえ。
微エロあり、注意。R18 相当。



 桂の小さく開かれた口唇がなにか云おうとして、けれどことばにならない。それをはっきりと聞きたいくせに、銀時は耳を塞いでしまいたい衝動に駆られた。桂はぽかんと小さく口を開けたまま、瞬きもせずに銀時をただ見つめている。銀時もまた、目を閉じ耳を塞ぎたい気持ちをねじ伏せて、桂を見つめつづけた。
 端から見れば、告白というよりは睨みあいにちかい。というか、がまん比べの睨めっこだ。さきに音を上げたのは、やはり銀時のほうだった。
「…なんか、云えよ。このやろー」
ぽつりと切り出して、一気にまくし立てる。
「ひとが、せっかく、死ぬ気で。一世一代の、恥ずかしいまね、してんのに。なんもなしですか、このやろー。なにかひとことくらい、あるでしょーが」
 ぽかんと口を開けていた桂が、ぽかんとした表情のままでつぶやいた。
「恥ずかしいまねなのか?」
「…は?」
「おれを好きだというのは、恥ずかしいことなのか?」
 そこ? なんでそこ? ああ、いや。いかんいかん。相手は桂なのだ。 
「いやだからそうじゃなくて。好きなのは恥ずかしくないけど、好きとことばにするのが恥ずかしいというか。いい歳こいて、おとこがおとこに云うせりふじゃないというか」
 桂が小首を傾げて、からだまでやや斜めに傾ぐ。…かわいい。くそ。
「ああ、だからもう!いいかげん、わかれよ。てか、わかってんだろうが!」
 ぜいぜい。はあはあ。声を荒げて、ついでに息も荒くして、銀時はことばを切った。もういっぺん、死ぬおもいで紡ぐ、ことば。
「だいすき、なんだ」
いますぐ、床下に穴を掘って潜り込みたい気分だった。

 桂は、ようやくことばが腑に落ちたとでもいうように、ひとりでうなずいている。
「うん」
幼子のようなあどけない口調でまたうなずいて、破顔一笑。
「知ってた」
おっとりと、云いながら銀時の顔に手を伸べた。

 銀時の頬を、桂の長い指が掌が、包み込むように触れる。しっかりとつかんで間近に顔を寄せてきた。じっと眸を見る。漆黒の双眸におのれのふたつの紅(あか)が混じった。
「…知ってた?」
「うん」
「やっぱ、わかってた?」
「うん」
「それで? それだけ?」
おとなしく桂にされるままになりながら、銀時はじっと黒と紅の交わりを見続けている。その黒がじわりと滲むように流れて、一瞬だけ紅を溶かした。ほんとうに刹那の。それだけでも銀時には充分だったが。
「小太郎」
「うん」
「云って」
「………」
「云え」
「やだ」
「…………てめーなぁ」
 くすり、桂が笑った。子どもそのままの笑顔で。
 おのれも充分にガキくさい、自覚しつつ、もうこの際には銀時もかまってなどいられない。こんな恥ずかしいまね二度とできない。たぶん、おたがいに。だからいましか聞けないから。
「うそ」
「なにが」
「銀」
「うん」
「だいすき」
「………」
じんわりと、銀時の胸にひろがるものがある。
「…もういっぺん、云って」
「知ってたろ?」
「知らない」
そんな自信はなかった。むかしから。もうずっと。せつなくて。いつだって。そう思いたかっただけで、確信など持てた例しはいちどだってないのだから。
「俺は三べん、云った」
子どもの喧嘩だ。桂はまた笑って、両腕で銀時のあたまを抱え寄せた。
「好きだよ。銀時。大好きだ」


 十代の入口で初めて触れあわせた口唇や、その何年かのあと無我夢中で肌を合わせたときにも。こんなふうにはおたがい云えなかった。おもうよりさきにずっと傍にいて、云う必要もないと思っていたから、あらためてちゃんとたしかめたくなったときには、もう聞ける雰囲気ではなくなっていた。
「辰馬より?」
「…莫迦もの」
「晋助より?」
「銀」
「応えられない?」
 たがいにたがいを抱きしめて、触れるだけの口接けを繰り返す。そのあいまあいまに吐息がかさなるほどの距離で、囁くようにことばを交わした。
「…そうじゃない。くらべられない」
「でも、俺がいちばん好きだろう?」
「うん」
 好きなのは俺で、たいせつなのは高杉で、必要なのは坂本か。なんてやつ。絞め殺してやりたい。
 殺されるのはいやだな。けど銀といっしょに闘って死ぬならかまわぬよ。

 ふたり、草深い故郷にいた時分に帰ったような感覚のままの、淡く仄かな交わりと拙いことばは、しだいに熱を帯びてそのまま睦言へと変わる。
 まだ西陽にさえ変わらぬ陽光が木洩れ日となって、わずかに差し込むばかりの昼日中。部屋のほの暗さにこんどは感謝しながら、ゆるめた着物のあいだから桂の素肌を倦かず探った。桂もいつになく、銀時の肌に筋肉に触れてくる。ほどなく露わになった半身の、おたがいの肌に真新しく残る薄く色づいた線状の盛り上がりは、一直線の桂のものにくらべ、銀時のそれは千路に乱れて数も多い。
 戦時からのくせで、銀時が桂の傷痕に舌を這わせて舐めると、桂も食むように口接けながら舌先で、疵痕をくすぐってきた。丹念に、その一条一条を癒すように辿る。銀時は陶然としてその感触に酔った。

 桂のからだで銀時の指の、口唇の、触れていない箇所はない。桂のぜんぶに触りたかったしすべてを自分のものにしたかった。だから知らない傷が増えれば、銀時は必ずそこを愛撫した。見知らぬ何者かにつけられた傷を許せずおのれのつけたものとするかのような、それは欺瞞と独占欲に満ちた行為だった。
 かつて銀時が求めれば、桂はたいがいのことはさせてくれたし、してもくれた。けれどそれは銀時が望むからであって、桂がみずから望んですることなど稀だったといっていい。なおさらに銀時は求めた。せつなさを埋めるすべを、ほかに知らなかった。

 いま桂がおのれの疵痕に触れてくるその感覚は、求めた行為への応えではなく、告げたおもいを告げられるに似て、それゆえに銀時を幸福にする。
 疵痕を辿っていたはずの口唇が、ふいに銀時の耳許を掠めた。閉じていた眸を反射的に開けると、桂の掌がそれを覆って隠した。濡れた口唇が囁く。
 ぎん。そのまま。あけたら、してやらない。 なにを? くすくすくす。
 音だけで笑って、銀時の目を覆ったまま、口唇で口唇に触れてくる。触れ合わさるかの距離のままで、桂はことばを紡いだ。
 ぎんときの、うれしいこと。
 うわっ、と銀時は思った。云うなり桂の手が、銀時の目を手拭いで押さえて縛ったからだ。仄かに蕎麦の香りがする。台所で姉さん被りをしていた桂の姿が思い浮かんだ。
 桂の指先はそのまま銀時の頬を辿り、顎から首筋を伝って、鎖骨のくぼみをかたちどる。ふたたび疵痕へと辿り着くと、その指先を追って口唇が降りてきた。隆起の線上をくすぐる舌先があちらへこちらへと彷徨うあいだ、指先は締まった腹を探り、銀時は全身の血が沸き立つのを覚えた。
 ぞくりとした震えがからだの芯を走る。あたまに熱が昇る。沸点を超えた血流が瞬く間に一点に集中するのがわかる。やばい。こいつ、マジだ。
「う……くっ」
 もうすこしこっち? 囁く声で訊ねて、なぶる。そこここを甘嚼みされる。歯を立てない程度に、だがしっかりとその存在を焼き付けてゆく。視界を奪われて鋭敏になった感覚が、快感をいや増させた。そんな状態で弱い部分ばかりを攻められるのだからたまらない。銀時がくまなく桂のからだを知るほどには及ばなくとも、桂もまた、だれより銀時の脈所は心得ているのだと思い知らされる羽目になった。
 甘くやわらかな口唇と舌先と、しなやかな指の腹。爪の先。銀時の陰りから雄々しく天空に向かう脈動を、桂は意のままに操る。湿った熱に包まれ、怺えようとして怺えきれない呻きが、銀時の口の端からこぼれ落ちる。
「かつ…ら」
たまらずに、髪をつかんだ。長いときのようには指先に巻き付かない。桂はかまわず、おそらくは意図的に濡れた音をさせて、銀時を扇情しつづけた。
 長くは持たなかった。このままずっとずっと引き延ばしたいほどの悦楽と、一刻も早く絶頂を極め達したい欲求とが、激しくせめぎあうなか、銀時は桂に翻弄されるままに、腰を震わせていた。

「この、や、ろー…」
 乱れる息を懸命に押し隠して、銀時が唸る。傍らで桂の気配が笑っている。全裸に剥かれた銀時の胸もとに掌が触れて、滑るように桂の全身がかさなってきた。乱れてはいるが、桂はまだ襦袢を纏っているようだ。くそぅ。これじゃ立場が逆じゃないか。
 銀時の顔の両脇に桂の肘が触れた。ようやく、手拭いの目隠しから解放される。開いた視界の至近に、桂の艶麗な微笑があった。銀時はひと睨みして、
「返す」
ひとこと云い放つや、桂の腰を抱いてくるりと体(たい)を入れ替える。
 畳に、わずかに黒髪が散る。その量にもの足りなさを覚えながら、銀時は桂の襦袢を剥ぎ取るように、腰から下肢を抱えあげた。
 



続   2008.03.18.



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草紙屋

おかいものかご 通販受付中

書店委託 サークルページ直通

次回参加イベント未定


◎寄稿
▽ 銀魂
コタ誕2 記念アンソロジー
桂総受けマイナーCPアンソロジー 桂独占禁止法

【頒布終了】発行日順
▼ 銀魂
坂桂アンソロ・宇宙☆キャプテン/『際涯』
高桂個人誌・花よりほかに知るひともなし/『切情』
銀桂小説アンソロジー・協奏曲/『闇照らす』
▼ OO
刹&ティエ・Star★Line 記念アンソロジー/『瞬きの間にひとは過ぎゆき』 さんぷる

 

銀)ものがたり

天涯の遊子 てんがいのゆうし
( )は主要登場人物
■ □:本篇  ◆ ◇:過去篇
● ○:番外篇  ★:番外桂誕2008

◎ 栞(はじめの手引)
■ 金平糖・上・中・下(銀.桂.高)
■ 遊興・1・2・3・4(坂.桂)
■ 火影・上・中・下(高.桂)
□ 蒸し羊羹(銀.桂.新.神.高)
■ 仮寝・1・2・3・4(土.桂)
□ 微酔・前・後(銀.桂)
■ 雪白・1・2・3・4(沖.桂.銀.土)
□ 源平梅(高.桂)
□ 夜の猫(銀.桂)
■ 星月夜・上・中・下(銀.桂)
□ 桜狩(高.桂)
■ 揺籃・1・2・3・4(坂.桂.銀.高.陸)
■ 藪入り・1・2・3・4(銀.桂.エリ)
■ 陽炎・1・2・3・4(土.桂.銀.近)
■ 水際・上・中・下(高.桂.万.坂)
■ 弦月・1・2・3・4(銀.桂.新.神.坂)
□ 菖蒲湯(高.桂.銀)
■ 落陽・上・中・下(沖.桂.銀)
★ 小憩・上・中・下(坂.桂.エリ)
■ 白皙・1・2・3・4・5・6・7(土.桂.高.山.沖.銀.ほか)
◇ 払暁・前・後(子銀.子桂.子高.松)
○ 昔鏡・前・後(銀.桂.土)
□ 萩の影(高.桂)
★ 表裏・上・中・下(高.桂.エリ.坂.万)
★ 白白・上・中・下(銀.桂.エリ.坂)
◇ 曙光・前・後(子銀.子桂.子高.松)
■ 朧・1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13・14(銀.桂.土.新.神.長.沖.近.ほか)
■ 虜囚・上・中・下(高.桂.万)
□ 星合(○○.桂)
● まほろば・1・2・3・4・5(銀.桂.白)
□ 隻影(高.桂)
□ 叢雲(銀.桂.土)
■ 架橋・上・中・下(坂.桂)
◇ 昇日(子銀.子桂.松)
■ 幻燈・前・後(土.桂.沖)

 

銀)あなざぁ

燎原に雪 りょうげんにゆき
*金魂・ガヤガヤ箱設定 連載

(晋.小太(ズラ子).金.辰.万)
■ 壱-1-2-3・弐

一口話 ひとくちばなし
*設定外の突発短篇など

□ 鈍色(高.桂.銀)
□ 百八つ(銀.桂)
□ えりづら(エリ.桂)無配再録
▼ 二十万打御礼リク集
○ ひきがね(土.桂)
○ 深酔い(土.桂)
○ 夜行・前・後(沖.桂.銀)
○ 以心伝心(銀.桂)
○ 便りなし(銀.桂.神)
○ 叢雲(銀.桂.土)天涯の遊子
○ お猫さま・前・後(坂.桂.銀)
○ 錦上に花(土.桂.銀)
○ 遥遠(高.桂.万.また.武)

 

だぶるおー

Armed angel 武装天使
(ニル.ティエ.刹.アレ.リジェ)
■:幕前 □:一期 ◆:幕間 ◇:二期 ●:幕後 ○:劇場版 ⊿:以降
◎ 00栞(はじめの手引)
■ 遊泳する紫黒 オフ収録
■ 天、落ちて・1 全6回オフ収録
■ 容喙 - Don't meddle with us.・1 全3回オフ収録
□ Caress・1 全3回オフ収録
□ 孤影を擁く・前 全2回オフ収録
□ 昔日の残花・1 全3回オフ収録
□ いつかのあの日・1 全8回オフ収録
□ 翻る揺り籃・1 全5回オフ収録
□ その手を伸べて・1 全7回オフ収録
□ Lost halcyon …・1 全3回オフ収録
◆ 天使は瞑目する オフ収録
◆ 乖離 〜天使の食卓・1 全4回オフ収録
◆ Cemetery rain・前 全2回オフ収録
◇ Affection・1 全4回オフ収録
◇ Two phase オフ収録
◆◇ Beyond・1 全5回オフ収録
◇ 夜に踊る・1 全4回オフ収録
◇ 光は淡き・1 全4回オフ収録
◇ いまふたたびの・1 全7回オフ収録
◇ 月満ちて時は欠け・1 全5回オフ収録
◇ 果てはなくとも・1 全6回オフ収録
● Mutual love・1・2・3
● Tieria・1・2・3
● Double exposure・1・2・3・4
● 漣は遠くちかく・1 以降オフ収録

  +++++
番外 Armed angel 武装天使
□ Voice to fascinate オフ収録

 

ヴヴヴ

VVV ドルシアサイド/アドエル
(エルエルフ.アードライ.ハーノイン.イクスアイン.クーフィア.カイン.クリムヒルト.カーツベルフ)
◎ オフ本のサンプル
■ ヒカリノアリカ 導入部
■ コノテノナカニ 導入部
◎ 無配とか書きおろしとか
◆ Natürliches tägliches Leben
◇ Vor einer Strategie

 

書簡


お礼画面は気儘更新

 

筆者

別号:
かる
・・・
根っからの創作畑
なので続くか?消えるか?
の無計画出向

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